・出典;化学物質問題市民研究会
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掲載日:2015年11月18日
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Roundup.jpg(9992 byte) 米環境保護庁は本年6月(訳注1)に、アメリカ及び世界で最も広く使用されている除草剤、グリホサートは内分泌かく乱物質であるとする”説得力のある証拠はない”と、結論付けた (訳注2)。
最も近年の測定によれば、約3億ポンド(約135,000トン)のこの化学物質が2012年にアメリカの作物に使用されており、内分泌かく乱は、がん、不妊、肥満を含む広範な重大健康影響に関連しているのだから、これは一見したところ素晴らしいニュースのように見える。
ラウンドアップという名前の下にグリホサートを売っているモンサントは、間違いなくそれはよいことであると感じている。
”私は、我々の製品のひとつの安全性が独立した規制当局により確認されたことを見て幸せである”と、同社の上席科学者スティーブ・レビンはモンサントのブログに書いた。
しかし、EPA はこの化学物質のホルモン系への影響の追加テストを求めないことを意味する EPA によるこの免罪は、その決定はほとんど完全に農薬産業側の研究に基づいていたという事実により価値が低められる。
グリホサートが内分泌系を妨げるかどうかのレビューにおいて、企業から独立した資金による研究はわずか5つしか検討されなかった。グリホサートのホルモンへの影響を調べたもので6月のレビューで引用された32の研究のうち27の研究-そのほとんどは公的に入手することはできず、インターセプト(The Intercept)が情報公開法に基き要求して入手した-は産業側により実施されたか、産業側から資金を得ていたかのどちらかであった。
研究のほとんどはモンサント社か又は共同グリホサートタスクフォース(Joint Glyphosate Task Force)と呼ばれる産業グループにより後援されていた。
有害性の発見は退けられた
EPAの決定に用いられた証拠についてのインターセプトのレビューによれば、研究に誰が金を払っているかが問題である。
EPA がこの化学物質が内分泌系に害を及ぼすかどうかを決定するにあたり検討した少数派の独立資金研究 5つのうち 3つがこの化学物質は害を及ぼすことを発見した。
例えば、ひとつの研究は、グリホサートを有効成分とするラウンドアップへの暴露は、”性成熟期及び成獣期のオスのウイスターラットの生殖系に有意な有害影響を及ぼすかもしれない”ことを見つけていた。
もうひとつの研究は、”低用量で環境的に妥当な濃度のグリホサートはエストロゲン様作用を引き起こす”と結論付けた。
そして文献レビューではもっと多くのピアレビュー研究が、人の肝臓細胞のホルモン作用、ラットの精液機能、そしておたまじゃくしの性比率のようなことに影響を及ぼすなど、グリホサートはホルモンを阻害することができることを発見していることを明らかにした。
それなのに、27の産業側研究の中でグリホサートが害を及ぼすと結論付けたものはひとつもなかった。
わずかひとつの研究だけがグリホサートに暴露した実験動物に観察された健康問題を引き起こす役割がこの農薬にはあるかもしれないと認めた。
グリホサートを投与されたいくつかのラットは、軟便、体重減少、及び少産であるらしかった。
しかし、その証拠は統計的有意の基準に合致しなかったのでモンサントの著者らはそれを”曖昧である”とみなした。
実際に、産業側資金による研究の多くは、グリホサートへの暴露はラットにおける生存可能な胎仔の数及び胎仔の体重の減少;ラットの膵臓中のホルモン生成細胞の炎症;及びラットの膵臓がんの数の増加を含む、重大な影響があることを示唆するデータを含んでいた。
いずれも内分泌関連の影響である。
それなのに、それぞれのケースで、時には動物が死んだ後でも、その科学者らは発見したことを過小評価するか、あるいは単純に退けるための理由を見つけた。
グリホサートに暴露したラットの着床妊娠数が減少したときに、例えば、1980年のモンサント資金による研究は”排卵と着床は投与前に起きたので、その減少は・・・投与に関連するとは考えられない”と説明した。
彼らは、着床と生存できる胎児の減少は”統計的に有意”であったと言及したが、著者らはそれにもかかわらず着床の減少は偶発であると結論付けた。
最近の研究 (訳注3)は、非常に低用量の内分泌かく乱物質は健康影響を起こすことができるだけでなく、より高い用量で引き起こされるものよりはるかに劇的な影響をもたらすことができることを示しているが、それらは相対的に低用量の物質を投与された動物に起きているという理由で、これらの研究のあるものはこの明確な事象を退けている。
例えば、1990年にモンサントによりなされたある研究は比較的低用量のラウンドアップに暴露したラットの中に膵臓がんの統計的に有意な増加に言及している。
ラットのがんは、コントロールグループにおける2%の可能性に比べて14%であった。
しかし、より高い化学物質に暴露したあるラットは低いがん発症率であったので、科学者らは、増加は”グリホサート投与とは無関係”であると結論付けた。
欠陥のあるシステム
独立系科学者らは、研究がどのように設計されているか、又は実施されるかを含んで、様々な理由により産業側資金提供の科学者とは異なる結果にいたるかもしれない。
しかし、アトラジンやその他の農薬の安全性を評価したEPAの委員会で働いた生物学者マイケル・ブーンはインターセプトにこれらの結果の分析は特に偏向にうってつけの領域であると述べた。
”データの解釈及びそれがどのように書き上げられているかについて、いったん産業側と深くかかわってしまうと問題になる”。
会社に金銭的影響を与える研究に、会社に資金提供をさせ実施させることは明らかに利益相反であるように見えるが、それがEPAの標準的なやり方である。
6月に完了したグリホサートレビューは、農薬の内分泌かく乱の可能性に関する52の報告書のひとつであったが、そのすべては産業側資金提供の研究に大きく依存し、そのほとんどは、グリホサートの場合がそうであたように、さらなるテストを行う根拠はないと結論付けた。(除草剤として市場に出されているが、グリホサートはEPAにより殺虫剤とみなされている)。
化学会社に彼ら自身でテストすることを求めることは、科学的とは言わないまでも、資金不足のEPAにとって財政的に意味がある。昨年、158億ドル(約1兆9,000億円)以上の純売り上げ(概略 EPAの年間予算の2倍)があったモンサントは容易にテスト費用を支払うことができる。
モンサント、シジェンタ、又はダウのような会社は、自身でテストするか、又はグリホサートレビューのための調査の多くを提供したワイルドライフ・インターナショナルや CeeTox, Inc.のような調査ラボに委託することができる。
しかしこれらのシステムを批判する人々によれば、これらのラボは彼らを評価者として雇う大会社に依存しているという事実により、そのようなことは役に立たず、彼らの発見を歪めるだけである。
”彼らは誰が彼らのトーストにバターを塗っているか知っている”と食品安全センターの上席科学者であり、EPA 農薬プログラム室の前スタッフ科学者であったダッグ・グリアン・シャーマンは述べた。”それは人々が必ずしも明らかに詐欺まがいのことをしようとしているわけではない。むしろその費用を払っている人の方向になびくよう圧力がかかるということである”。
プロセスは、会社がどのラボにそのテストを実施させるかを選択する非常に早い時期に歪められる。
”産業側は、彼らが委託することができるエストロゲン陽性の化学物質をかつて見つけたことがない会社について非常によく知っている”と、内分泌かく乱とハザード評価を専門とするマサチューセッツ大学アマースト校の生物学教授ローラ・バンデンバーグは述べた。”あなたが隣人の中でどの職人が正直者ではなさそうなのかを知っているようなものだ”。
EPAは、そのプロセスについて声明の中で自己弁護した。”我々は、農薬製品を評価する時に EPA が人の健康への潜在的なリスクを評価するための透明で公開されたプロセスを維持することを明確にすることを望んでいる”という記述で、それは始まっている。EPA の声明はまた、法律が農薬会社は彼らの製品を支える調査を求めていることを指摘した(訳注4)。
”調査データが EPA に提出されると EPA の科学者らは、調査の設計が適切であり、データが正確に収集され分析されていることを確認するために”データを分析する。
シンジェンタは、農薬会社がEPAにデータを提供しなくてはならないと指摘した声明の中で次のように反応した。
”同法は製造者は新たな化合物が安全であることを証明する広範な科学的調査をすることを求めている。EPA は調査がガイドラインを厳格に固守するよう管理し、文書化している。このことは EPA、研究科学者、及び公衆に対する最も高い透明性を提供している”。
モンサントの報道担当は、 eメールに次のように書いた。
”政府は、除草剤が安全に使用できることを確実にするために非常に多くの調査を求めている。これらの調査のあるものは我々から出ることが求められるが、これらの調査の多くは、第三者の科学者及びラボにより実施される。EPA は人間と野生生物における内分泌経路へのグリホサートの影響の可能性を評価する11の検証された分析を見た。そのデータのレビューに基づき、EPA は’エストロゲン、アンドロゲン、又は甲状腺の経路との潜在的な相互作用の説得ある証拠は存在しなかった’と結論付け、この結論は国際的な評価ガイドラインに従って実施された他の安全性研究の結果と一致する”。
ダウ、ワイルドライフ・インターナショナル、及び CeeTox はインターセプトのコメント要請に答えなかった。
安全に対する誤った意識
産業への依存は、アンドロゲン、エストロゲン、及び甲状腺ホルモン作用を阻害する可能性についてのEPAの農薬スクリーニングの取り組みのいくつかの限界のほんのひとつである。
その取り組みはまた遅延に付きまとわれている。
議会が、農薬が内分泌かく乱物質であるかどうかを見るためにスクリーニングを開始するするようEPA に権限を与えたのは 1996年のことであった。
それなのに、6月の52の農薬スクリーニングは、テストが求められて以来ほとんど20年経過して初めて、プログラムから出てきた成果物であった。
その間、我々の内分泌かく乱物質についての知識は急激に増加し、それらに関するテストの多くは時代遅れのものとなった。実際に、グリホサートのレビューのために提出された研究の多くは1970年代のものである。あるものは40年前のものである。
全部で27の産業側研究のうち15は、”内分泌かく乱”という用語が作り出された1991年より前のものである。
内分泌研究の分野でこれらの研究が実施されて以来数十年間で、おそらく最も重要な発見は、ホルモン的に活性な化学物質はたとえ微量であっても強力な影響を持つことができるということである。
それなのに、EPAのスクリーニング・プログラムで使用されているカットオフ値は、最近の研究で影響を持つことが示されている最も低いレベルよりはるかに高かった。
”我々は、EPA が使用するカトオフ値より 1,000倍低いレベルで影響を見ている”と、バンデルバーグは述べて、そのような無神経なスクリーニングにより与えられる安全に対する誤った意識を警告した。
”それは、耳の遠いお祖父さんをテレビの前に連れてきて、聞こえますかと尋ね、彼が聞こえないと答えれば、テレビの音は出ていないと結論付けるようなものだ”。
産業側に提供されたデータと同じように問題があるのは、EPA が考慮しない研究があることである。
”彼らは、その分野の他の人々が完全に妥当である考える研究を除外する”と、食品安全センターのシャーマンは述べた。
又は、グリホサート・レビューの場合のように、独立的に実施された研究により発見された有害性は検討されるかもしれないが退けられる。
独立系の科学者らは、長年の規制における農薬産業の役割 (訳注5) について非難してきたし、利益相反のあるどのような研究も除外することを含んで、それを正す方法を提案してきたが、ほとんど前進はなかった。
実際に、このレビューは切り抜けたが、グリホサートは現在、もっと大きいが同じく欠陥のあるもうひとつの規制のハードルに直面している。
15年毎に EPA は市場にある農薬を最新の科学に照らしてレビューしなくてはならない。
人への健康影響に関する研究を含み、今後数か月で完了することが期待されているグリホサートのレビューは、国際がん研究機関(IARC)が今年の3月にグリホサートをヒトに対する発がん性がおそらくあると分類した(訳注6)後に初めて行われるものである。もしEPA が、フランスやスリランカのようにグリホサートを登録しなければ、それは本質的には禁止されたことになる。
モンサントは、最近の EPA レビューについて、”グリホサートの安全性は農業製品に関してまとめられた最も広範な世界的な人の健康データベースのひとつによって支持されている”とそのブログで述べつつ、その製品はやがて行われるのEPAのレビューで生きながらえるであろうと楽観しているように見える。
残念ながら、モンサントがそのデータの大部分を提供している。
訳注1:参考情報
Bergeson & Campbell, P.C. 2015年7月10日 内分泌かく乱物質: EPA が内分泌かく乱物質スクリーニング・プログラム 第一段階評価を発表
訳注2
USEPA OFFICE OF CHEMICAL SAFETY AND POLLUTION PREVENTION, June 29, 2015
EDSP Weight of Evidence Conclusions on the Tier 1 Screening Assays for the List 1 Chemicals
EPA has completed its Weight of Evidence (WoE) assessment evaluating results of the Endocrine Screening Program (EDSP) Tier l screening assays for the List l chemicals. The WoE documents for the 52 chemicals are listed in Attachment A along with the chemical and report identifiers.
Executive Summary
There is no convincing evidence of a potential interaction with the estrogen pathway for glyphosate.
No androgen-related effects were seen in the wildlife Part 158 studies.
No thyroid-related effects were noted in any of the Part 158 studies.
Based on weight of evidence considerations, mammalian or wildlife EDSP Tier 2 testing is not recommended for glyphosate since there was no convincing evidence of potential interaction with the estrogen, androgen or thyroid pathways.
訳注3
EHP 2012年4月号:論説 環境化学物質:低用量影響の評価 リンダ S. バーンバウム
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/12_04_ehp_Low-Dose_Effects.htmlhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_09/09_04/090416_EPA_tests_pesticide.html
訳注4
ワシントンポスト 2009年4月16日 EPA 農薬中の化学物質のテストを義務付け ヒトと動物へのリスク判断が目標
訳注5
BioScience 2014年10月6日 産業側の影響ををまともに受け
農薬規制
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/articles/BS_141006_Pesticide_Regulation_amid_the_Influence_of_Industry.html
訳注6
発がん性関連参考情報
Triple Pundit 2015年3月26日 モンサント ラウンドアップががんに関連するとする WHO の報告書を攻撃
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/news/Triple_Pundit_150326_Monsanto_Attacks_WHO_Roundup.html
29 October 2015, E-mail to EC from 30 NGOs in EU who call for partial glyphosate ban:
http://env-health.org/IMG/pdf/2015_10_29ngo_letter_glyphosate.pdf
http://env-health.org/IMG/pdf/2015_10_29ngo_letter_glyphosate.pdf
Glyphosate - Need for a robust and credible scientific assessment of carcinogenicity