化学物質過敏症に理解を 高知県で発症責任を求め裁判継続 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・化学物質過敏症に理解を 高知県で発症責任を求め裁判継続

http://www.kochinews.co.jp/&nwSrl=342997&nwIW=1&nwVt=knd  参考

2015年08月23日08時13分
 わずかな化学物質に反応し、頭痛や吐き気などさまざまな症状が現れる「化学物質過敏症(CS)」。

高知県内では少なくとも100人以上がCSだと診断され、治療を受けている。高知県東部に住む50代の智子さん=仮名=は、小学校に勤めていた2004年に発症し、6年後に仕事を辞めざるを得なくなった。

智子さんは発症の責任を求めて、2011年に高知地裁に訴訟を起こした。

CSについて知らない人が多くいる中、「二度とこんな被害が起きないように」との思いで臨んだ裁判。

今も闘いが続いている。

2015年5月、緑に囲まれた南国市の飲食店で智子さんと会った。

個室の網戸から爽やかな風が吹き抜ける。

「私にとって、体調がいいときに外食ができる数少ない場所なんです」。

化学物質の付着を防ぐため帽子をかぶり、活性炭入りのマスクを着けた智子さんは、そう話した。

 ■体重20キロ減

活発で子ども好きの智子さんは1980年に地元の市町村職員に採用され、保育所などで勤めた後、2004年からA小学校に勤務。施設管理などに携わっていた。

だが赴任後、家庭科室周辺で勤務中に頭痛などに悩まされた。

そしてその年の夏休み最終日、白い液体が漏れ出た古びた缶が、家庭科室のテラスに放置されているのを見つけた。

鼻を突く強烈な刺激臭。

校長の指示で缶を敷地内の倉庫に運んだが、意識がもうろうとしてその場にうずくまった。

だが「子どもには危険かも」と思い、テラスに漏れていた白い液体を洗い流した。

その後、たばこや柔軟剤などの臭いに近づくと、呼吸困難や頭痛、吐き気に苦しむようになったという。

缶の液体が、使用期限が過ぎた有機リン系の松食い虫駆除剤だと後で知らされた。

本来は100~300倍に希釈して使う原液だった。

治療法を求めて、いくつかの病院の皮膚科やアレルギー科などを受診したが、症状は悪化。咳(せき)がひどく、ステロイドなどでぜんそくの治療を続けたが、副作用に苦しみ、一時は自力で歩けなくなった。

2006年秋、新聞記事で初めて、化学物質過敏症(CS)という病気を知った。

「自分と同じ症状だ」と思い、四国で唯一、化学物質過敏症の診断と治療ができる高知市の国立病院機構高知病院へ。

問診や検査の結果、化学物質過敏症と診断された。発症から2年以上がたっていた。

このころ、食品添加物や水道水などを口にしては嘔吐(おうと)を繰り返していた。

体重は発症前より20キロ近く減ったという。

A校に置かれていた松食い虫駆除剤は、現在は処分されている。

■専門医わずか

高岡郡四万十町にある民間病院の院長で、国立病院機構高知病院で化学物質過敏症外来を担当する小倉英郎医師によると、「化学物質過敏症とアレルギーは全く別」という。

化学物質過敏症は多くの場合、揮発性の化学物質を吸ってしまうことで、血流を介して感受性をつかさどる脳細胞に影響が及んで、発症する。

大量の防虫剤や、海外製の安価なマスクなどの使用が原因だった例もあるという。

シックハウス症候群の多発に伴って問題化し、2009年にレセプト(診療報酬明細書)で使われる病名リストに登録された。

ただ発症のメカニズムは不明な点があり、症状は更年期障害に似たものなどさまざま。より慎重な問診が欠かせない。

専門医が全国に両手で数えられるほどしかいないのも、病気の特殊性が背景にある、と小倉医師は言う。

「中毒関係の研究者には、化学物質過敏症の存在を認めない人がいることも事実」だ。

一方で「臨床現場では化学物質過敏症を理解する医師が、徐々に増えてきた」と捉えている。

国立病院機構高知病院で化学物質過敏症と診断された県内外の患者は、2000年以降で約200人。

「健康で暮らしている人が今後発症しないとは限らない」と指摘している。

■家の中にテント

身の回りにあふれる化学物質の影響を受ける化学物質過敏症患者。小倉医師は、「まず化学物質を避けることが大切」と治療法を説明する。

化学物質過敏症の診断を受けた智子さんは、国立病院機構高知病院での入院を経て、高知県内山間部の宿泊施設に計1年以上滞在。

自然に囲まれ、無農薬の野菜などを食べて過ごした。

ぜんそくは5カ月目に治ったという。

今は自宅で、妹の直美さん=仮名=ら家族と暮らしている。

完全に回復したわけではないが、数年前より顔色は良くなった印象だ。

その理由の一つが、長年の不眠が解消されつつあること。

寝室には今、「家庭用クリーンルーム」と呼ばれる広さ布団1枚分ほどのテントがある。清浄な空気を中に送り込む装置が付いており、「この中ならマスクなしで寝られる」という。

普段は香料や合成洗剤、インクなどあらゆる化学物質を避けるように気を配っている。ティッシュや新聞などは外で干してから使う。

なるべく家で過ごし、外出の交通手段は家族が運転する自家用車のみ。

酸素吸入器や着替えも欠かせない。

「姉は友人が多かったけど、柔軟剤やたばこの臭いが残ると具合が悪くなるので、家に上げることもできないんです」と直美さん。

人との付き合い方も一変した。

 ■知ってほしい

智子さんは2006年末から治療で休職し、2010年に分限免職となった。

そして2011年に「(公務の)松食い虫駆除剤の処理が原因」として、地方公務員災害補償基金に対し、今回の訴訟を高知地裁に起こした。

小倉医師らによると、化学物質過敏症発症の責任を問う訴訟は、高知県内で初めてとみられる。

智子さんは家族や弁護士と資料をかき集め、当時の同僚らに話を聞いて回った。

裁判では小倉医師や主治医らが証言台に立ち、別の化学物質過敏症専門医も診断を支持した。

また約50人が参加する高知県内患者会「化学物質過敏症・ゆるゆる仲間」代表の福田喜代子さん(67)はブログなどを通じて、裁判の情報の拡散や傍聴を呼び掛けてきた。

2015年5月下旬の判決日。体調が崩れるため法廷に入れない智子さんの代わりに、福田さんら「化学物質過敏症・ゆるゆる仲間」のメンバーが傍聴席に座った。

だが裁判の結果は、敗訴。

高知地裁は、智子さんがA校に赴任後、缶に触れる前に体調を崩すことがあった点などを挙げ、松食い虫駆除剤を処理した後の症状について、それに暴露したことが原因かは「疑問を差し挟む余地がある」などと判断した。

主張したことが証拠として認められるには、難しいこともある。

裁判では「化学物質過敏症の疾病概念が確立しているか」という点や、関連する既往症の有無、心因性の症状の可能性なども議論された。

患者の多くは、私生活でも周囲から「気のせいでは?」と誤解を受けることがある。

日々多くの化学製品に囲まれ、何事もなく暮らしていると、患者のしんどさを想像するのは簡単ではない。

「生活するには周囲の協力が必要。でも理解が進まず、孤独に暮らし、精神的に緊迫した患者が増えている」と福田さんは訴える。

「分かりづらい『目に見えない病気』を社会が支えるようになってほしいんです」

智子さんは家族や医師、患者仲間らに支えられ、高松高裁に控訴することを
めた。

「私と同じような状況で苦しむ人を、もう出したくない」。あらゆる面で負担が大きい裁判を続ける理由を、智子さんはそう話す。

「全国で(同様の)裁判をしている人も、『病気のことを知ってほしい』という気持ちだと思うんです」
 高松高裁での控訴審は9月中旬に始まる予定だ。