アレルギー疾患:診断への新たなアプローチ 化学物質過敏症4 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

2)神経眼科的検査
 化学物質過敏症の診療の本邦におけるパイオニアである北里研究所病院の石川ら3)力注に診療に使用している検査法である.以下の三つの検査法において化学物質過敏症の患者において異常が認められると報告されている.
 (1)電子瞳孔計検査
 光に対する瞳孔の縮瞳運動をみる検査で,瞳孔の対光反応の結果から自律神経の状態を判定することが可能とされている.
 (2)眼球運動検査
 問様に目標物を水平方向と垂直方向に動かし患者に視認してもらったとき,眼球の追従運動は健常人では滑らかな曲線を描くが,化学物質過敏症の患者では滑らかな曲線にはならず階段状の追従曲線を描くと言われている.
 (3)コントラスト感度検査
 白黒の濃淡が正弦波形になっており,その濃淡の差を識別可能かどうかで判定する.
 これらの神経眼科的検査には,それぞれの測定用機材が必要でありそれぞれ数百万円の機材費を捻出することが通常の医療機関では困難であるという難点があり,一般クリニックにおいて普及するには無理がある。

当院においても装置を設置できておらず,神経眼科的検査は施行できていないためこれらのデータにつき当院の負荷テストの結果との解析ができておらず論評できない。
 3)血液中ガス分圧
 化学物質過敏症あるいはシックハウス症候群の患者では,静脈血中の酸素分圧が健常人に比較して高値を呈する可能性を指摘している.

一般に健常人では静脈面酸素分圧は20~30mmHgで30mmHgを超えるものは少ないと考えられている.

しかし,国立病院機構相模原病院の長谷川ら2)のデータでも化学物質過敏症の患者の静脈血酸素分圧は40~60mmHgのものも散見され,診断の参考所見になるのではないかと期待されている.

甑液ガス分析であれば,対応できる医療機関も多数あり,化学物質過敏症の診療に多くの医療機関が参加できるようになり患者にとって朗報となろう.

しかし,現時点では有用であるかどうかの評価を下すことは函難で,これも多施設で症例を蓄積し有用性につき解析を行っていく必要があると考えられる。
 4)カプサイシン負荷テスト
 国立病院機構福岡病院の庄司ら2)は化学物質過敏症の患者においては健常人に比しカプサイシン吸入負荷テストで咳閾値の低下がみられると報告している.

メカニズムとしては化学物質が低濃度で知覚神経(C-fiber)末端を刺激して神経原性炎症を引き起こすことにより咳閾値が低下するのではと推測している.

今後の研究で症例数が増えることにより他の検査法同様に診断に有用かどうかが判明してこよう.
 5)パッチテスト
 被疑化学物質をパッチテスト用のディスクにしみこませ患者の前腕,あるいは背中に貼付して皮膚の反応を見る検査.吸入負荷テストに比して簡便でどこでも行える利点がある。.

しかし,ホルムアルデヒドの反応を見るためパッチテストを行った際に被験者のいる室内のホルムアルデヒドの気中濃度を測定したところ,パッチテスト用のディスクより揮発したホルムアルデヒドの濃度が厚生労働省の環境指針値の80ppb以上になっていることが判明し,皮膚のテストなのか吸入負荷テストなのか鑑別できないような事態も考えられ,まだ再考を要すると思われる.
 6)血中特異的lgE抗体
 ホルムアルデヒド特異的IgE抗体を測定することが可能である.

しかし,著者らが測定した症例,複数の班会議等での報告をみても有意に上昇した症例は少なく,診断に有用とは現段階では言えない.
4.治療および対策
 治療としては,原因物質からの避難,体内からの有毒物質の排出が中心となる.原因物質の特定は,時に困難を伴うが詳細な問診の上,本人の健康障害が引き起こされる環境・物質からの退避を指導する.

場合によっては環境を変えて転地療法が必要になることがある.

薬物療法としては,一般的にはラジカルのスカヴェンジャーとしてビタミンE,CさらにA, Bなどが投与される.有機リン殺虫剤が疑われる場合は解毒剤の投与が必要となる。

化学物質過敏症の症状は多彩であるが,頭痛,頭重感,易疲労感などの症状には選択的セロトニン再取り込み阻害薬の投与が効果があったとする報告もある.

また,咳嗽や気道粘膜の炎症などの症状には麦門冬湯が効果があるとの報告もある.
5.まとめ一診療における問題点・留意点 まず,診療における一番の問題は,症状が不定愁訴であり明らかな客観的指標がないため化学物質過敏症と診断することが困難である点である.

特に特殊検査のできない,一般クリニックにおいては症状および病歴だけが判断の基になるため詳細な問診が必要となる.

また,保険診療では化学物質過敏症は対象として認められていないため,合併症のある症例で保険診療の枠内で診療するか,全くの自由診療をするかしかない点も問題である.

保険診療の枠内で診療する場合,必然的に化学物質過敏症に特異的な検査(負荷テストなど)は無料で行うことになり医療機関にかかる負担は大きい.

また,治療でもビタミンの大量投与も保険上は困難であり,市販のサプルメントの購入を勧めることにもなる.

逆に,自由診療で行う場合は,混合診療は禁止されているので自忠診療のみで行うことになるが,必要な専従スタッフ,設備などの維持が可能な診療価格設定では高額となる。

この場合患者に提供する診療内容がその価格で適切かどうかが問題となる.
 化学物質過敏症は,現在でも一般臨床の現場において完全に受け入れられた疾患とは言い難い.

しかし,我々の施設でのクリーンルーム開設後3年間の診療でも化学物質に対する過敏性が何らかの健康障害をもたらしていると考えられる症例も認め,まったく否定されるべき疾患ではないと考えられる.

それゆえ,病態の解明,診断基準の確立,治療法の開発などさらなる努力が必要であろう.
文献
1)Cullen MR:The worker with multiple chemical sensitivities:an overview. Occup Med State Art Rev 2:655-662,  1987.
2)鈴木直仁,他:特集シックハウス症候群.アレルギー・  免疫 10:9-82,2003.
3)石川 哲:化学物質過敏症.アレルギー 50:361-364,  2001.
4)Miller CS:The environmental exposure and sensitivity  inventory(EESI):astandardized approach for measuring chemical intoleranees for research and clinical applications. Toxicology and Industrial Health 15:370-385,
  1999.
日本内科学会雑誌 第93巻 第10号・平成16年10月10日      (1±4)