アレルギー性疾患への環境化学物質の影響9 | 化学物質過敏症 runのブログ

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■国立環境研究所では
環境化学物質のアレルギーへの影響に関する研究は、1997 年に DEP によるアレルギー性喘息の増悪影響を発表して以来、国立環境研究所が世界をリードしてきました。

その対象物質は、DEP をはじめとする粒子状物質から、本号で紹介したような環境ホルモンとして疑われている化学物質にまで広げられています。
DEP や DEHP 以外の環境化学物質のアレルギーに対する影響評価としては、産業医科大学と共同でVOC(揮発性有機化合物)の一種であるトルエンの曝露によるアレルギー反応の増強作用を確認した研究例があります。
この研究は卵白アルブミンをアレルゲンにして喘息を発症したマウスの鼻に、0、9、90 ppm という低濃度のトルエンを曝露し、アレルギー反応の指標の変動を検討したものです。

喘息を発症したマウスにトルエンを曝露したところ、脾臓での Th2 サイトカインの上昇、血漿中のアレルゲン特異的抗体量の増加が認められました。

以上のことから、低濃度であってもトルエンはアレルギー反応を増悪させることが示唆されました。
このほか、感受性要因に注目した化学物質の健康影響評価を行うプロジェクトを、2006 ~ 2011 年度にかけて実施しています。

このプロジェクトでは化学物質が高次機能に及ぼす影響を研究課題としており、環境化学物質が、神経・内分泌系と並んでアレルギー・アトピーに与える影響を研究しています。
化学物質のリスク評価に関する研究は、世界、日本ともに、大量曝露による急性毒性や発がん性、生殖機能への影響をターゲットにしたいわゆる“古典的”毒性に関するものが中心です。

一方、それ単独で生命を脅かさなくとも、現世代の人々の生命や生活の質(QOL)と密接に関係し得る症状・疾患を対象とし、比較的低濃度での曝露という観点から化学物質の影響を検討・評価する研究は、今後重要となってきます。
本号で紹介した環境化学物質とアレルギー性疾患との関係を評価した例は、そういった意味で、特に環境研究の分野において革新的な研究領域と言えます。
アレルギー反応を指標とした化学物質のリスク評価のあゆみ本号で紹介した研究プロジェクトは 2002 年度から以下の課題に取り組み、現在も継続して取り組んでいます。
DEP に含まれる化学物質がアレルギー性疾患に及ぼす影響とメカニズムの解明に関する研究DEP(ディーゼル排気微粒子)と DEP から抽出した脂溶性化学物質および残渣元素状炭素粒子をそれぞれ、アレルギー性喘息を発症したマウスの経気道に曝露し、病態に及ぼす影響を検討しました。

フェナントラキノンがアレルギー性疾患に及ぼす影響とメカニズムの解明に関する研究
DEP に含まれる多環芳香族の一つであるフェナントラキノンを、アレルギー性喘息を発症したマウスの経気道に曝露し、病態に及ぼす影響を検討しました。
ナフトキノンがアレルギー性疾患に及ぼす影響とメカニズムの解明に関する研究フェナントラキノンと同じく DEP に含まれる多環芳香族の一つであるナフトキノンを、アレルギー性喘息を発症したマウスの経気道に曝露し、病態に及ぼす影響を検討しました。
フタル酸エステルが自然発症アトピー性皮膚炎に及ぼす影響に関する研究
アトピー性皮膚炎を自然に発症したマウスの腹腔内にフタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)を投与し、病態に及ぼす影響を評価しました。
フタル酸エステルが塩化ピクリル誘発皮膚炎に及ぼす影響に関する研究
塩化ピクリルを耳介部に塗布してアトピー性皮膚炎を発症させたマウスの腹腔内に DEHP を投与し、病態に及ぼす影響を検討しました。
フタル酸エステルがダニ抗原誘発皮膚炎に及ぼす影響とメカニズム解明および「in vivo スクリーニングモデル」の開発に関する研究ダニアレルゲンをマウスの耳介に皮内投与しアトピー性皮膚炎を早期に誘発させる「in vivo スクリーニングモデル」を開発、この方法で疾患を発症したマウスの腹腔内に DEHP を投与し、病態に及ぼす影響を検討しました。
in vivo スクリーニングモデルを用いた環境化学物質のアレルギー増悪影響評価in vivo スクリーニングモデルを用いて、健康影響が懸念されている環境中の化学物質のアトピー性皮膚炎に対する影響を検討しています。
アレルギー増悪のより簡易なスクリーニング手法の開発Ⅰ
(DNA マイクロアレイを用いた短期スクリーニング手法の開発)
in vivo スクリーニングモデルにおける遺伝子発現の変化を、病態の進行とともに経時的、網羅的に解析し、解析遺伝子の中からより早期に変動する遺伝子を選抜することで、アレルギーの発症、あるいは増悪の検知が可能か否か検討中です。
アレルギー増悪のより簡易なスクリーニング手法の開発Ⅱ(培養細胞系を用いた簡易スクリーニング手法の開発)アレルギー反応に関わる樹状細胞、リンパ球の単独あるいは複合培養系を用い、in vivo スクリーニングと相関の良い in vitro スクリーニング手法が可能か否か検討しています。
これらの研究は以下のスタッフによって実施されています。
<研究担当者>
●環境健康研究領域
高野 裕久、井上 健一郎、柳澤 利枝、小池 英子、藤巻 秀和(現、環境リスク研究センター)
●内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理プロジェクトグループ
石堂 正美(現、環境リスク研究センター)、白石 不二雄(現、環境リスク研究センター)
<客員研究員>
市瀬 孝道(大分県立看護科学大学)、島田 章則(鳥取大学)、市川 寛(京都府立大学)、古倉 聡(京都府立医科大学)、井上 衛(京都府立医科大学)
近年、私たちの周囲でアレルギー性疾患に苦しむ人びとが急増しています。その主たる原因は、利便性が高く快適な生活のために化学物質が大量に生産され、私たちが日々の暮らしのなかで毒性をもつ化学物質に曝露される機会が増加したためと考えられます。ディーゼル排気微粒子などの大気汚染物質のほか、さまざまな化学物質が皮膚、室内空気、食物をとおして人体に取り込まれています。
化学物質による健康影響の研究では、原因物質の特定と病態を悪化させるメカニズムの解明、さらには影響の評価手法の確立が求められます。

これら一連の研究は主に動物実験によって進められますが、新たな実験方法の開発も不可欠です。

本号では、3名の研究者が研究の経過や成果だけでなく、その背景や将来展望についても紹介しています。
アレルギー性疾患は、多くの人びとが罹患する可能性が高く、生活習慣病と並んでますます大きな健康問題になると予測されます。

これらの病気の発症には、個々人の遺伝特性が関与するものの、ライフスタイルと環境の変化が大きく影響することはまちがいありません。

ところが、アレルギー性疾患の主因である化学物質は、種類が非常に多いだけでなく、環境中や生体中での蓄積(残留)性、複数の物質による相互作用など多くのことが未解明のまま残されています。

国立環境研究所では、この分野の研究をさらに発展させ、人びとが健康に暮らせる社会づくりに貢献することを目指しています。

2008 年 1 月
理事長 大塚柳太郎
環 境 儀 No.27
―国立環境研究所の研究情報誌―
2008 年1月 31 日発行
編  集 国立環境研究所編集委員会
(担当 WG :植弘 崇嗣、井上 健一郎、小池 英子、柳澤 利枝、大迫 正浩、伊藤 智彦、内山 政弘、吉田 勝彦、岸部 和美)