・2. 緊急時化学物質調査のための情報整理の必要性
緊急時の迅速な調査実施のためには、災害の質や規模などに応じて、様々な情報が必要となります。本研究では緊急時調査を実施する状況として、以下の3パターンを想定し、参考となる情報源の整理を行っています。ここでは「緊急時」の考え方として、被害の場所が明確な状況を「事故」、被害が広域でサンプリング地点やサンプリング対象(大気、河川水、地下水、土壌等)の検討が必要となる状況を「災害」と称することとします。
(1)原因物質が把握可能な事故(事業所や輸送車両からの漏洩、火災・爆発事故など)
(2)原因物質不明の事故(特定地域での健康被害の増加、魚類の斃死など)
(3)災害(地震、津波、洪水など)
(1)については、少なくとも当該事業者は原因物質が分かっているため、緊急時調査としては適切な手法で迅速にモニタリングを実施することが求められます。
そのため、緊急時基準のリスクレベルに応じた測定法を整理しておくことが重要となります。
緊急時を想定したものではありませんが、測定法に関する有用な情報源として「環境測定法データベースEnvMethod」等が挙げられます。
(2)では原因物質が不明なため、事故の内容を毒性情報や過去の事例と照らし合わせて、物質の絞込を行い、網羅分析等の手法により原因物質を特定することとなります。
各種の毒性情報やガイドライン濃度については「緊急時環境調査に関する情報源」にまとめられており、事故事例としては「リレーショナル化学災害データベースRISCAD」等が参考となる情報源として挙げられます。
(3)は上記の2ケースに比べ不確実な要素が多く、物質も場所も特定できないため、入手可能な限られた情報から、サンプリング地点やサンプリング対象の選定が必要となります。
過去に実施してきた災害時調査では、化学物質排出移動量届出制度(PRTR)の届出事業所や下水道の処理区域等の情報を参照しつつ、調査地点を選定しました。
PRTRの届出は、保有量ではなく排出量の届出制度であるため、事故や災害時の漏洩量を予測するのは容易ではなく、排出源となり得る事業所を網羅的に把握できているわけでもありません。
しかしながらPRTR届出情報は公開されている情報としては、化学物質を取り扱う事業所がポイントソースとして示された唯一の情報源であり、緊急時調査においても有用と考えられます。
ここまで緊急の化学物質調査において参考となる情報源を示してきましたが、一言で化学物質といっても、機関や分野によりその分類方法は様々であり、それぞれのデータベース間の対応関係は整理されていません。
迅速な緊急時調査の実施のためには、利用可能なデータを緊急時に使用しやすい状態に整備しておくことが重要となります。
他にも、迅速かつ適切な緊急時調査の実施のためには、平常時から簡易な測定技術を共有しておくことや自治体間の協力体制を構築しておくことも重要な課題となります。
また、既存の緊急時基準については、優先順位の高いヒトへの健康影響のみが想定されていますが、広くは被災地域の生態系への影響なども想定した管理方策へと拡大検討していく必要があると考えられます。
(こやま ようすけ、環境リスク・健康研究センター リスク管理戦略研究室 研究員)
執筆者プロフィール:
2015年につくばに来るまで京都を離れたことがなかったのですが、関東出身の両親のおかげで言葉に違和感を持つことがほとんどありません。無意識のうちに関西弁、標準語を使い分ける自分に驚きました。