化学物質のHazard characterizationにおいて肝肥大を毒性ととるべきスタート地点
*吉田 緑1), 梅村 隆志1), 頭金 正博2), 小澤 正吾3)
1) 国立医薬品食品衛生研究所病理部 2) 名古屋市立大学大学院薬学研究科 3) 岩手医科大学薬学部
公開日 20140826
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抄録
肝肥大は化学物質投与で生ずる最も一般的な変化である。薬物代謝に関連した肝肥大は生体恒常性維持反応すなわち適応反応であり毒性影響(悪影響)とすべきでない、あるいは肝肥大の持続がげっ歯類肝腫瘍発生に関連するとの議論から、肝肥大は毒性評価現場に多くの話題を提供してきた。
2012年、肝臓を専門とする日米欧の毒性病理学者が集ったthe 3rd International ESTP(European Society of Toxicologic Pathology)のワークショップでは、知見の重要性を総合的に判断すべきとしながらも、肝毒性指標を随伴しない肝肥大は適応反応であり毒性影響ではないと結論した(Hall, et al., 2012)。国際評価機関においても同様の考えが示されており(Summary report, JMRR2006)、適応反応の結果としての肝肥大が生ずることに異論はない。
しかし、複数の動物種、多段階の用量、種々の投与期間で実施された毒性試験を用いて一つの化学物質の毒性を見極めるリスク評価現場において、肝肥大を自動的あるいは一律に評価することは困難である。
本シンポジウムの各演者が示したように、肝肥大は肝腫瘍のkey eventではないことが明らかになりつつあり、またin vitroの薬物代謝検出系や毒性試験に基づいたデータベースの活用等、新しい知見や検出系も得られている一方、全ての肝肥大の機序が解明されているわけではない。
そこで、本シンポジウムのまとめとして、hazard characterization(障害評価)において現在の科学レベルを考慮した場合、どのような肝肥大を生体の恒常性機能維持の範囲である適応反応を超えて、毒性影響の領域に踏み込んだと考えるべきか、評価現場で立ち止まるべき点について具体例を挙げながら提示したい。