https://www.jstage.jst.go.jp/article/toxpt/42.1/0/42.1_S5-5/_article/-char/ja/
殺虫剤の個人曝露量測定と健康リスク評価
*上島 通浩1), 伊藤 由起1), 上山 純2)
1) 名古屋市立大学大学院医学研究科環境労働衛生学分野 2) 名古屋大学大学院医学系研究科医療技術学専攻
公開日 20150803
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抄録
いわゆる殺虫剤は農業的利用(農薬)を始め、衛生害虫の防除等に広く利用されるなど、現代社会において不可欠な化学物質であるが、そのベネフィットとともに健康や環境へのリスクにも注目され続けてきた歴史をもつ。
農薬科学や、健康および環境に関する科学が発展する中で、これまで、非常に幅広いとらえられ方から議論が行われている。
本発表では、農薬取締法上の殺虫剤だけでなく、「医薬品」、「医薬部外品」等の対象物質も含め殺虫剤と総称して、有機リン系、ピレスロイド系、ネオニコチノイド系殺虫剤への曝露量の現状を中心に、話題を提供する。
演者らはこれまでに、殺虫剤を散布する職域や一般生活環境における成人や小児を対象に、尿中に排泄される殺虫剤あるいはそれらの代謝物を測定(生物学的モニタリング)し、曝露レベルを明らかにしてきた。
また、有機リン系殺虫剤については、一部の代謝酵素遺伝子多型と酵素活性および尿中代謝物量との関係について解析してきた。
尿中濃度については夏期と冬期との間で一定の有意な差が存在し、職域だけでなく通常の生活環境においても曝露量には季節差のあることがうかがわれる。
殺虫剤の曝露評価手法として、標準的な生活を送る集団については、作物への残留量等をもとに推定摂取量を求め、曝露マージン(margin of exposure)を明らかにする等の方法が行政的には行われている。
しかし、今世紀に入り機器感度と分析技術が大きく向上し、一般生活環境での微量な曝露量を個人単位の生物学的モニタリングにより定量できるようになった。
すなわち、尿中濃度と健康上のアウトカムを対応させた疫学調査が、曝露量の多い散布職域だけでなく一般生活環境でも可能になった。
ppbレベルの濃度を安定して定量するための精度管理上の問題を考慮しつつ、今後、個人曝露量の測定を健康リスク評価に導入し、量反応関係をふまえた解析を行う研究の推進が求められる。