生活環境病としてのアレルギー疾患 | 化学物質過敏症 runのブログ

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特集 環境整備とアレルギー疾患の予防・管理・治療

 序  生活環境病としてのアレルギー疾患

Akiyama Kazuo
・秋山 一男*
*国立病院機構相模原病院臨床研究センター長

 
☆ 図表の閲覧はPDF版をご利用下さい。
 アレルギー疾患の発症・増悪に関わる危険因子として,気管支喘息を例にとると,Global Initiative for Asthma(GINA2002)においては,個体因子(host factors)と環境因子(environmental factors)の2大因子を挙げており(表1),また我が国の喘息予防・管理ガイドライン2003(JGL2003)においても発症に関わる因子として素因とともに環境因子である原因因子・寄与因子を挙げている(表2)。こ

のように現時点における気管支喘息をはじめとしたアレルギー疾患の発症・増悪に関わる危険因子として,遺伝素因と環境因子があることは,すでに多くのエビデンスをもってコンセンサスが得られている。

すなわち喘息の素因を持つヒトの発病に影響を与える因子として,室内塵ダニに代表される屋内アレルゲンや花粉等の屋外アレルゲン,職業性感作物質,タバコの煙,大気汚染等の環境中の汚染物質が挙げられている。

一方,最近話題となっている衛生仮説(hygiene hypothesis)においては,小児期の呼吸器感染症罹患はアレルギー疾患発生を抑制するということが言われており,兄姉の有無や保育園通園の有無とアレルギー疾患発症率との関連についてTh1/Th2バランスの視点からの研究が盛んである。

また,最近の小児期のイヌやネコ飼育は成人でのアレルギー疾患発症を抑制するという研究等,環境因子とアレルギー疾患発症との関連はまだまだ今後のさらなる研究が必要と思われる。

特に近年の多くの疫学調査で明らかなように各種アレルギー疾患有病率の著しい増加傾向を万人が納得しうるように説明できる明確なエビデンスがない現在では,間接的にも有病率増加と歩調をあわせて変化の著しい環境因子について多角的に研究することは重要な課題である。
 しかしながら,すでにアレルギー疾患を発症している患者にとっては,環境整備,特にアレルゲン曝露量の低減化が症状出現の回避につながり,アレルギー疾患の増悪予防の基本であることに異論はないであろう。

最近のアレルギー免疫学,薬理製薬学の進歩によるアレルギー疾患関連各種薬剤の高い効果とガイドラインの普及による重症度に応じた薬物療法の普及はめざましいが,一方,アレルギー疾患治療・予防の基本である原因アレルゲン曝露の回避の重要性がともすれば医療者側においても軽視されがちな昨今において,アレルゲン曝露量を減らすための環境調整・整備の適切な実施には,前提としての正確かつ日常生活レベルで実施可能なアレルゲンモニタリング法の開発と低コスト化とその普及は重要かつ危急の課題である。

スギ花粉症は近年我が国の春の季語にもならんとするほどの勢いで増加しているが,その花粉情報は季節中には毎日のテレビ放送において天気予報とほぼ同格の位置づけで多くの人々の関心事である。

花粉飛散量の正確な予知法開発,さらにはリアルタイムでの飛散量の把握と情報提供は一般国民の日常生活の中で求められている重要な情報である。また重要なアレルゲンである家塵ダニの曝露測定法もダニ虫体数の算定という大変な作業からダニアレルゲン分析・精製研究の成果としてのmajor allergenの同定により,免疫法によるDer 1,Der 2の測定へと進歩し,さらには測定試料収集法としてこれまでの床や寝具からのゴミの収集からより人体曝露量や様式に近い空中飛散アレルゲンの捕捉や皮膚アレルゲン量の測定へと研究が進んでいる。

また,大気汚染とアレルギー疾患発症・増悪との関連については,PM10からPM2.5へとさらに微細な浮遊粒子状物質との関連,ディーゼル廃棄微細粒子のアジュバント効果や気道過敏性への影響等についての研究が進んでいるが,未だ我が国のアレルギー疾患増加の原因と言い切るまでのエビデンスはないのが現状である。

さらに適切な自己管理を行っていくためには,人的環境の整備,すなわちアレルギー疾患患者自身の理解とともに患者を取り巻く医療者側,家族,友人,同僚さらには我が国全体の理解と協力が必要であり,お互いの適切なパートナーシップの確立が望まれる。

2003年,長年にわたり待望されていたハチ刺傷によるアナフィラキシーショックに対する補助治療としてのエピネフリン自己注射キットが輸入承認を得て我が国でようやく使用可能となったが,適応疾患として要望が強かった食物・薬物アナフィラキシーへの適応,さらには小児用キットの承認は得られなかった。糖尿病患者によるインスリンの自己注射と異なり,アナフィラキシーショック時には本人による注射ができない場合が大いに想定されるため,周囲の第3者による代行注射の可能性があるという特殊性を考慮しなければならない。

我が国では医師の他には,患者本人以外の自己注射の使用は法整備を含め未だ環境が整っていないため,その面での調整整備が必要とのことである。

特に食物アナフィラキシーは小児において重要な致命的予後に関わる疾患であり,本人はもとより医師・保護者の要望が非常に強く,早急な法整備を含めた環境整備,対策が必要である。
 日本アレルギー学会名誉会員である信太隆夫先生は,糖尿病や高血圧・高脂血症等を「生活習慣病」と総称していることと対比して,アレルギー疾患を「生活環境病」と呼ぶことを提唱されているが,まさに日常生活の中における生活環境が深くかかわる疾患として適切な呼称であり,一般の方々のアレルギー疾患に対する理解,協力を得るためにも,今後普及していくべき呼称ではないかと考えている。