・出展:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
http://kokumin-kaigi.org/
・予防原則は“恐怖の法則”、それとも人類の救い?
理事 水野 玲子
去る7月15日、つくばの国立環境研究所で「ネオニコチノイド系農薬と生物多様性」という公開シンポジウムが開催された。
そこで農業環境技術研究所の研究員永井孝志氏による、思いがけなく激しい「予防原則」批判を耳にした。
10年以上前に予防原則に関する「欧州環境庁環境レポート」の翻訳に一部携わった者として、予防原則の意味について少し考えてみたい。
このレポートは、『レイト・レッスン―14の事例から学ぶ予防原則』(七つ森書館)として2005年に翻訳本が発行されたが、科学的証拠が確実に固まるまでなんら対策を講じなかったために、甚大な人的被害をもたらした過去の教訓をまとめたものである。
科学的証拠が100%固まることなど実際にはありえないというのに、それが完璧でないからという理由で却下されてきた大切な予防策、それを無視して行動する限り子や孫の世代に未来はない。
私たちは過去の歴史からすでに十分すぎるほどの教訓を得ているはずである。
アスベスト、BSE(牛海綿状脳症)、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、流産防止
剤のDES、成長促進剤としてのホルモン……。
もっと前に禁止していれば、これほど多くの被害者を出さないで済んだ事例ばかりだ。
最近では、子宮頸がんワクチンの例がある。その危険性を指摘する多くの声が出ていたにもかかわらず無視され、若い日本の女性338万人にワクチン接種が行われ、今でも打ち続けられている。
2009年から2012年までだけでも副反応の被害報告が1000件を超え、今でも日常生活に支障をきたしている若い女性が大勢いることを忘れてはならない。
ところが、今回のシンポジウムの講演で永井氏は、EU がネオニコチノイド系農薬3種類の一時使用中止を2013年末に決めたことは予防原則の過剰適用だとする見解を示した。
予防原則が危険であるとするキャス・サンスティーン『恐怖の法則』をあげて、今回のEU の判断は証拠が不十分なだけでなく極端に安全側にたったものであるとした。
「環境ホルモン空騒ぎ」論を多くの専門家が信じ込むに至った過去を振り返ると、同研究所が、ネオニコシンポジウムの最初の演者としてこのような人物を選んだこと自体、空恐ろしいことである。
欧州環境庁は2013年、新しい『レイト・レッスン 早期警告、科学、予防、革新』をまとめた。
まだ翻訳されていないが、この中にはネオニコなど浸透性殺虫剤とミツバチの問題、ナノ物質、携帯電話、ビスフェノールA、水俣など、きわめて重大な教訓が盛り込まれている。
今後、少しずつ紹介することができたらよいと思う。