4. 化学物質の混入防止対策の管理の考え方
化学物質の管理は、何をどこまでするのか、判断することが難しい。人が関わっている以上、ヒューマンエラーは起きるだろう。
環境も世情も変わる昨今では要求される管理のレベルは日々変化する。
細かく管理を考えても、想定外の危害が起り得る。管理として出来ることはすべて実施することが一番良い管理とはいえない。決めたことを確実に実施することが必要である。
そのためには「関連する法令を遵守していること」と、「製品や製造工程を踏まえた上で妥当性のある管理をすること」、つまり、目的、方法、結果などを説明できるように管理することである。
本稿は化学物質の混入対策を考えるために、原料に存在する可能性のある化学物質、製造中に生成する化学物質の管理については割愛し、工場内で使用している化学物質の管理に焦点を絞る。
4.1 化学物質の関連法規
食品の安全を確保するためには、関連する法律を遵守していることが不可欠である。食品製造に関連する法令は数多くあり、相互に関わり合っている。化学物質に関連する法令を表3に列挙した。
〈表3 化学物質の関連法規〉
化学物質の管理担当者は、どんな法令があるのか、何が決められていて、何をしなければならないのか、または何をしてはいけないのかを理解しておく。
加えて重要なのは「最新の法令を調べる方法を知ること」である。法令は頻繁に改訂される。例えば添加物の指定は月に1回の頻度では改訂されている。最新の情報を判断できることも必要である。
4.2 実際に管理する上での要点
化学物質に関して、全く管理していない工場はほとんどないだろう。
しかし化学物質の管理が不十分であるために起こる事故や製品回収はなくならない。
管理の内容は工場によって異なるが、不十分な管理状態が起きないようにすることが必要である。管理において考えておくべき内容を列挙する。
4.2.1 化学物質の選定と把握
食品工場における化学物質の種類としては、原材料にすでに存在している、製造中に生成する、工場内で使用されているがあげられる。
しかしこれら全てを把握できていない場合も多い。
たとえば原材料の一部に使用不可の特定原材料が含まれていた、現場に用途不明の化学物質や管理者が把握していない化学物質が存在するなどである。
このように化学物質が管理出来ていない状態は危険である。
化学物質の安全性は確認できず、使用状況もわからないため、万が一製品に混入した場合、原因がわからない、または対応がわからない事態につながる。
したがって、製造現場に存在する化学物質を用途や保管場所も含めてすべて把握する。
在庫量や使用対象なども含め、リストを作成しておくのも一つの有効な手段であろう。
表4にリストの例を示す。
リストアップする場合は、決して机上での作業では終わらせず、実際の現場で確認をする。
リストだけでなく、施設図面上に保管場所や使用場所を記入しておくと、位置を把握しやすい
化学物質のリスト(例)
リストアップすると、同じ用途、または期待する効果が同じにも関わらず複数の化学物質が存在していないか、確認することも出来る。
化学物質の種類は少ないほうが管理は簡便であるため、出来る限り選定することもひとつの方法である。
化学物質の選定と把握と並行して、安全性を確認する。
工場で使用する化学物質の製品安全データシート(MSDS)と取扱説明書を入手し、保管する。
MSDSでは化学物質の毒性や異常時の対応を、取扱説明書では用法用量を確認する。
取扱説明書は製品ラベルに記載されている場合もあるため、読める状態で保管する。
また、常に工場内にあるような化学物質だけでなく、開発中の製品に使う原料、原料や洗浄剤などのサンプル品、清掃業者、メンテナンス業者、害虫駆除業者など場内での作業を委託している業者が持ち込む化学物質などについては、持ち込まれる毎に持ち込まれた量や使用量、使用場所、保管場所や保管期限、および使用後は持ち出されたかなどの確認を毎回する必要がある。