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https://www.jstage.jst.go.jp/article/toxpt/43.1/0/43.1_S7-4/_article/-char/ja/
農薬評価におけるマウス発がん性試験の必要性、Ⅰ. ラット発がん性試験に追加の意義
*森田 健1)
1) 国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部
公開日 20160808
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抄録
近年、化学物質の発がん性評価におけるマウス試験の必要性が活発に議論されている。
すでに、マウス試験は医薬品においては必須とはなっていない。
そこで、農薬の発がん性を検出するために、ラット試験に加えてマウス試験を実施する必要性を検証した。
食品安全委員会の既公開農薬評価書(281評価書286剤、2015年4月時点)を用い、発がん性データの有無、その陰性/陽性ならびに腫瘍の種類等をラットとマウスで比較した。
さらに、発がん機序等に基づくヒトへの関連性ならびにADI設定根拠試験の該当性を調べた。
275剤についてラット・マウス共に発がん性試験結果が得られており、うち161剤および32剤は両動物種ともそれぞれ陰性および陽性を示し、33剤はマウスでのみ、49剤はラットでのみ陽性であった。
すなわち、65剤がマウスで陽性となり、それらの検出の意義を評価した。
マウスでのみ発がん性を示した33剤中9剤(3.3%、9/275)は、ヒトへの関連性を否定できなかった。
この33剤(内、当該9剤)の発がん臓器の内訳は、肝が27剤(7剤)、肺が3剤(1剤)および血管、小腸/肝/肺、膀胱が各1剤(0、1、0剤)であった。
また、マウス試験がADI設定根拠となったものは、この33剤中の4剤ならびにラット・マウス両種で発がん性を認めた32剤中4剤の計8剤(2.9%、8/275)であった。
しかし、いずれも発がん性LOAELよりも毒性LOAELが低く、腫瘍発現に基づくADI設定は認められなかった。
以上の結果は、マウス発がん性試験のヒトへの意味のある発がん性の検出およびADI設定における寄与はわずかであり、その有用性は高いものではないことを示唆している。
これらの知見をもとに、農薬評価におけるマウス発がん性試験の必要性を議論したい。