5.3. 物理学的要因
5.3.1. 温熱的要因
a. 快適な温度条件
熱環境の快適性に影響する条件は、温度、湿度、風速、輻射です。
人は食べものを食べてエ ネルギーを生産しますが、生産するエネルギー(代謝量)と身体から発散するエネルギーは、 健常の時は常に等しい状態になっています。
このバランスが壊れそうになったときに寒さ、暑 さを感じることになります。
この 4 つの条件は快適環境を実現する際には相互に関連します。
例えば、温度が低いときは温度を上げなくとも輻射量を増やせば寒さを感じなくなるし、温度 が高く暑いときは扇風機で風を受ければ涼しく快適と感じるということになります。
また、作業の状態によって代謝量は異なるので、同じ環境条件でも代謝量が多いときは暑く 感じ、安静にしているときは寒く感じます。
寒いときは着衣の量を増やして暖かくし、暑いと きは薄着にして涼しさを得ることができます。
このように快適条件の要因は温度、湿度、風速、 輻射に加えて代謝量、着衣量の 6 つになります。
これらの条件をすべて考慮し、温熱環境の総合的な指標としてデンマークのファンガーが提 唱した Predicted Mean Vote: PMV 1)が今日では利用されています。
PMV は 6 つの快適条件が定 まれば計算で求めることができるので、空調設計や温熱環境の評価でよく利用されるようにな ってきています。
計算の結果、PMV の値が 0 であれば暑くも寒くもない、+2 であれば暑い、+1 であればやや暑い、-2 であれば寒い、-1 であればやや寒い、の評価となります。
また、人によ って快適と感じる条件は異なり、PMV が 0 の条件でも、5%の人は不満を感じるという実験結果 1)が示されています。
また、空調設備が設置される建物では、建築基準法に決められた室内環境条件(温度、湿度、 風速等)の範囲に入るように建物を設計し室内環境を調整しなければなりません。
学校の場合 には、先に述べたように学校環境衛生基準に従う必要があります。住宅の場合に、室内環境の 基準は法律上定められてはいませんが、日本建築学会では 1994 年に室内温度の推奨値を提案 2) しております。
いずれも輻射の条件が示されていませんが、輻射による暖房・冷房は、温風・冷風を送る暖
房・冷房方式に比べて快適であるとよく言われており、輻射利用の暖冷房が今後、増えていく
可能性があります。
b. 温度分布、輻射の不均一
空調された室内において、温度が上下方向で、或いは水平方向で異なることはよく経験しま
す。例えば、暖房している場合には、窓近くや足元が寒く感じます。
断熱・気密性能が不十分
な場合には、窓や床からの熱のロスが大きく、ロスの大きい場所の近くは温度が低くなるため
に温度の(不均等)が生じやすくなります。
また、窓表面や床表面の温度が低い場合には輻射の作用によって人体から熱が逃げていくために不快に感じます。これらの問題を解消するためには断熱・気密性能を高めることが最も有効です。
学校の教室では、温風暖房器が普及していますが、暖房器からは高い温度の空気が吹き出さ
れるので、その近くに座っている児童にとっては暑くてたまらないということが生じます。
その場合には当然、暖房器から机を離さなければなりません。
或いはこの問題を解決するには輻射方式の暖房方式を採用することが確実ですが、断熱・気密性能を高めて熱ロスを低くすれば、 高い温度の空気を吹き出すことはなくなり局所的な分布も少なくなると推察されます。