-3日弁連:新たな化学物質政策の策定を求める決議 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・4 提言―新たな化学物質管理の必要性
(1) 「化学物質政策基本法」(仮称)の提言

日本弁護士連合会では、1990年の「農薬の使用に関する決議」において、農薬取締法の改正等を提言するとともに、全ての有害化学物質についての統一的・総合的な法規制の必要性を指摘していた。

その後の化学物質による汚染の進行、現行規制の問題や司法的救済の限界、世界的な動向に照らせば、わが国においても、化学汚染のない環境で生活する権利を確立し、持続可能な社会を構築するために、前記2(2)で記載したような従来の規制手法を抜本的に転換した総合的な化学物質政策を策定することが緊急の課題である。
よって、国は、次の内容を盛り込んだ「化学物質政策基本法」(仮称)を制定すべきである。

① 立法目的

安全性の保証のないままに多種多様な化学物質が使われる現在の生活様式や産業構造から、人や生態系に有害な化学物質のない、持続可能な社会に構造転換するためには、長期的な国家ビジョンと戦略が不可欠である。
したがって、まず、立法目的として、化学物質汚染による健康被害と生態系の破壊を未然に防止し、有害化学物質のない環境の実現を目的とすることを掲げるべきである。

② 予防原則

化学物質に関するリスク評価の科学的情報がいまだ十分に集積していなかったり、不確実なものであったとしても、現在ある客観的科学情報から、健康被害や生態系の破壊のおそれがあると合理的に判断できる場合には、その結果を未然に回避するため、その物質の使用禁止や制限を含む適切な規制を行ったり、一定期限内によりリスクの低い代替品に切り替えていくことの義務付けや経済的誘導を行うべきである。
化学物質による長期的、潜在的影響という特徴からすれば、確実な科学的知見を待ってから規制したのでは、手遅れになる可能性があるからである。また、具体的な規制手法についてはリスクとの均衡を考慮すべきであるが、製造から、使用、廃棄へと進むにつれて化学物質の管理は困難となるから、事前の予防やリスク削減こそがもっとも有効であることを考慮すべきである。

③ 生産者責任の強化

化学物質の情報をもっとも保有しているのは、その生産者である。
したがって化学物質の生産者に対して、生産から他者による使用、リサイクル、廃棄に至るまでの適正な管理が可能となるように、化学物質の情報(物質の特定、性状、量など)を把握し、それを提供する義務を課すことが必要である。
他者が製造した化学物質を含む製品を製造する流通経路上の川下の製品生産者においても、その製造する製品中に含まれる化学物質の情報を把握し、より下流の生産者や消費者に対してその情報を提供する義務 課すべきである。

さらに、化審法のもと、国の主導では進まなかった既存物質の安全性データの収集については、今後、その生産・使用を継続するためには、その製品にもっとも近い生産者に対して、一定の年限を設けて既存物質の安全性に関するデータの届出を義務づけることが必要である。
EUのREACHシステムもこの方向性を打ち出している。
安全性の立証責任を産業側に転換することで、既存物質についての安全性データの収集を加速化させるとともに、高懸念物質を特定して、より安全な代替品へと転換させることができるからである。

④ 市民参加の制度化

予防原則のもとでは、リスクアセスメントの段階での科学的情報の不確実性の程度を特定することが重要である。
そのうえで、どのような科学的情報に基づいてどのような規制を行うべきかの政策決定(リスクマネージメント)は、科学のみならず、社会経済的便益や規制のコストや社会的影響などを総合した政治的判断となる。
とすれば、そのような決定は、科学的な専門家のみならず、産業、NGOを含む市民などすべての利害関係者が参加する透明な手続によらなければならない。
すなわち、どのような科学的情報があり、どのような措置をとるかとらないか、選択肢としてはどのようなものがあり、それぞれの効果と影響はどうか、といった議論と決定に対する市民参加を制度化することが必要である。

(2) 新たな被害救済制度

公害の歴史が教えるように、加害者に対する責任追及こそ、被害救済と環境の改善につながることは当然である。
しかし、化学物質への暴露を理由として、その汚染責任者を相手取って損害賠償等の司法的救済を求めることは、発症の因果関係の立証などを含めて多大な困難を伴うことも事実である。

そこで、損害賠償等の加害責任の追及とは別に、困窮する被害者の人権を守るため、化学物質の暴露者である被害者に対する救済制度を創設・整備すべきである。
化学物質の種類や症状、暴露の状況、既存の救済制度の有無(たとえば労働現場での暴露の場合は労災制度を積極的に適用していく必要がある)、加害責任追及の実効性などが事案によって異なり、統一 的な制度化は困難であることは認めざるを得ないが、化学物質への暴露者の健康調査と、健康被害に対する救済を柱として、事案に応じた救済制度を検討すべきである。
また、暴露した化学物質の特定や暴露量などがより簡易に調査できるようにすること、発症者に対する診断や治療が進むように専門医や専門機関を全国的に増やすこと等の基盤整備が必要である。

この点、2003年6月3日、環境省は、茨城県神栖町の井戸水から旧日本軍の毒ガス兵器との関連が疑われる砒素が検出され、住民に被害が生じている事例では、いまだ因果関係が明確ではないにもかかわらず、治療にかかる医療費や交通費のほか、健康被害を訴える者について一定の手当を支給するという救済策を打ちたてた。
このような迅速な措置は画期的なものであり、今回の事案に限らず、化学物質による被害事例について拡大されることが望まれる。

飲料水・室内空気調査や血液・眼科検査などを通じて化学物質に暴露した者を集団的に特定し、健康手帳を交付するなどして、長期にわたって健康影響を調査することは、暴露と発症との因果関係についての立証を容易にし(疫学的因果関係の立証資料となる)、実態解明と被害救済にも役立つ。
化学物質汚染の被害者を長期間放置し、救済を求める被害者に重い立証責任を課すのではなく、治療と最低限の生活を保障したうえで、実態解明の調査を公的に進めることこそ、化学物質汚染の被害者の人権の救済につながるものである。

よって、上記のとおり提案する。