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花粉症に関する「正確な情報」と「おおまかな情報」
Okamoto Yoshitaka
・岡本 美孝
千葉大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科教授
スギ花粉症患者の増加が指摘されているが,実態はというと必ずしも明らかではない。
筆者らが調査した千葉や山梨では確かに患者は増加していると考えられ,また小学生のスギ感作率も60%前後に達していた。
小学生の高い感作率は花粉症の今後益々の増加を危惧させる。
しかし,秋田県の沿岸部での調査をみると小学生の感作率は20%台であり,地域によって感作率,発症率は大きく異なっている可能性がある。
また,花粉飛散数についても全国で増加しているのかどうか必ずしも十分には検討されていない。
これらの正確な情報が今後の花粉症の治療対策にいかに重要であるかは言うまでもない。地域の行政,住民の理解とある程度の予算があれば高い精度の実態調査をすることは決して難しくはない。
一方,2007年のスギ・ヒノキ花粉飛散は「異例」であった。
前年の夏の天候が雄花の成育に大きな影響を与え,翌年の花粉飛散量を予測する大きな指標となってきた。
2006年の夏は日照時間が著しく少ないなど雄花の成育には不適であり,この天候のみから判断すると南関東では,2007年の飛散量は少量飛散であった2006年と比べてもその1/10程度になるとのことであった。
しかし,2006年末の雄花のスギの着花状況に関する報告では,着花量は通常その夏の天候に相関するはずなのに,むしろ2006年の飛散前よりも平均3倍前後多いというものであった。
2年続けてスギ・ヒノキ花粉の少量飛散ということは,これまで経験していない状況であったが,ただ,「重回帰分析」の結果,2006年の半分~2/3程度とするスギ・ヒノキ花粉飛散予報が発表された。
実際は千葉など2006年より2~3倍多い飛散量となり決して少量飛散ではなかった。
また,実際の臨床の立場からは,飛散予測の細かな数字は意味がなくせいぜい,非常に多い,多い,少ないで十分であろう。
もちろん正確に予報出来るシステムがあればそれに越したことは無いが,少なくとも現状ではおおまかなものがむしろ良いのではないか。
今年の花粉飛散量は700個程度と予報が公表されると,500個飛散がみられたという話を聞いて,本年は7割飛散が終了した,あと3割の飛散が残っているが,もう少しだ,頑張ろうといった患者の声もネット上にはみられる。
また,2007年に入っても異常な暖冬が続いたが,スギ花粉飛散がどうなるか予測が難しかった。
暖冬でスギの雄花が冬眠から覚めないのではないかという推論で飛散開始は例年より遅く2月20日頃と予報が発表されたが,発表の翌週の1月末には東京で飛散が開始した。
花粉症は,症状がひどくなってからではコントロールは容易でない。
症状が少しでも出たら,あるいは症状がなくても花粉飛散開始が始まったらすぐに治療を始めるという初期治療が花粉症治療では重要とされている。
予報に惑わされた患者,医師は,私自身も含めて少なくない。花粉飛散の正確な予報は現状では容易でない。
その上にこれまでに検討の経験がない気象条件下ならば,むしろわからないことはわからない,とすればすっきりした。