第四章 サイトカイン、慢性疲労症候群、および疾病行動
サイトカインと慢性疲労症候群
Cytokines and chronic fatigue syndromeR Patarca慢性疲労症候群患者は免疫系の活性化が認められる。すなわち、cytotoxic T cell を含めた活性T リンパ球数増加、そして循環サイトカインレベルの上昇である。
とはいえ、慢性疲労症候群患者の免疫細胞機能の情報は貧しいもので、natural killer 細胞細胞毒性(NKCC)の低値、マイトゲンに対する培養リンパ球反応の欠乏、そして時にIgG1 とIgG3の欠乏が最も多い免疫グロブリンの欠乏がしばしば認められという程度である。
いわゆるT ヘルパー細胞type2 や、炎症起因性サイトカインの増加を示すという慢性疲労症候群の免疫異常は、一時的であったり、また潜在性のウイルスや細菌感染症による身体的および精神的機能障害の原因や結果であったりする。
これら因子の相互作用が緩回と悪化を繰り返す本症の恒久化に関係しているのかもしれない。
ヘルパーT 細胞type2 の優位は湾岸戦争症候群患者に認められている。
また本態性多種化学物質過敏状態のような関連疾患でも認められるかもしれない。
この視点からの治療への介入法は、サイトカインを好ましい状態に、そして免疫系を望ましい状態に導くこととなる。
炎症のメディエーターおよびそれらの睡眠との相互作用
慢性疲労症候群やそれと関係する疾患に対する関連性
Mediators of inflammation and their interaction with sleep
Relevance for chronic fatigue syndrome and related conditions
JA Mullington, D Hinze-Selch, T Pollmaecher
ヒトでは、一次的な防衛機能の活性化は非REM 睡眠の質の増加や減少が生じる。そしてそれは初期の免疫機能の活性化の程度による。
ある種の炎症性サイトカインの軽度の上昇はヒトの実験的睡眠欠乏で認められ、さらに、精神科的治療薬で中枢神経作動性のclozapine、これは免疫調整機能を有することが知られているが、この投薬の継続とともに、サイトカインの軽度の上昇が認められる。
TNF-αやその可溶性受容体、そしてIL-6のようなサイトカインは末梢にも中枢神経系にも存在し、末梢の免疫刺激と中枢神経系に仲介される行動や、睡眠、眠気そして疲労のような感じとリンクしている。
慢性疲労症候群では生じている衰弱するほどの疲労や、それと関連してくる疾患はサイトカインの変動と関係しているかもしれない。
生理的睡眠の調整におけるサイトカインの役割
The role of cytokines in physiological sleep regulation
JM Krueger, F Obal Jr, J Fang, T Kubota, P Taishi
種々な成長因子(Gfs)が睡眠の調整の連携している。
これらの成長因子は神経活動の反応して生成され、その作られた神経回路の中での入出力の関係に影響して、その局所の状況を左右していると考えられている。
これらのGfs は神経シナプシスの効果に影響している。
最近同定された睡眠の調整に連携しているすべてのGfs はまたシナプシスの可塑性に連携している。
これらの物質のうちで、睡眠調節に関係していることが最も研究されているのは、IL-1(interleukin-1-β)とTNF(αnecrosis factor)である。
IL-1やTNF の注射はノンレム睡眠を増強する。IL-1 またはTNF のどちらを抑制しても、自然の睡眠を障害し、また睡眠欠乏後の睡眠のリバウンドを抑制する。
IL-1 およびTNF の内部産生の刺激はノンレム睡眠を増強する。
IL-1 およびTNF 脳内レベルは睡眠傾向と関連している。
例えば、睡眠欠乏後にはこれらのレベルが増大している。
IL-1 およびTNF は睡眠を調整している複雑な生化学的なカスケード反応の一部である。
カスケード反応の流れの中には、NO、成長ホルモン放出ホルモン、神経成長因子、核因子カッパB、そして多分アデノシンやプロスタグランディンも含まれている。
IL-1 およびTNF の効果を調整している内因性の物質としては、IL-4、IL-10、そしてIL-13 のような抗炎症性サイトカインが含まれている。
IL-1 およびTNF の活性を変動させ得る臨床的な条件とては睡眠の変化を伴ってくるが、その例としては感染性疾患や睡眠時無呼吸を上げることができる。
睡眠の生化学的調整知識が進歩すれば、睡眠問題はさらによく理解され、多くの臨床症状も改善され得るであろう。
サイトカインにより誘発される疾病行動:機構と連携
Cytokine-induced sickness behavior: Mechanisms and implication
R Dantzer疾病行動(sickness behavior)とは感染症の経過中に病気になっている患者に起きる一連の同調してくる行動の変化を意味している。
分子レベルでみれば、この変化はIL-1(interleukin-1)やTNF-α(tumor necrosis factor alpha)のような炎症性のサイトカインの脳への影響によるものである。
末梢で放出されたサイトカインは、炎症の起きている部分を支配している求心神経線維の速い伝達経路を介して脳に働く。
また遅い伝達経路としては、脈絡叢や脳室周囲の部位から生じて、脳実質に大量にサイトカインが拡散される経路がる。
行動的なレベルでみれば、疾病行動とは感染病原菌と戦う組織を認識する中枢神経の動機付け状態の表現として考えられ得る。
疾病の動機付けの状態は他の動機付けと干渉しあい、そして過敏性獲得とか古典的な条件付けといわれるような非免疫的な刺激に反応することが知られてきている。
とはいえ、この疾病の動機付けの状態の可塑性に関する機構に関してはいまだ分かっていない。
化学物質不耐性と関連した症状の説明可能な機構
Potential mechanisms in chemical intolerance and related condition
DJ Clauw
化学物質不耐性の症状はそれのみの孤立した症状としても起きるが、しばしば他の疼痛、疲労、記憶障害などの慢性症状と一緒に起きてくる。
このため、個々人にしばしば起きるこの多彩な症状は、多種類化学物質過敏症、線維筋痛症、慢性疲労症候群、そして湾岸戦争症候群のような種々の慢性の多くの症状を抱えた症候群として定義されてきた。
これら症候群の研究を集めてみると、これら症状を引き起こす何らかの統一した機構が存在していることが示唆される。種々な方面からの研究結果は、自律神経系、および視床下部―下垂体系のような非常に多くの遠心性神経経路の機能異常がある範囲のこれら患者にあることを示している。
多数の感覚器刺激に対して「不快の閾値」が低いという、感覚情報処理の異常についての証拠が最も多数集まっているといえる。
これら疾患の発症や慢性化に精神的な、また行動的な因子が重要な役割を果たしていることが知られている。
痛覚研究の分野では、症状の発現に身体と精神との間に緊密な関係があることが知られている。
すでに確立している方法や新しい方法により、警戒や期待ののような精神因子が線居維筋痛症のほとんどの患者では小さな役割しか果たしていないこと、そして感覚器の刺激性が精神的な意味でなく身体的な意味で増大していることが明快に示されている。
これらの研究はさらに多くの感覚器について推し進め、またもっと多数の患者を対照に推し進める必要がある。とはいえ、もし症状のみお基盤とした考え方でなく、例えば化学物質暴露を避けたがるというような行動によってこの疾患を定義しようとすると、精神的な関与が非常に大きく評価されるようになる可能性があることには注意しておいた方がよい。