図3 熱脱着-GC×GC-HRTOFMS測定により得られた大気中の化学物質のトータルイオンクロマトグラム
図3 熱脱着-GC×GC-HRTOFMS測定により得られた大気中の化学物質のトータルイオンクロマトグラム
暖色の部分は高い強度で化学物質が見つけられたことになります。
ピークがたくさん存在するため、一度に見つけることができた化学物質を正確に数えることはできませんが、1成分あたりの範囲が横軸方向に2~3秒間、縦軸方向に0.05~0.5秒間であり、図の横軸の全範囲が90分間、縦軸の全範囲が6秒間であることを考えると、極めて多数のピークが存在することがわかります。
図3は、GCxGC-HRTOFMS測定により実際に得られた大気中の化学物質のトータルイオンクロマトグラム(TIC)です。
TICとは、ある保持時間において見つけられた成分に由来するマススペクトルのイオンの和を表します。
ここで、図3の横軸は1本目のキャピラリーカラムの保持時間(分)を、縦軸は2本目のキャピラリーカラムの保持時間(秒)を示しており、1つの成分に相当するTIC範囲は、横軸方向に2~3秒間、縦軸方向に0.05~0.5秒間です。
色の違いは、見つけられた化学物質の濃度を表しており、濃い暖色であるほど何らかの化学物質が高い濃度で見つけられたことを意味します。本来、各ピークの幅は数秒程度と非常に狭いのですが、多数のピークが存在するためにTICの全体に赤色や黄色といった暖色の部分が目立っています。
図4は、図3のTICについて、ある保持時間(中央部、黒丸)で見つけられた成分の精密質量スペクトルを抜き出したものです。
その結果、図4の左図では、塩素を含む化学物質に特有のマススペクトルパターンが質量数230から300の範囲で確認されました。
図4 図3のTICから見つけられた精密質量スペクトル(左)とライブラリーサーチに登録されているヘキサクロロベンゼンの精密質量スペクトル(右)
図4 図3のTICから見つけられた精密質量スペクトル(左)とライブラリーサーチに登録されているヘキサクロロベンゼンの精密質量スペクトル(右)
質量数230から300の範囲に注目すると、両者のスペクトルが非常によく一致していることがわかります。
そこで、データベースに登録されているマススペクトルとの比較を進めたところ、POPs物質であるヘキサクロロベンゼンと非常によい一致度であることがわかりました。
化学物質の正確な検出には装置の分離面での改善がさらに必要であることなど課題もいくつか残されていますが、本法は、検出器に熱脱着-GCxGC-HRTOMSを用いることで通常の分析方法に従えば1週間程度を要する試料前処理を全く行わずに化学物質の特定を行っており、迅速性において大きな利点があります。
また、持ち運びの容易なミニポンプによる試料採取は、サンプラーの設置や電源確保といったサンプリングに関する障壁を低くしてくれます。
一方、化学物質に関するこれまでの公定測定法は、測定対象物質に固有なモニターイオン質量数を質量分析計に事前設定するやり方であったため、測定対象外の化学物質についての情報は一切知ることができませんでした。
国内外で監視すべき化学物質がさらに増加しそうな現状において、多くの化学物質を同時にモニタリングできるノンターゲット分析法の需要はますます高まっています。
(たかざわ よしかつ、環境計測研究センター 有機計測研究室 主任研究員)
runより:大気中に有害化学物質がある事が証明されますね(´・ω・`)