3.検査法
広く認知されたエビデンスをもとにした確立した検査法はまだない.診断の参考として現在本邦で行われている検査法および今後利用できる可能性のある検査法について以下に示す.
1)化学物質負荷テスト
(1)環境クリーンルームにおける負荷テスト
環境中の微量化学物質に対する健康障害が化学物質過敏症の本体とすると,微量化学物質の吸入負荷テストが検査法として必要となる.
しかし,一般環境中には多種多様の化学物質が存在し,通常の環境では正確な負荷テストを行うことは困難である。
また,被疑物質の関与を検討するためには,他の物質の影響を解除(マスキング)しておく必要がある.
このため,我々は環境中に化学物質がほとんどない環境クリーンルームを用いて,化学物質過敏症が疑われる患者の微量負荷テストを行っている.
図1に示すクリーンルームに24時間以上滞在の後,ホルムアルデヒド,トルエン,キシレンの三物質に対して厚生労働省指針値の1/10,1/2量の気中濃度で15分間の吸入負荷を行っている.また,同じ条件でクリーンエアをbHndで負荷してplaceboの影響を除去する.
並行して自覚症状,酸素飽和度,脈拍数を系時的に記録し評価する.
また,負荷前後において抹消血を採取して一般
検査,および洗浄赤血球中のSuperoxide Desmutase(SOD)活性を測定している.
我々の施設では,現在までに化学物質過敏症あるいはシックハウス症候群が疑われる36例の負荷テストを行った(図2).
対象症例は,当院の地理的条件より西日本を中心に来院されている.負荷テストの結果は,表に示すように被疑化学物質吸入時に何らかの症状が出現し陽性者と判定された症例が21例(589%)認められた.
3種類のテスト物質のうちホルムアルデヒドに16例,トルエンに11例が陽性反応を示した.性状がトルエンと近いキシレンはトルエンと同じ傾向を示し10例に陽性反応が認められた.
また,1物質だけに陽性反応を示す症例だけでなく2物質に陽性反応を示したものが9例あり,3物質に陽性反応を示す症例も玉例認めている.
しかし,症状より負荷テスト陽性と判定した
症例でも酸素飽和度,脈拍数,一般採血検査値の異常は認められていない.
この様な状況より,自覚症状を基にした評価方法だけでは確診性に乏しく,当然何らかの客観的指標が求められている.
そこで,化学物質過敏症の病態に体内のラジカルの関与が疑われていることに注屋し,我々の施設では電子スピン法を用いたSOD活性を測定し,客観的指標となり得るかどうかを検討している.
結果は,表に示すように負荷テスト施行症例全体では3.66±190unit/mg proteinと健常人よりやや低値を示す傾向がある.しかし,負荷テスト陽性症例では逆に健常人と同じレベルのSOD活性を示す.
そこで,負荷テスト前後でSOD活性を比較してみたところ図3に示すように負荷テスト陰性症例では負荷にてSOD活性が上昇するのに対して,陽性症例ではSOD活性が逆に有意に低下することが示唆されている.
まだ研究段階であるが,以上の結果より負荷テストにて症状が出現し陽性と判定されるような症例では,体内に産生されたラジカルの消去のためにSODが消費されるが, SODの再生能力が低いため産生が追いつかないか,あるいはラジカルの量が多く消去に多量のSODを要し結果としてSOD低値を来すとする仮説が成り立つのではないかと考えている.
(2)負荷テスト時における脳血流検査
クリーンルームは使用していないが,角田2)らは近赤外線を利用した脳内酸素モニター(nearinfrared spectroscopy)で化学物質負荷テスト時の脳内酸素状態の変化を測定し,客観的指標として診断・治療効果判定に用いる試みを報告している.