6.3. 換気の重要性
ここでは住宅を対象とした気密性と換気について述べます。
6.3.1. 気密化の目的
気密性能とは、その建物がどの程度気密であるか、またはどの程度隙間があるかを示す住宅 性能の 1 つです。近年、新築住宅の気密性能は格段に向上してきていますが、気密化の目的を 示せば以下のとおりになります。
1) 隙間風の防止による快適性の向上 2) 隙間風による暖冷房負荷の低減 3) 壁体内部での結露の防止
4) 設計で意図した換気性能の確保
上記の 1)、2)の目的に関して特に異論はないと思います。3)の壁体内結露とは、暖房時 に室内側から侵入する水蒸気が壁体内で冷えて水滴となることです。
その結果、断熱材によっ ては水分を含んでしまい性能が低下したり、断熱材が重くなって下の方にずれたり、木材が湿 気を含んで腐朽する可能性がでてくるので、これは避けなければいけません。
しかしながら壁 の中での現象であり外からは見えませんので、内部結露の防止策を施工の段階でしっかりと施 す必要があります。
それが防湿層の設置です。隙間をなくすための気密層は、防湿層の役割も 兼ねていますので、壁体内結露の防止のために気密化が重要になります。
4)についてですが、 気密性能が十分に確保されない場合には、設計時に意図したとおりに室内での空気の通り道 (換気経路)が確保されず、そのために十分に換気されない空間がでてくる可能性が生じます。
1992 年に改正された住宅に係わる省エネルギー基準(住宅に係るエネルギーの使用の合理化 に関する建築主及び特定建築物の所有者の判断の基準(1992 年に改正されたものを通称「新省 エネルギー基準」と呼ぶ))では気密性能に関する規定が盛り込まれ、地域区分I(北海道) では気密住宅(床面積当たりの相当隙間面積(以下、隙間面積と略称する)が 5 cm²/m²以下)と すること、地域区分II(青森県、秋田県、岩手県)では気密住宅とするよう努めるものとする こと、とされました。
また、その後の新築住宅における断熱・気密化の高まりや、地球温暖化 問題などを背景に 1999 年に改正された通称「次世代省エネルギー基準」では、日本全国一律に 気密住宅とすること、すなわち隙間面積を 5cm2/m2 以下とすること、地域区分I、IIでは 2cm2/m2 以下とすること、が盛り込まれています。
また、住宅の気密性能に関する評定制度が一 般社団法人住宅・建築省エネルギー機構で 1992 年度より開始され、気密住宅として認められた 工法は 1999 年 8 月までで 93 件となっています。なお、この制度は 1999 年で終了しています。
現実の新築住宅において寒冷な地域では隙間面積が 1cm2/m2 を下回ることは珍しいことでは なく、工務店や住宅メーカーの一部では気密化の技術を工夫して、いかに小数点以下の小さな 値が出るかを競っているところもあります。
どの程度の気密性能が要求されるべきかについては、現実の環境条件の下で設計の意図どお りに換気が行われるかどうかで判断する必要がありますが、寒冷地では換気システムにもより ますが 1cm2/m2 もあれば十分だと考えます。なお、2010 年 4 月の住宅の省エネルギー基準の改 正によって、気密性能に関する規定が削除されました。
これは、新築住宅の気密性能が全般的 に高まっていることが背景にあります。
6.3.2. 換気・空調設備 a. 必要換気量
換気計画とは、必要な換気量を必要な場所に供給するための換気システムを建物全体として 計画することです。そのためには必要換気量を決定することがまず必要です。
必要換気量は、人体に影響の無いレベル、すなわち許容濃度と汚染物質の発生量が明らかで あれば算出できます。
しかしながら、許容濃度と汚染物質発生量の両方が明らかになっている 物質は極めて少ないのが現状です。主な汚染物質の許容濃度に関しては、空気調和・衛生工学 会の換気規格 1)の中に表 6.3.1.のようにまとめられています。同表の下欄には、ホルムアルデ ヒドと TVOC の値が示されています。しかし、これらの物質の発生量データは十分でないため 個々の物質に対する必要換気量を求めることは現状では不可能です。そこで室内の空気質の総 合的な指標である CO2 の許容値である 1,000 ppm を根拠として算定しますが、その場合には 1 人当たり 20~30m3/h が必要換気量になります。
また、シックハウス防除のために改正された建築基準法では、住宅等の居室における必要換 気量は換気回数で原則として 0.5 回と規定されています。
b. 換気方式
換気方式としては、送風機を用いる第 1 種、第 2 種、第 3 種の機械換気と送風機を用いない パッシブ換気があります。第 1 種機械換気は外気を供給するための給気機と室内空気を排出す る排気機の両方を備えたシステムで強制給排気システムとも呼んでいます。ダクトを利用し、 熱交換機を組み込んで空気を分配する例が多く、寒冷地では普及が進んでいます。第 2 種は給 気機のみで換気口から室内空気を排出する方式ですが、室内の方が外気よりも圧力が高く湿気 が壁体の中に侵入し内部結露の発生する可能性が高いので住宅には殆んど利用されていません。 第 3 種は排気機のみを、外壁に設けた給気口から外気を導入するシステムで集中強制排気シス テムとも呼びますが、最も普及しているタイプです。
外気を壁から直接導入するので、冬季は 快適性を損なう恐れがあるので、給気口の形状、位置を工夫する必要があります。放熱器の脇 に給気口を設けて余熱する方法もあります。
ただし、気密性能が十分ではない住宅では、外気 温度が低く浮力効果が大きいときに 2 階の外壁に設けた給気口から外気が十分導入されず、換 気不足となる場合があります。
パッシブ換気は排気筒を設けた自然換気システムであり、送風機を用いずに室内外の温度差
による浮力効果を利用して換気を行うシステムです。
ただし、建築基準法では機械換気の設置
が義務付けられていますので、パッシブ換気だけでは建築許可が下りません。実際には機械換
気も併設し運用するときに使い分けるようにしています。
寒冷地では、第 3 種機械換気やパッシブ換気の場合に、予熱のために外気を直接室内に導入 しないで床下を経由させたり、地中のパイプを通したりする例もありますが、その際には床下 の空間やパイプの中で汚染の発生がないような処置が必要です。
c. 換気経路
換気経路とは、屋外からどの部屋に外気を取り入れ、その外気をどのように各スペースに経 由させ、室内の空気をどこから排気するかという空気の通る道筋のことです。基本的には、汚 染物質や臭い、水蒸気、熱などの発生が少ない居間、寝室などの居室に外気を導入し、それら の発生が多い空間、すなわち台所、浴室、便所などから排気します。
また、結露防止やシック ハウス防止のために押入などの収納スペースにも空気が通っていくように換気経路を考える必 要もあります。床下空間からの汚染の室内への侵入が心配される場合には居室の空気を床下に 導き、床下空間に設けた排気口から直接、外に排出するという方法も有効です。換気経路に従 って空気が流れるためには最初に述べたように気密性能を確保することが重要です。
d. 厨房の換気
厨房用の必要換気量は建築基準法に則り調理用の燃焼器具の容量に応じて算出されますが、 その値は 300~400m3/h となります。
この値は他のスペースの必要換気量に比べて圧倒的に大き いので、厨房換気扇を運転した場合には厨房以外の部屋の温熱快適性を損なう可能性がありま す。
また、運転時は室内圧が低下しますので暖房用の半密閉型燃焼器具(部屋の空気を燃焼の ために使用し、排気ガスをパイプで直接外部に排出するタイプで、浮力により換気される)か らの逆流が起こり不完全燃焼の生じる可能性が大きくなります。
そこで、最近は厨房に給気口 を設けて住宅全体の換気経路とは独立させる例が多くなっています。
e. シックハウス対策と換気
シックハウス対策のために改正された建築基準法では、シックハウスの主な原因物質である ホルムアルデヒドの濃度が許容値である 0.08ppm を超えないようにするために 3 つの方策が示 されています。1 つ目は、居室における必要換気量を 0.5 回として機械換気設備を設けること です。
2 つ目は、ホルムアルデヒドを発生する建材の使用面積を発生量に応じて制限すること です。例えば、ホルムアルデヒド発生量が星 3 つの場合(F☆☆☆のように建材に表示されて いる)、内装材として使用できる建材の面積は床面積の 2 倍までとなります。
F☆☆☆☆の場 合には、使用面積の制限はありません。
三つ目は、天井裏や、1 階と 2 階の間の空間を対象と した処理の方法で、換気設備を設置するか、F☆☆☆以下の発生量の建材を使用するかのどち らかを採用することが規定されています。以上の 3 つはすべて満たす必要があります。
詳細は 巻末資料 3 を参照してください。
f. 暖冷房システムと換気
暖房・冷房を行っているときには窓が閉じられているので、機械換気を運転して空気を常に 入れ替える必要があります。
また、石油やガスを燃料とする暖房設備で、開放型燃焼方式(部 屋の空気を燃焼に使い、排ガスがそのまま室内に放出されるもので持ち運びが可能)を使用す る場合には、目安として換気回数で 1~2 回の換気が必要です。
エアコンを使用する場合には、そのための換気は不要ですが、エアコンに換気の機能も備わ っているという誤解を持っている人がいます。
エアコンの使用中も常時換気をする必要があり ます。
最近では、ダクトセントラル式の暖冷房設備(または暖房設備)が設置される場合がありま すが、その設備の多くは換気機能を備えています。
いずれの暖冷房設備を利用する場合にしても換気には十分に注意する必要があります。