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包囲攻撃網下にある化学物質過敏症(者)
米国・ニューメキシコ化学物質過敏症対策委員会 議長
アン・マッキャンベル医学博士 著
『エリン・ブロコビッチ』や『シビル・アクション』は、工場廃水に汚染された飲料水が原因で病気になった地域住民たちの実話を描いた映画です。
その住民たちの苦悶は、危害をもたらした企業の責任を追求する事が、
一般市民にとって如何に難しいかをまざまざと示しています。
汚染された空気や水に曝されても、シリコンの乳房植え込みでも、タバコでも、あるいは他の化学物質による被害であっても、通常、個人が正義を問うことは、さながら巨人ゴリアテに挑む勇者ダビデのように、一般市民自らが巨大企業に立ち向かう闘いを意味します。
自らが引き起こした危害に直面したとき、企業はその典型的な行動として、
被害者を非難し、問題を否定し、加害責任を回避しようとします。化学物質
過敏症(MCS)者に対する企業の対応も、ずっとそうでした。
化学物質過敏症は、殺虫剤、塗料、溶剤、芳香剤、カーペット、建材、清掃
用品など、一般的に用いられている様々な製品によって発症します。
しかし、これらの製造元は、その製品が安全ではないという通報を受け入れるどころか、通報者の口を封じようとしたのです。
そのために化学製造業界は、反化学物質過敏症キャンペーンを開始しました。
化学物質過敏症に関して議論しているかのような錯覚を作りだし、化学物質過敏症の存在を疑問視しようとする企てです。
タバコ業界について指摘されてきたのと同じことが、化学物質過敏症に対する化学業界の対応に、そのまま現れたのです。
それは、『提示される異論は
すべて、企業がらみの執筆者によるもの(1)』であった、ということです。
化学物質過敏症が『疑問の余地あり』と扱われたり、多くのジャーナリストが
化学物質過敏症について『両サイドの意見』を報道すべきであるように感じたり、化学物質過敏症が存在すると言う人と存在しないと言う人を同等に扱おうとするのは、化学業界の懸命な広報活動によるものです。
しかし、これは大変な誤りです。
なぜなら、化学物質過敏症について適切な観点は二つとないからです。
もっと正確に言えば、深刻で、慢性的で、しばしば生活に支障をきたす疾患
が現に存在し、それが化学業界による攻撃下にあるのです。
化学物質への敏感さを引き起こしたり激化させることに関与している、殺虫剤、カーペット、芳香剤、その他の製品の製造会社は、化学物質過敏症の退散を強く欲しています。
かなり多くの住民が化学物質に敏感であると報告し、さらにその数は
増えつづけているにも関わらず、たっぷり長く攻め続けることさえできれば、
その疾患は消滅する、と化学業界は思っているようです。
そのために、化学企業は化学物質過敏症に対して四方八方からの攻撃に
出ました。
つまり、患者は『ノイローゼ』で、『なまけもの』であり、彼らを助ける医師は『いんちき』であり、化学物質過敏症を支持する科学的な研究結果には『欠陥』があり、さらなる調査への要求は『無用』であり、化学物質過敏症を発症した人々の生理的被害を立証する臨床検査の結果は『信憑性がなく』、化学物質過敏症者への政府の支援計画は『職権乱用』であり、化学物質過敏症者に同調する人々は皆『情け知らず』であって、自分が病気であるという患者の『信念』を強化している、とのレッテルを貼りました。
さらに化学企業は、訴訟で裁判官達への影響力を武器に、押しを利かせ、
化学物質過敏症の証言是認を妨害しました。
タバコ企業と同様に化学企業も、自社製品が安全であると説得するために、
耳障りの良い名称をつけた表向きの非営利組織を利用したり、中立を装った
第三者の代弁人や、金で操った科学的研究を使うことがしばしばあります。
こうしたことで、化学企業はさらなる科学的客観性を装い、偏見や損得だけ
に取り憑かれた政策を覆い隠して、化学物質過敏症に関する科学的な『論争』という錯覚を作り出すようにし向けています。
医師、研究者、記者、害虫駆除業者、民間組織、国家公務員など、反化学物質過敏症の声明が誰から出ようと、間違ってはいけません・・・その反化学物質過敏症運動は化学製造業者によって推進されています。
これは、化学物質過敏症についての本当の話です。
(上記は序文、下記はメインとなる最後の2つの章の訳です。途中の訳は、
近日中に掲載します。)
化学物質過敏症の衝撃
化学物質過敏症が個人や社会に及ぼす衝撃は、莫大です。
潜在的な深刻さと、影響を受ける人々の数からしても。
多くの化学物質過敏症者は、全てを失ってしまいました。
健康を始め、家、仕事、貯金、そして家族も。
患者は、慢性的に病気で、自分たちが耐えうるような食物、水、衣類、住まい、車など、基本的な生活必需品を入手するのに、もがいています。
症状を悪化させない住まいを探すことは、特に困難です。
すなわち、殺虫剤や、香り、清掃用品、煙草の煙の残渣、新しいカーペット、塗料、ホルムアルデヒドを含む建材などで汚染されていない住まいを探すことす。
化学物質過敏症者の多くは、病状により、しばらくは、車やテント、軒先で暮らしています。
それに加えて通常、金銭的問題も抱えています。
反化学物質過敏症運動の最も不当な一面は、多くの参考人が、化学物質過敏症による障害者達に対し不利な証言をする為に、1時間あたり500ドル支払われていることです。
化学物質過敏症による障害者は、生き延びる為に、1ヶ月あたりそれだけ求めているのに。
社会に与える衝撃も同様に深刻です。
医師、弁護士、教師、コンピューターコンサルタント、看護婦、その他、多くの
熟練者たちの間で患者は増え続け、かつて社会において生産的な仲間であった人々が、もはや自分自身も養えず、自分たちの持つ技能で社会に貢献できなくなっています。
また、これらの人々の収益力が失われることは、市場消費額の減少と税収入の減少へと形を変えて行きます。
ニューメキシコ州の疫学補佐官であるロン・ボーヒースは、これら化学物質過敏症者の収益力が低下したことにより、税収が年1,500万ドル失われている可能性がある、と州知事への書簡で見積もりました。(55)
そして、この医学的状況は、珍しいことではありません。
カリフォルニア(56)とニューメキシコ(57)での罹患率調査では、回答者の16%
が、化学物質に敏感であると訴えていることが判りました。
更に、ニューメキシコ州では、回答者の2%が化学物質過敏症であるとの診断を受けており、それは、化学物質に敏感より更に深刻な容態です。
カリフォルニア州では、3.5%が化学物質過敏症であるとの診断を受けてお
り、化学物質に敏感であることが報告されています。
女性は、男性と比較して2倍もしばしば化学物質に敏感であると訴えていますが、それが「ヒステリー」のレッテルに影響しています。
それ以外、化学物質への敏感を訴える人々は、年齢、教育、収入、地理上の
範囲に関し、等しく分布しています。
化学物質への敏感は、また、民族、人種間でも等しく報告されています。
それぞれの調査で比較的高い罹患率が報告されているアメリカ原住民以外は。
この破壊的であり潜在的に予防できる疾患が、人口比率の増加に及んでおり、労働人口の重要部分をダメにしていることは、全ての人々の重大な関心事であるべきです。
これは国中で、世界中で、全ての職業の人々に影響を及ぼしています。
化学物質過敏症は、よって、真正面からまともに扱われることが重要、不可欠です。
化学、医薬業界が医療専門家や行政にさせようとしているような、臭い物に蓋をする扱いではなくて本当に、化学物質過敏症を無視することは無分別であるのみならず、非人道的です。
結論
化学物質過敏症は、充分な資金を得て広く行き渡っている故意の誤った情報
キャンペーンの包囲攻撃網下にあり、それは、化学、医薬業界によって行わ
れています。
彼らの目的は、化学物質過敏症に関して議論の錯覚を作りだし、化学物質過敏症の存在に疑問を投じることです。
これらの業界は、この疾患に脅威を感じており、彼らの産出物が有害かも知れないと言うメッセージに注意を払うよりもむしろ、そのように言う人を狙って
追及することに決めたのです。
会社は、株主だけに恩義があるのですが、医療や政府は、その患者や市民のニーズに敏感に反応する必要があります。
この病気は存在しないか精神的な問題に過ぎない、と、不幸なことに、産業界は納得させてしまいました。多くの医療や法律の専門家、政府、一般大衆、そして化学物質過敏症者の親しい人達までも。
その結果、この疾患自体で既に人生を頻繁に蹂躙されてきた人達は、適切な
衛生管理、住居、就職の機会、そして障害者給付金を拒絶されています。
その上、化学物質過敏症者達は、自分達を助ける筈のまさにその機関や専門家達や人々からの敵意、無礼に度々耐えねばなりません。
例えば、化学物質過敏症の年輩婦人は、公営住宅を追い出されてホームレスになりました。
職員達がそのアパートを改装すると主張し、彼女は、新しい
カーペットや棚で具合が悪くなって住めなくなる、と事前に知らせたのですが。
全ての食べ物にアナフィラキシー反応するので入院したある女性の場合、担当医は彼女を精神病棟に移管しようとしました。
強制食餌させるために。
ある校区では、化学物質過敏症の教師が、余りの長期欠勤で解雇されました。
その女性教師は、勤務に必要な宿泊施設を要請したのですが、それが用意されることはなく、その後でのことです。
ある元スチュワーデスは、荒野でテント生活をしなければならず、ある母親
と幼い子は、ひどい病気にならずに済む住居を見いだせず、車の中で暮らさ
ねばなりませんでした。
化学物質過敏症で障害者になった男性は、働きたくても職業復帰の便宜を得られません。
他に、数え切れないほどたくさんの人達が、住むに耐えられる住まいを探せ
ませんでした。
車の中で7年間暮らしてきた元マラソン選手もそうです。
毎年冬になると、彼女は凍傷にならないよう、苦心しています。
別の例では、トレーラーで暮らす化学物質過敏症の女性が州立公園から退去させられました。
冷淡な職員が彼女が居るのに殺虫剤を撒くと主張したから
です。
その公園管理者はこう言いました。
「化学物質過敏症についてのテレビ番組を見たことがあるけれど、化学物質過敏症だと言う人々と和解する必要はないとそれで確信した。化学物質過敏症なんて存在しないからだ。」
その番組は環境感受性研究所の当時の事務局長を特集し、化学物質過敏症者を、いそうろう、そして不適合者、として描写しました。
化学業界の故意の誤情報キャンペーンにも拘わらず、そして、医師、法律家、裁判官、政府へのその影響にも拘わらず、化学物質過敏症については、増大する進歩が行われています。
これは、強さと勇気と献身と、全く多い化学物質過敏症者の証明です。
実際、化学物質に敏感になってきている大変多くの人達がいるため、その人達を無視したり、黙らせる試みは、結局失敗する運命にあります。
しかし、化学物質過敏症が認知されるのは時間の問題とはいえ、それが日々
遅れることは、何百万人もの化学物質過敏症者の苦痛を長引かせ、他の何百万もの人々をそうなる危険に曝すことに相当します。
従って、医療、政府、社会に於ける人々は、産業界の誤情報キャンペーンを越えて見始めることが不可欠です。
化学物質過敏症の本質と、緊急の必要性を認識し、この増大している流行病に取り組むために。
参考文献
The MCS Task Force of New Mexico (USA)
米国・ニューメキシコ化学物質過敏症対策委員会は化学物質に鋭敏なニューメキシコ州の人達と支援者達から成る州全体に及ぶ支援組織です。この団体は化学物質過敏症への認識向上と、あらゆるレベルの化学性曝露が持つ危険について、人々への教育に貢献するものであります。
runより:3年前の再掲記事ですが化学物質過敏症患者を取り巻く環境をよく説明していると思います。
そもそも何で化学物質過敏症で論争が起こるんだろうね(-。-;)