3.4.2. どのような化学物質のばく露に起因するのか?を調べるために
いわゆる「化学物質過敏症」が、ごく微量の環境中の化学物質に反応して生じることを証明する ためには、化学物質にばく露した時とばく露していない時にどのくらいの頻度で見られるかを疫学 的に検討する必要があり内外で研究が実施されています。
化学物質過敏症の症状と低濃度の化学物質ばく露との因果関係を検証する目的で実施される研究 で、その因果関係証明に一番説得力がある研究とされているのは「二重盲検(ダブルブラインド) 法」で割りつけた疫学研究です。
古くは米国で 20 人の患者さんにホルムアルデヒド、ガソリン、 クリーナーなどの化学物質と新鮮な空気を、被験者もテストをする側もばく露の有無が知らされな い「二重盲検法」でランダムに負荷する試験が行われました 19)。
この結果、化学物質と新鮮な空気 との差は見られませんでした。
また、Bornschein によるドイツの研究も「二重盲検法」による負荷 試験です 20)。
化学物質過敏症を訴える患者さん(ケース)20 名と化学物質過敏症のない健康な方 (コントロール)17 人に混合溶媒を含む化学物質負荷と含まない空気の両方をランダムにばく露 させました。
血圧または心拍数が 10%以上変化した場合、発疹、低酸素、あるいは症状の悪化が 見られた場合に反応ありと定義して、化学物質にばく露した場合の反応と化学物質にばく露させて いないのに生じた反応を検討したところ、ケースとコントロールの反応には全く差は見られません でした。
即ち、これらの研究からは、科学的には化学物質ばく露と患者さんの反応には関連はなく、 過敏状態が低濃度化学物質ばく露によることは説明できませんでした。
日本では、患者さんのみがばく露の有無が知らされない「単盲検(シングルブラインド)」の研 究デザインでしたが、環境省の研究費で 3 つの研究がなされました 21)。
その一つ、北里大学の宮田 らの報告によりますと、化学物質過敏症を訴える患者さん 38 名を対象とし、専門のクリーンルー ムにおいて厚生労働省の室内濃度指針値 80ppb の 1/2 濃度(40ppb)と 1/10 濃度(8ppb)のホルムア ルデヒド、およびプラシーボとしてホルムアルデヒドを含まないガス(0ppm)にばく露させる誘発 試験を実施しました 22)。
7 名がホルムアルデヒドのみに反応しましたが、他の 31 名は反応しないか またはプラシーボにも反応ました。
同様に、国立相模原病院の長谷川らはこれまで 51 名の患者に のべ 59 回、ホルムアルデヒドまたはトルエンによる負荷試験を行い、最近、論文が報告されてい ます 23)。
実際に負荷試験を実施した 40 名のうち、陽性例は 18 名でしたたが、11 名は症状が誘発さ れず、また 11 名は実際の負荷が始まる前に症状が出たために陰性例とされました。
加えて、11 名 には盲検法で負荷試験を実施し、陽性が 4 名、陰性が 7 名でした。
さらに、関西労災病院の吉田ら は来院した患者 7 名にホルムアルデヒドを、10 名にトルエンを、被験者のみにどの濃度かを知ら せない方法でばく露させました 24)。
しかし、自覚症状、一般的生理指標、神経眼科的生理指標にお いて、明らかなばく露による変化を認めることは出来ませんでした 24)。