アレルギー性疾患への環境化学物質の影響5 | 化学物質過敏症 runのブログ

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3 :簡便かつ鋭敏な影響評価手法の確立
Q:研究者として、研究の成果を社会に還元することは考えられているのでしょうか。
井上: 研究者としてできることは、今後も適正な影響評価を行うことです。どんな化学物質が健康に悪影響を与えるか、ということを報告し、成果を社会に還元していければと思います。
そのためには、症状を悪化させる仕組みを細胞レベルで解明し、動物試験の結果をきちんと裏付けなくてはなりません。

動物試験、細胞試験の両方を並行して行い、なおかつ相関させながら、健康への影響評価を包括的に進めていくことが大事になります。

Q:そうすると、今後は小池さんの研究が重要になってくるわけですね。
小池: 現在、免疫を担う細胞の1つで、体内に侵入してきた異物を処理し、その情報をリンパ球に伝える機能(抗原提示機能)を持った、免疫応答に重要な抗原提示細胞を、アトピー性皮膚炎モデルで使用しているマウスから採取し、さまざまな解析を行っています。
抗原提示は、アレルギー反応に至る最初のステップとして重要です。このことから、抗原提示細胞の活性化は、化学物質の影響を評価する上で良い指標になると考えています。

この実験では、細胞を培養する際に、そこにDEPやDEHPなどの化学物質を単独、もしくはアレルゲンと複合させたものを添加し、細胞がどのような機能的変化を起こすのかについて検討していきます。
現在、化学物質が抗原提示細胞の機能をどのように変化させるのか、といったアレルギー疾患の発症・増悪メカニズムの解明を急ぐと同時に、抗原提示細胞を用いた影響評価手法の確立をめざしています。この影響評価手法に関しては今年度中に確立し、その後は抗原提示細胞以外の免疫担当細胞を用いた影響評価手法も順次検討していく予定です。

Q:メカニズムの解明と同時に、影響評価手法の確立も並行して行う形になるのですね。
小池: そうです。一般的に言えば、動物個体を用いた生体内(in vivo)試験は最小限の個体数にとどめているとはいえ多くの動物が必要で、なおかつ実験が長期間に及ぶことから、多数の化学物質を評価することは非常に困難です。

それに対し、細胞を用いた試験管内(in vitro)試験は、短期間で同時に複数の化学物質を評価することが可能です。このことから、in vivo試験の結果を反映する簡便かつ鋭敏な in vitro 試験法を確立することが重要と考えています。

また、動物愛護の観点から見ても、in vitro 試験の確立には意義があります。
柳澤: 現在、小池さんが in vitro 試験法を開発していますが、ただし、これが確立されても動物試験は並行して行うことになります。

それは、細胞レベルの評価は生体内で実際に起きる変化を把握するのに必ずしも充分ではなく、よりヒトに近いところでの生体を用いた評価が必要だからです。

Q:それでは最後に、今後の研究の進め方についてお聞かせいただけますでしょうか。
井上: まだ評価していない化学物質がたくさんありますので、今回評価した化学物質の研究を、毒性メカニズムの解明を中心に継続しながら、評価対象とする化学物質を拡大していきます。
また、今回はアレルギー性喘息とアトピー性皮膚炎への反応から化学物質の健康への影響を調べましたが、これからは肥満、糖尿病、高血圧などの生活習慣病に対する化学物質の影響にも領域を広げていければと考えています。