・1. 災害発生から復興にむけた段階別の基準値の概念
米国環境保護庁(EPA)と米国科学アカデミー(NAS)は緊急時の基準として、Acute Exposure Guideline Levels(AEGLs)を定めています。
1つの化学物質について、5つの曝露時間(10分、30分、1時間、4時間、8時間)のそれぞれに対し、健康被害が想定される空気中濃度を3段階のレベル(低濃度からAEGL-1、AEGL-2、AEGL-3)で表しています。
EUでは、米国や欧州各国における基準値を参照しつつ、緊急時における急性曝露のための基準値であるAcute Exposure Threshold Level(AETL)の開発が進められています。
これらの欧米で検討されている基準値は、いずれも非常に短時間(最大8時間)での曝露を想定したものになります。
一方、災害直後を想定したこれらの基準値とは異なる、より長期間の曝露を考慮した基準値の考え方が日本環境化学会の「緊急時モニタリング実施指針」(鈴木ら(2011))で提言されています。
この指針では、緊急時の概念として、災害や事故後の対応フェーズ(災害初動、応急処置、復旧、移行時期など)を考慮し、平常時に至るまでのフェーズに応じて基準値が提案されました。
図1はこれらの緊急時における基準値と求められる対応の概念を示したものになります。
一般に、急性の影響を想定した基準値(AEGLsなど)と生涯曝露による影響を想定した基準値(環境基準など)の両極端のみが設定されていますが、事故・災害時には、最初に高濃度の曝露が起こり、時間の経過に伴い曝露量が減衰していくことが予想されます。
このような曝露に関するリスク評価方法は現時点では体系化されていませんが、図1に示したような考え方でのリスク評価・管理が有用と考えられます。
フェーズに応じた基準値を設定しておくことで、例えば、簡易な測定法によるリスクの判定などが実施可能となります。
現時点でのこれらの基準値の設定においては、根拠情報が不十分な物質も多いため、毒性情報の整理や許容可能性についての検討を重ねつつ、適宜改良していくことが重要となります。
図1 緊急時におけるフェーズと基準値の概念