https://www.jstage.jst.go.jp/article/toxpt/39.1/0/39.1_S1-6/_article/-char/ja/
・環境化学物質ビスフェノールAと脳形成・発達
*伏木 信次1), 矢追 毅1), 伊東 恭子1)
1) 京都府立医科大学大学院医学研究科 分子病態病理学
公開日 20121124
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抄録
内分泌かく乱作用が指摘されながらも一旦は安全と評価されたビスフェノールA(BPA)は、2008年に国内外で胎児や小児への影響について再度懸念が表明されて以来、とりわけ脳神経系への影響が話題となっている。
ヒトの尿、血清、羊水、胎盤、母乳などからBPAが検出され、なかでも胎齢15-18週では羊水中の濃度が母体血清よりも高いという報告がみられることから、私たちは、胎児期曝露が脳形成・発達にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすべく研究を開始した。
妊娠マウスにBPA(20 µg/kg体重)を妊娠直後から連日皮下投与し、妊娠経過を追って、組織学的に解析した。
その結果、大脳皮質の形成過程である妊娠12.5日から16.5日の間で、神経細胞の分化や細胞移動が、非投与対照群に比し有意に促進していた。
この時期の神経細胞分化に関わる遺伝子の発現を調べると有意な変化を示し、発生をより促進する方向に働いていることがわかった。
胎生期にBPAに曝露されたマウスの出生後の大脳皮質発達を調べたところ、生後3週ではⅣ層に配置されるべき神経細胞が上下の層に広がって分布するという細胞構築異常をみとめた。
さらに視床と大脳皮質を結ぶ神経回路を調べたところ成熟脳でも神経線維の分布に異常がみられた。
次に、妊娠初期からBPAを投与されたマウス胎仔終脳からDNAを回収し、RLGS法によるDNAメチル化解析を行い、BPA非投与対照群と比較したところ、スポット全体の1.9%に相当する48個が変動を示した。
それら変動したスポットの中でBPA投与により低メチル化を示した遺伝子をクローニングし、その発現を調べたところ、BPA曝露群において遺伝子発現が亢進していた。
以上の結果から、胎生期BPA曝露は脳におけるメチル化変動を惹起することが示され、このようなエピジェネティック変化が脳形成・発達に影響を及ぼす可能性が示唆された。