宮田先生インタビュー | 化学物質過敏症 runのブログ

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【KAKERUインタビュー No.3】


北里研究所病院の臨床環境医学センターに勤務する宮田幹夫教授。
先生を頼りに、全国各地から化学物質過敏症の多くの患者さんが連日訪れる。


化学物質過敏症という奇妙な病気を知ったのは、つい最近のことだった。

健康を損なうこともなく今日まできたため、私は環境を意識することはほとんどなかった。

しかし、特定の食べ物にアレルギーを起こすのとは違って、あらゆる化学物質、しかも空気にすら敏感に反応してしまうことを知り、愕然とした。

一体どうやってこの時代、その悪の連鎖から抜け出せるのだろうか。

その疑問にやさしい語り口で朗らかな宮田先生は丁寧に答えてくださった。全国各地から、さまざまな症状の患者さんが港区白金の北里研究所病院までやってくる。診察は予約でいっぱいのため、常に2ヵ月以上待つ。70歳を目前にした先生の素顔に迫ってみた。

---幼少時代からの実験大好き少年が
CS患者の救世主に

「小さい頃は体が弱かったですし勉強は苦手でしたが、実験が大好きでしてね。例えば『赤インクはどうして赤く見えるのか?』とかね。赤インクって白いものに乗せると赤ですけれど、黒いものに乗せても赤くならないんですよ。そういう不思議なことをね、ずっと実験室で黙々とやっていた。中学生時代の先生が大らかな人で、いつでも実験室を使っていいよというので、四六時中いました(笑)。高校では残念ながら、そうはいかなかったけれど、大学はどうしても実験がしたかった」


懐かしそうに笑ってお話しする宮田先生は、医師になってからも長い間、ラットなどを使った実験を行なってデータを蓄積するような得意分野をいかした仕事を続けてこられた。専門は眼科。

眼は健康の要で、異常が生じると症状が出る。

化学物質過敏症のテストも、元々は「塗装工など職業上、どうしてもシンナー利用を避けられない方や農薬をいつも使う方の中毒診断のため」使っていたものだ。

薬物中毒は、眼球に反応が出る。

10年ほど前、まだ化学物質過敏症が日本では定着していなかった頃に、宮田先生はこの病に冒された患者さんの診察に取り組むようになる。

アメリカでは45年も前に論文などが発表され、認知が進んでいた病気だったが、その当時の日本ではまだ知る人は僅かだった。

それが、10年の時を経るうちに、爆発的に患者が増えてゆくことになる。

「今や症状の薄い人も含めると100万人くらいCS患者がいるとされています。シックハウスやシックスクール、シックオフィスなどの例があるように、気をつけていても知らぬ間に過ごす環境の何処かで影響を受けることがある。何か変だなという場合は、換気を徹底したり、できるだけ離れて近づかないということも大切です」

頭痛、吐き気、不眠などCSは様々な症状がでる。何かの物質に反応する人も、そうでない人も存在する。

自分の嗅覚を信じて、症状が悪化しないうちに逃げることも重要なのかもしれない。

---化学物質過敏症の
専門医としておもうこと

神経系を侵すのが、化学物質過敏症。

ホルモン系を侵すのが、環境ホルモン。

免疫系を侵すのが喘息やアトピーだ。

精神病だと言う人もいるかもしれないが、「皮下出血があったり体の変化がある、この奇妙な症状は精神病にはない。これまでは無かった病気」という。

精神症状を示すのがひとつの特徴だ。

生活指導で回復する確率はどのくらいなのだろう?


「統計をとったことはないが、私たちの見当では6~7割というところでしょうか。大体、改善すると通院しなくなってしまいますので。よくなって回復する方がいる限り、やはり精神病ではない。患者さんが日々をどうやって生きてゆくかは、人柄とか性格が大いに関係するもの。社会的に訓練されてきた立場とか、元来明るい性格の人は、この病気になっても孤立しない。もともと暗い性格だったり、精神的ショックが重なると、その引き金になるのが化学物質過敏症となったりするのです。そうなると中々回復のキッカケを掴むことができない」


そもそもこの病気になりやすい体質みたいなものはあるのだろうか?

「ありますね。アレルギーと化学物質過敏症は非常に共通点が多い。うつ病の患者さんは逆に6~70%アレルギーを持っていることが多い。切っても切り離せない関係なんですね。もともとアレルギーと、うつ病と、化学物質過敏症は非常に近い関係。その症状のひとつとして『思い込み』が強く出るのです。例えば、バラの香りにアレルギーをもつ患者がいるとします。そうすると自分でもその花がダメだと思い込んでいますから、バラの造花を見てもアレルギー反応が起きるのです。化学物質過敏症でも同じような例があります。悪いと思いこんだ場所に近づくだけで、精神症状として反応が起きてしまう」


アレルギーといっても肌にでるものであればわかりやすい。

けれど脳の中枢神経が反応してしまうのだと、外側から見ることができずわかりづらい。

精神病と紙一重ともいえる。

化学物質過敏症は、アレルギーともうつ病とも区別がつかない。

慢性疲労症候群や線維筋痛症(※)なども精神疾患とも区別がつきにくい点が多いという。

(※)身体の広範囲に強い痛みを起こす原因不明の病気

---学校との連携は、  
どうとってゆくべきか?!

例えば不登校を1年以上続けている子に、学校は何も手を差し伸べられないのだろうか。

専門医との連携があれば何とか学校に戻れるような配慮をとれるのではないか。

「専門医と学校の連携は、学校長先生の判断に基づくものです。但し、保護者の了解がないと動けません。校長先生に対して、保護者がどう働きかけるかが肝心です。シックスクール問題などでも、親の意向があれば私は学校と連携しています。親は子どもを学校に戻すことを第一に考えて間口を広げてほしい」
「健常な親とCSの子どもであれば問題解決もしやすいのですが、CS患者の親の子だと精神疾患の症状が出ている場合もあり、子ども主体で対応を考えているかどうかは疑問な時もあります。記憶力、理解力が壊れていることもしばしばありますから。この症状がもとで夫婦の関係、友人関係も壊れて、孤独になってしまうこともある。一番難しい問題です」

健康になると一時あった攻撃的な言動もなりを潜め、そのようなことがあったとも思い出せない。

その代わり、異常事態では誰も止められないほどの攻撃性を発揮する。

この病気にならない心構えはあるのだろうか。

「朝太陽と共に目覚め、夜は日が沈んだら眠る。きちんと食べ、体を動かして汗をかき、たっぷり眠る。そういう人間としての最低限のリズムを守って、健康管理をすることです。便利にな時代、人体に危険な モノは挙げたらキリがありません。しかし、それらを列挙していても健康にはなれません。どう共存してゆけるかを見出さないと。どんな病気でもそうですが、治ると自分で信じることこそ大切なのかもしれません。アメリカのCS患者は、患者だけの集落があって一定期間療養のため暮らしていますが、お祈りが一番有効だと言っています。そして、かなり多くの方がそこから社会に復帰しています」


どんな時でも絶望してはいけない。希望をもって生きることこそ、乗り越えるための第一歩だ。

CS患者はある意味で、時代のメッセンジャーとして身をもって呈しているのかもしれない。

けれども、これからを生きる子どもがその病に阻まれ、未来を閉ざされるようなことがあるとしたら見過ごすことはできない。

一つずつこじれた糸をほぐすように、私たちが解決すべき事柄があるはずだ。

環境問題は自分の生きている居場所から始まっている。

宮田 幹夫(みやた・みきお)
1936年愛知県に生まれる。

昭和35年名古屋市立大学医学部卒。

眼科領域の中毒実験を中心に研究。 昭和63年より北里大学医学部眼科へ。

現、北里大学名誉教授。眼科医の立場から化学物質過敏症の診断と治療に取り組み、重い患者の避難所づくりにも尽力。

共著に『あなたも化学物質過敏症?』(農文協)、「化学物質過敏症」(文春文庫)など著書多数。