・11.4. 電磁過敏症について
電気・電子産業の発達により、電磁界(EMF: Electromagnetic Fields)の発生源の数と種類はかなり増加しました。
こうした発生源には、電気毛布、電気カーペット、ヘアドライヤー、電気掃除機、コンピュータのディスプレイ装置などの家電製品、電気を動力源とする鉄道、医療機器、送電線や配電線や変電所などの電力設備、電子タグや IC カードの読み取り装置、携帯電話とその基地局などが含まれます。
電磁界とは、電流が流れている電線などのまわりに発生する「電界」と「磁界」が組み合わされたものです。
電磁波とは、電界と磁界が交互に発生しながら空間を伝わっていく波のことです。
電磁界には、体内に電界を生じて閃光などを感じさせる「刺激作用」と生体組織中で温度を上昇させる「熱作用」があります。
電子レンジが食品を加熱するのは、この熱作用の原理を応用しています。
日常生活で電磁界にばく露される機会が増えていることを背景に、刺激作用や熱作用を生じるよりもはるかに低いレベルの電磁界にばく露されることにより、皮膚症状(発赤、チクチク感、灼熱感)、神経衰弱性及び自律神経系の症状(疲労、疲労感、集中困難、めまい、吐き気、動悸、消化不良)等の不特定症状を生じる、いわゆる「電磁過敏症(EHS: Electromagnetic Hypersensitivity)」(電磁波過敏症)を訴える人たちが報告されています。
電磁過敏症は、本態性環境不耐症の1つと考えられています。
電磁界に起因する本態性環境不耐症(IEI-EMF: Idiopathic Environmental Intolerance attributed to Electromagnetic Fields)とも呼ばれています。
通常であれば許容できるレベルの電磁界に対して不耐性を示し、軽い症状では、できる限り電磁界を避けることで対応されていますが、影響が深刻なため仕事を辞めて生活スタイル全体を変えている場合もあります。
WHO は、2005 年(平成 17 年)に電磁過敏症に関する「ファクトシート(概況報告書)No.296」を公表しました。
WHO は、2004 年 10 月に電磁過敏症に関する国際ワークショップをプラハで開催しており、ここでの結論がファクトシートに反映されています。
このファクトシートでは、電磁界ばく露の条件を十分制御した多くの実験において、電磁過敏症を訴える人たちが電磁界ばく露を検知できなかったこと、同様にばく露条件を十分制御した二重盲検法の実験において、電磁過敏症の症状と電磁界ばく露の関連性が示されなかったことなどから、電磁過敏症を訴える人たちが体験する症状は、蛍光灯のちらつきやディスプレイ装置の眩しさ等の視覚問題、人間工学的配慮を欠いたコンピュータ作業、劣悪な室内空気質、職場や生活環境のストレスなど、電磁界とは無関係の環境因子で生じている可能性を指摘しています。
また、電磁過敏症を訴える人たちの症状は、電磁界ばく露そのものではなく、以前から存在する精神医学的状態や、電磁界の健康影響を恐れる結果としてのストレス反応(いわゆるノセボ効果)によるものかもしれないと指摘しています。
これらの結果も踏まえ、このファクトシートでは、「電磁過敏症は、人によって異なる多様な非特異的症状が特徴である。それぞれの症状は確かに現実のものではあるが、それらの重症度の変化は幅広い。電磁過敏症は、その原因が何であれ、影響を受けている人にとっては日常生活に支障をきたすほどの問題となり得る。電磁過敏症には明確な診断基準がなく、電磁過敏症の症状を電磁界ばく露と結び付ける科学的根拠はない。電磁過敏症は医学的診断でもなければ、単一の医学的問題を表しているかどうかも不明である。」と報告しています。
そのうえで、臨床医に対しては、影響を受ける人々に対する処置は、症状と臨床像に焦点をあてるべきであり、職場や家庭における電磁界の低減や除去を求める認知上の要求に焦点をあてるべきではないと勧告しています。
また、医師と患者の間に効果的な関係を確立し、患者の状況に対処するための方策の立案を援助し、患者が職場復帰して通常の社会生活を送れるよう促すことを処置の目標とすべきと勧告しています。
各国政府に対しては、政府は電磁過敏症の人々、医療従事者、雇用者に対して電磁界の潜在的な健康への有害性に関して、適切に的を絞りバランスのとれた情報を提供すべきであり、その情報には、電磁過敏症と電磁界ばく露を結びつける科学的根拠は現在までのところ存在しないという明確な声明を含めるべきと勧告しています。
WHO のファクトシート公表後も、電磁過敏症と電磁界ばく露との関係については、電磁過敏症の誘発研究や症状との関係、携帯電話基地局からの電磁界ばく露と健康影響との関係などについて、系統的レビューの調査論文が公表されましたが、いずれも否定的な調査結果となっています。
また、欧州科学技術研究協力機構(COST: Cooperation in Science and Technology)が 2011 年、英国保健保護庁(HPA:Health Protection Agency)の非電離放射線に関する諮問グループが 2012 年、スイス連邦環境局(BAFU: Bundesamt fur Umwelt)が 2012 年、スウェーデン労働生活・社会研究評議会(FAS: SwedishCouncil for Working Life and Social Research)が2012 年、ノルウェー公衆衛生研究所(Folkehelseinstituttet)が 2012 年にWHO のファクトシートと同様の見解を公表しています。
電磁過敏症を確認するための基準は、MCS よりもさらに研究者間で著しく異質の状況にあります。
従って、研究目的だけでなく、診療面で利用するためにも、コンセンサスのある疾患概念や診断基準を作成する必要があるとされています。
2004 年にプラハで開催された WHO の電磁過敏症に関する国際ワークショップでは、ワーキンググループレポートとして各国の政府は本態性環境不耐症を呈する人たちが本当に症状に苦しんでいることを無視すべきではないと報告書に記載しています。
このワークショップの報告書では、「現在までのところ、電磁界ばく露と電磁過敏症を結びつける科学的根拠はないが、政府は本態性環境不耐症を呈する人たちの症状が実在することに留意すべきであり、新しい技術で問題を未然に防止し、適切なリスクコミュニケーションを実施し、バランスのとれた情報を提供し、関連する課題に関する対話を促進すべき」と報告しています。
runより:ファクトシート296は翻訳した人が電磁過敏症を認めたくない為悪意に満ちた翻訳だと感じています。
ワーキンググループレポートは実在すると認めており今後に期待しています。