シックハウス症候群や化学物質過敏症が社会問題になり始めたのは、1990年代中頃。
それまでは、そんな病気は存在しないと言われていました。
それは症状が頭痛、倦怠感、手足のしびれなど、他の病気でも見られる症状だったから。
また同じ家に住んでいても、症状の出る人と出ない人がいたからです。
これは家での滞在時間と、個人の耐性の強さによって異なるからです。
シックハウス症候群が社会問題になったことで、2003年に建築基準法が改正され、建材から放散されるホルムアルデヒド量が制限されました。
こういった規制もあり、2000年以降、シックハウス症候群の対策は急速に進みました。
2000年には新築の約30%でホルムアルデヒド指針値を上回っていたのが、4年後には約2%まで下がった。
化学物質の室内濃度の指針値(厚生労働省)
化学物質の室内濃度の指針値(厚生労働省)
VOC総量規制が急務
これでみんな、「シックハウス症候群の問題は終わった。めでたしめでたし」となったわけです。
しかしそうはならなかった。
なぜかというと、ホルムアルデヒドやトルエンなどは使われなくなったのですが、各メーカーは、代わりに別の物質を溶剤や塗料に使用し始めたのです。
この現象は、ある意味脱法ドラッグの問題と似ています。
違法ドラッグというのは、それぞれの化学式に基づき法律で規制しています。しかし違法ドラッグと同様の効果を持つ、化学構造が少し違うという物質があります。
これが脱法ドラッグです。
ホルムアルデヒドなど、常温で大気に揮発する物質のことを、揮発性有機化合物(VOC)と呼びます。
これは溶剤や塗料に含まれていますが、体臭や天然木の臭いなどもVOCの一種です。
アメリカの専門機関では、VOCの種類を登録していて、その数は1億種類に及びます。
つまり建築基準法では、1億分の13種類しか規制されておらず、ほとんどが見逃されているということになります。
実際に建築基準法改正後も、シックハウス症候群は起こっています。
2010年には、参議院会館でシックハウス症候群が発生しました。
しかし会館を検査した結果、13物質の空気中の含有量は、すべて指針値を下回っていました。ではなぜシックハウス症候群が起きてしまったのか。
それはVOCの総量が問題でした。
厚生労働省では、空気中のVOC総量の暫定目標値を、400μg/㎥と定めています。
しかし会館では、平均して900、濃度が高い部屋では2400という高い結果が出た。
現在、VOC総量の暫定目標値は、13物質の指針値と違い、新築では目標値を超えているのが当たり前です。私は、行政がVOCの総量規制をすべきだと考えます。
私の経験上、現在の暫定目標値400以下の環境では、シックハウスが出たことはありません。
住宅事業者ができる対策として有効なのは、家を建てた後、リフォームした後に十分な換気を行うこと。ドアを完全に閉めないようにしたり、窓に換気扇を付けるなど。
VOCは塗料や溶剤が乾くと、その後ほとんど出てこないため、築後3カ月間行うだけでも効果はあります。