解毒の限界を越す身の回りの化学物質
主な摂取源といいますと?
宮田 やはり食物、水、大気からですね(表1)。
〈食べ物から〉
食べ物はそれ自体一種の天然の化学物質と言えます。
それに加えて今は、残留農薬や食品添加物などの合成化学物質が入ってきます。
昔は食物以外には殆ど化学物質は入ってこなかったわけですが、今は食品色素だけで一人当り年間2~3kgもとっている状況です。
私達の実験では、食品色素でアレルギーが強くなることが分かりました。
しかも、有効濃度(ある程度取ると症状が強くなる量)より少ない量を毎日与えると、症状がひどくなって来るのです。
ですから、それ自体は大した量でなくても微量の食品添加物が毎日入って来ると、体の中で悪さをすることが多々あると思います。
〈水から〉
水は塩素が非常な悪さをします。発ガン物質のトリハロメタンも塩素と水の中に含まれている有機物が反応してできたものです。口からだけではなく、プールやお風呂では皮膚からも入り、そうすると温泉療法と同じ原理で、全身の皮膚からトリハロメタンなどが入って来ることになります。
口から入ったものはある程度、肝臓の解毒機能でチェックされますが、呼吸器や皮膚から入って来たものは肝臓というチェックポイントを通らずに、体中を駆け巡る怖さがあります。
〈大気から〉
大気中からも、実にさまざまな屋外大気汚染物質、室内大気汚染物質がとり込まれます。
最近は建材にも様々な化学物質が使われ、接着剤、防腐剤、殺虫剤が気化して出てきます。
こうした建材からのいろいろな化学物質が悪さをして、目や鼻、喉の刺激症状、目や粘膜の乾燥、皮膚の紅斑や湿疹、疲れやすい、頭痛などを起こします。
空調設備が整って、換気が不十分なオフィスビルやマンションは特に危険で、こういった近代的ビルで起きる化学物質過敏症は特に「シックビル症侯群」と呼ばれています。(表2)
木造の家屋でも、換気が不十分だと起こります。
室温を上げると建材に使われている化学物質は気化しやすくなるので、冬期の暖房にも用心が必要です。
夏もクーラーを効かせて窓を閉め切って殺虫剤を用いると危険になります。
表1)日常生活の中の化学物質の種類
飲料水
一般食品
食品添加物
化粧品
殺虫剤
1,800種 70,000種 8,600種 3,400種 3,400種
表2)オフィスで常用されている化学物質
化学物質名
使用内容
健康への影響
ベンゼン ワックス、人工樹脂、リノリウム、人工皮革 発ガン性、粘績への刺激
ブチルアセトン プラスチック、人工皮革、ラッカー 結膜炎
ブチルアルコール 保湿液、芳香剤、クリーナー 刺激
ブチルセロソルブ 溶媒、クリーナー、ドライクリーニング 中枢神経症状
四塩化炭素 樹脂、オイル、ワックスの溶媒 毒物、悪心、頭痛
クロロホルム クリーニング液 疲労
シクロヘキサン 溶媒 高温度で傾眠、皮膚刺激
エチルアルコール 溶媒、芳香剤 細胞の変性作用
二塩化工チレン 溶媒 呼吸器刺激、中枢神経作用、粘膜刺激
芳香剤 悪臭の隠ぺい、クリーナ一、空気の清澄感 毒性、中枢神経作用
イソプロパノール 溶媒、速乾性インク、芳香剤 頭痛、めまい、悪心、うつ状態
トルエンキシレン 溶媒 頭痛、中枢神経症状
全部含めたら、どれだけ体の中に入っているか分からないですね。異常が出て当り前と言いますか…
宮田 薬物の作用には「総負荷量」の問題があります。
一つの薬では何ともなくても、同じ程度の別の薬を一緒に負荷した場合、いろいろな副作用が出て来るわけです。
今の環境ですと、体の中に入って来る異物(生体内異物)の総負荷量は、化学物質や食物を全部含めて莫大な量になっています。
生体には異物から体を守る働き、解毒能力がありますが、その限界を超えてしまったところに、アレルギーや過敏症などいろいろ問題が出ていると思います。
入るを抑え、排池を促進
予防は化学物質に接触しないことが一番でしょうが、中々難しいですね。
宮田 難しいですね。しかし、少しでも入ってくるのを防ぐ努力が必要です。
治療は薬物療法(解毒剤)、栄養療法、運動療法などありますが、最も重要なのは、原因になる物質に接触しないことです。
無農薬・無添加の食品を摂る、水に注意する、屋外排気型の暖房器具を使う、換気に注意する。
そして、生活に必要でないものは一切使わないことです。
もう一つは、入ってきたものを追い出す努力、個人的にはこの二通りの努力が必要です。
化学物質は脂肪組織にたまりやすいので、運動して皮下脂肪をどんどん燃やしてやるのが一つ。
それと汗を流すこと。
運動でもサウナでもお風呂でも良いのですが、皮膚(汗腺)から毒物を排出することです。
活性酸素の消去に関するビタミン・ミネラル
先生は、栄養療法を重視されていらっしゃいますが、化学物質過敏症と栄養素との関連は?
宮田 化学物質過敏症が増えている背景には、
①環境中に化学物質が増えていることと、②異物から体を守る免疫力を維持するのに必要であると同時に、症状を緩和したり消してくれるビタミン、ミネラルが不足していることがあげられます。
こうした微量栄養素が不足すると、体の防衛力が低下し、異物が体の中に入ると活性酸素などで異常反応が起きやすくなります。
また、生体内に異物があると、これが活性酸素を作る元になります。
さらに、過敏症の結果起きる炎症にも活性酸素が影響してきます。
ビタミンではビタミンA、βカロチン、ビタミンC、ビタミンEが相当量必要になります。
ミネラル類では最近注目されているセレニウム。それと鋼、亜鉛、マンガン、マグネシウム、カルシウムが特に重要です。
アメリカでの調査では、化学物質過敏症の患者はこれらの徴量栄養素が過敏症でない人に比べて、明らかに少なかったそうです。
それで、かなりの人がこれらの補給で症状の改善が見られています。
今、我々を取り巻く環境は急速に変化し、悪化しています。
その環境の解毒的役割をするのに、ビタミンやミネラルは重要になっているのです。
(※新しい時代の健康を考えるコミュニケーション紙 けんこう151