図1.環境クリーンルーム(Environmental Medical Unit:EMU)における負荷テスト
● 環境中の化学物質の影響を除去するため,負荷テストは環境クリーンルームに入院して行うことを原則とする.
● クリーンルーム内のアレルゲンチャレンジブースを使用して,厚生労働省指針値の1/10量, 1/2量を用いたホルムアルデヒド,トルエン,キシレンの3物質の微量負荷テストを行う,
● 負荷時間は15分であり,placeboとしてクリーンエアを含めてランダムにセットアップし,
被験者にはそれぞれの物質につきブラインド試験(盲験)で行った.
●負荷テスト中は血圧,脈拍,酸素飽和度,自覚症状を経時的に記録した.
●負荷テスト前後でCBC,一般検査とともに末梢血を2mlずつ採取し,検体血液中の赤血球中の SOD活性を電子スピン法を用いて測定する,
1.病態および発症メカニズム
化学物質を吸入,摂食,あるいは皮膚より透過吸収することにより,化学物質が体内に取り込まれ有害な障害を引き起こしてくると考えられるが,多くの医療関係者を納得させる発症メカニズムは分かっていない.
微量の原因物質で引き起こされる点,反復暴露(sensitization:感作)によって病状が進行するとされる点よりアレルギーを基とした反応の関与が疑われるが,アレルギーの関与は不明である.
例えば,ホルムアルデヒド特異的IgE抗体は測定できるが,ホルムアルデヒドに対して過敏性を持ち健康障害を呈すると考えられる症例でも特異的IgE抗体は陰性であることが多い.
また,アレルギー疾患の合併率が高いとの報告もあるが,医療機関によって比率はまちまちで60%以上の合併率を報告している施設もある反面,20~30%の合併率の施設もある.
さらに,国立病院機構相模原病院の長谷川ら2)の報告によれば,化学物質負荷試験の前後で好酸球数の変化,IL4, IL-5, IFNヴなどのサイトカインの変化も認められない.
また,北里研究所病院の坂部ら2)のレビューでは,低濃度化学物質の反復暴露が大脳辺縁系へ影響を及ぼし,抑制性ニューロンのGABA(:ガンマアミノ酪酸)受容体を阻害することにより局所ニューロンの興奮性を誘導することが,化学物質過敏症のメカニズムの手がかりとして紹介されている.
2.化学物質過敏症の診断
化学物質過敏症の診断基準は確立していない.いろいろな診断基準が提案されているが,古典的にはアメリカで発表された合意事項(Consensus l999)の
① 慢性疾患であること,
② 再現性を持って現れる症状を有する,
③ 微量な物質暴露に反応を示す,
④ 関連性のない多種類の化学物質に反応を示す,
⑤ 原因物質の除去で改善または治癒する,
⑥ 症状が多くの器官,臓器にわたる,6条件を満たし他の疾患の否定されるものを図2.負荷テスト施行患者対象症例 36例(男性17/女性19)44.3±178歳化学物質過敏症と定義されている.次に記載する検査法も普遍的でないため,症状の内容,発症時期,発症要因など詳しい問診が化学物質過敏の判定には大切である.問診のためには多くの場合Mmerら4}のQEESI問診票(Quick Envi ronmental Exposure and Sensitivity InventoryV-1)が使用されることが多い.化学物質暴露による反応,症状,マスキング(症状の偽装・化学物質暴露に対する1つの適応)指数,日常生活への障害の項目に分かれた質問票で合計点数を診断の参考指標にしようとするものである。