・10.6.2. 幼稚園、小学校、中学校、高等学校の場合
学校では養護教員、学生の保健管理担当の部署の担当者はもちろん、学校の管理者はシックハウス症候群の原因と症状について特に深い理解をしておく必要があります。
周囲の無理解が症状を悪化させ、新たな症状を引き起こすこともあり、少なくとも発症者に対しては担当者を決めてメンタル面のサポートを粘り強く続けなければ、職場や学校からの離脱など不幸な結果を招くこともあります。
シックハウス症候群に限ることではありませんが、小学校の低学年では自分の症状をうまく伝えられないこともあり、担任の教員は常に子供たちの体調に注意を向けていることが求められます。
欠席についてはその原因を把握することは基本的なことですが、学校に登校、出席できていても、行動が消極的になる、元気がない、根気が続かない、成績が急に振るわなくなるなど、何らかの異変があった場合には本人からじっくりと話を聞くことも必要でしょう。
本人自身が自らの症状の原因が建物と気づいていない場合もあります。第 10 章 2 節のチェックシートを参考にしながら、本人、場合によっては保護者も含め、十分な聴き取りの機会も持ちましょう。
シックハウス症候群が疑われた場合は原因の除去に向けて行動を始めますが、本書でも繰り返し触れている様々な相談機関を利用しつつ、解決を図ります。
本人の訴えとシックハウス症候群を発症させている状況の改善に向けて対策を行うことが本人の気持ちを安定させることにつながります。
一般にシックハウス症候群では対策がうまく行き、原因を取り除くことができれば症状は快方に向かいます。
しかし、症状が原因で子供たちの間で仲間はずれ、いじめなどの問題が新たに生まれることもあり、建物への対策を進める一方で発症した児童生徒の状況を注意深く観察し、症状以外に新たに発生した問題への対応も怠ることはできません。
これらシックハウス症候群発症に関わって発生する問題から本人に心の問題が生まれることも十分にある得ることを念頭に、保護者との連絡を密にしつつ、本人の気持ちに寄り添ったケアも必要になります。
10.6.3. 大学、専門学校などの場合
学生はかなりの部分がすでに成人となっています。
校舎、教室、講義室などでシックハウス症候群ではないかと学生が気づいた場合に相談先となるのは、担当教員、保健管理センター、学生相談室などの名称を持つ健康管理や相談対応部門になります。
シックハウス症状を訴える学生にメンタルヘルス上の問題として現れるのは、シックハウス症候群によって勉学が思うようにできない、就職など将来への不安を感じるというものが多いと思われます。
上記と同様、シックハウス症候群の原因を除去する努力をする一方で、学生には十分な面接の機会を持ち、本人の気持ちを話してもらうことが、気持ちを落ち着けることにつながり、その後うつ症状に発展するなどの事態回避につながります。
最近は学生のメンタルヘルスサポートを重視する大学も少なくなく、臨床心理士などの専門職との契約があれば、その力も大いに利用することが必要です。
10.6.4. 職場の場合
様々な原因で発生するシックハウス症候群は、もともと個人の住宅での発生を念頭に置いたものです。
わが国では建築物衛生基準により室内の二酸化炭素濃度が 1000ppm を超えてはならないとされ、これにより換気が促され、我が国のビルではオイルショック後のシックビルディング症候群は欧米ほどの問題にはなりませんでした。
しかし、それでも少数ながらオフィスなどの職場になっている建物でのシックハウス症候群の発生は続いています。
学校での発生でも同様ですが、少数の発症者に対しては、職場の無理解から怠け病などの陰口がささやかれることもあります。
このような声がさらに症状を強くすることになり、難治性の不定愁訴が続いてしまうようになると、長期的なケアが必要になります。
10.6.5. 産業保健スタッフがいる事業所では
産業医、産業看護職などの産業保健スタッフがいる職場ではまずは症状に気づいた本人が相談することになりますが、症状の原因を明らかにして、早期の対策に努めることが何より必要です。
対策のところでも述べましたが、化学物質の濃度など客観的な指標などで、誰の目にも明らかな形で対策が進むとは限りません。
問題となる部屋で症状が出ることが明らかになっている場合でも原因がはっきりせず、結局その部屋に立ち入ることを避けるしかなかったという事例も報告されています。
対策が進まず、症状がなかなか治まらなくなるにしたがって本人の精神的な負担が大きくなり、メンタル面のサポートの重要性が高くなります。常勤の産業医又は産業看護職がいる規模の事業所であれば、これらの専門職は本人と密に連絡とる、面接を行うなどして症状の内容、その頻度と程度の強さ、職務への支障の有無などについて把握する必要があります。
オフィス労働の場合が多いと思われますが、普段の職場の人間関係が良好でシックハウス症候群へ理解があれば、様々な形でサポートすることが可能ですので、職場の管理監督者と相談の上、症状の推移を見ながら、可能であれば職務内容や作業場所の調整を図ります。
しかし、一般には職場が本人に支持的な対応をするとは限りません。
シックハウス症候群では典型的な症状とその原因が眼に見える形で存在していれば、対応は比較的簡単に進めることができますが、症状が典型的でなく、また、原因も明確とは言えない場合、本人が症状を訴える度に孤立感を深めてしまうこともあるでしょう。
産業保健スタッフは、メンタルヘルスの対策として管理監督者への支援依頼、メンタルヘルスに対応する医療機関へ受診も視野に入れながら、本人のサポートに努めます。
このような努力を発症者にもよくわかるように進めることが重要です。
10.6.6. 産業保健スタッフの支援が困難な場合(独)労働者健康福祉機構は平成 26 年度から窓口一元化を打ち出し、産業保健に関わる様々な相談にワンストップで対応するとしています事業所内のメンタルヘルスについても相談の対象になりますので、事業所内の室内空気に関する問題とともに、相談することができます。
ただし、あらかじめサービス内容について確認の上、限られた相談時間、相談回数を十分に活かして、効果を上げられるような検討をしておくよう留意する必要があります。