日弁連:新たな化学物質政策の策定を求める決議 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2003/2003_3.html
日弁連HPより

新たな化学物質政策の策定を求める決議

化学物質は私たちの生活に利便性をもたらしている反面、水俣病、カネミ油症などの悲惨な健康被害を生み出し、近年は、シックハウス症候群や化学物質過敏症の患者を増大させている。
また、ダイオキシンなど多種多様な化学物質が環境中に拡散され、いわゆる環境ホルモン作用物質は、生物の繁殖力の低下をもたらし、種の絶滅の危機を招来している。

わが国は、カネミ油症事件を契機として、1973年、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)を制定した。しかし、約2万種の既存化学物質は適用から除外され、その後の安全性点検は遅々として進んでいない。現行法制では、科学的に毒性が証明された化学物質を個別に規制しているが、これでは微量、低濃度の化学物質による長期的・複合的影響という現代型の汚染に対処できず、毒性情報の集積を待っている間に、取り返しのつかない健康被害や生態系の破壊が進行してしまうおそれがある。
また、用途別・縦割りの現行法の規制では、規制の空隙が生じかねない。

他方、化学物質汚染の被害者に対する司法的救済には、化学物質の特定、毒性、暴露、病像の特定、因果関係等について、立証の壁が立ちはだかっている。

国連人権委員会は、「化学汚染のない環境において生活する権利」は基本的人権のひとつであると位置づけた。
スウェーデンは、「毒物のない環境」を次世代に手渡すことを国家目標としている。
EUも、約3万種の既存物質の安全性点検を生産者に義務づけることなどを柱とする化学物質政策を導入しようとしている。

わが国においても、化学汚染のない環境において生活する権利を確立し、持続可能な社会を構築するため、新たな総合的な化学物質政策を策定することが緊急の課題である。

よって、当連合会は、国に対し、次の施策を求める。

以下の内容を盛り込んだ「化学物質政策基本法」(仮称)を制定すること。
目的:化学物質汚染による健康被害と生態系の破壊を未然に防止し、有害化学物質のない環境の実現を目的とすること。
予防原則:健康被害や生態系の破壊のおそれがある場合には、化学物質のリスクが科学的に不確実であっても、使用禁止や制限等の適切な規制を行うほか、期限を設けて、リスクの低い代替品の導入を義務づけ、あるいは経済的に誘導すること。
生産者責任の強化:生産者に対して、①生産から廃棄に至るまでの適正な管理のために、製品に含まれる化学物質の情報の把握と提供を義務づけること、②生産を継続する既存物質について、期限を設けて安全性に関するデータの届出を義務づけ、安全性が立証されない場合には、製造・使用を規制すること。
市民参加の制度化:どのような科学的情報に基づいてどのような規制を行うべきかの政策決定に対する市民参加を制度化すること。
化学物質汚染による被害者の人権を守るため、損害賠償問題とは別に、化学物質に暴露した者に健康手帳を交付するなどして、長期的にその健康調査を行い、発症者に対しては医療補助、生活補助等を行う制度を事案に応じて創設・整備すること。


以上のとおり決議する。

2003年(平成15年)10月17日
日本弁護士連合会

提案理由
1 化学物質の氾濫と化学物質による汚染問題

衣類、食品添加物、住宅資材など私たちの周囲には人工の化学物質が氾濫している。
その数は世界において商業目的で生産されているもので10万種類以上、わが国で流通しているものだけでも5万種類と言われている。

これらの物質の多くは生活の利便性を向上させた。
その反面、日本の深刻な公害事件は、人類が経験した大規模な化学物質被害であり、今日的角度からこれらの問題を見直す必要がある。
また、化学物質による新たな人体被害や生態系の破壊が懸念されている。

(1) 見直される公害病・食品公害病

水俣病はチッソ水俣工場の廃液に起因する有機水銀が魚介類の摂取を通じて人体に蓄積された公害事件だった。
長年の裁判闘争後の和解を経て、水俣病総合対策が実施されているが、いまだに何が水俣病かの争いが残り、患者救済の障害となっている。

カネミ油症では、主たる原因物質がPCBではなくダイオキシン類(ポリ塩化ジベンゾフラン)であることを、事件発生から34年を経た2001年になってようやく政府が認め、2002年から油症患者の体内ダイオキシン蓄積量と健康状態の追跡調査が開始された。
また、母乳を通じて乳児性油症患者となった女性の女児が油症特有の「黒い赤ちゃん」であった可能性が明らかになり、3世代にわたる汚染事例として注目されている。

しかし、未認定患者も含めて高齢化する患者の救済課題は残ったままである。

いずれも低濃度暴露の場合を含めた長期的、慢性的な毒性が見直されつつある。

(2) シックハウス症候群および化学物質過敏症

シックハウス症候群は、新建材や接着剤等に含まれるホルムアルデヒドなどの化学物質で室内の空気が汚染されたことにより、居住者が目、鼻、のどの痛み等多様な症状を訴える病気である。
近年、住宅の高気密化により発症者数が増大しており、潜在患者数は600万~1000万人に及ぶと推定されている。
また、保育・教育現場でも、同様の「シックスクール」問題が発生しており、子供達の学びの場が脅かされている。

化学物質過敏症は、大量の化学物質に接触した後、もしくは微量の化学物質に長期に接触した後に、非常に微量な化学物質に再接触した場合に生じる不快な症状で、目のチカチカ・涙・咳などの粘膜刺激症状からはじまって、寒気・頭痛などの自律神経症状、手足の震え・けいれんなどの神経症状、倦怠感・疲労感・筋肉痛・関節痛といった不定愁訴、下痢・嘔吐などの全身に及ぶ症状を引き起こす疾患である。

シックハウス症候群の原因物質は、ホルムアルデヒドなど建材等に含まれる化学物質や白アリ駆除剤など住宅に使用されている化学物質であるが、化学物質過敏症は、それらのほか、空中散布の農薬なども原因となる。

2002年1月、厚生労働省は、室内空気汚染に係わるガイドライン(第1次)として、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレンなど13種類の化学物質の室内濃度指針値を定めたが、このうち建築基準法の規制の対象となったのはホルムアルデヒドとクロルピリホスの2物質のみにすぎず、法的対策は不十分と言わざるを得ない。

また、シックハウス症候群や化学物質過敏症の患者は、医療現場においても、いまだ十分な理解を得られておらず、更年期障害や精神的疾患とされてしまう場合も少なくない。
また、過敏症患者に適合した医療器具の使用やクリーンルームの設置なども遅れており、治療も高額化しがちである。
重症の過敏症患者の場合、職業生活はもちろん、通常の社会的生活を送ることすら難しくなり、生活の基盤が破壊される。
このように深刻な被害実態があるにもかかわらず、原因の特定、診断・治療といった医療制度、生活援助、職業的暴露の場合の労災制度による補償など社会的な救済制度はいまだ十分に整備されていない。

(3) 廃棄物焼却場・農薬から食物へと広がるダイオキシン類汚染

日本では近年、廃棄物焼却場の労働者の体内に高濃度のダイオキシン類が蓄積されていることが明らかになった。
また、日本近海や河川・湖沼の底質中には水田除草剤ペンタクロロフェノール(PCP)やクロルニトロフェン(CNP)に起因するダイオキシン類が大量に含まれていることが判明している。

近年、一定程度進んだダイオキシン類の発生抑制対策に比べて、環境中に残存している難分解性のダイオキシン類が食物連鎖を通じて動物や人間の体内に摂取、蓄積されていくことについては、わが国においてはいまだ十分な対策が採られていない。

(4) 環境ホルモン汚染

シーア・コルボーンらの著書『奪われし未来』(翔泳社)の刊行により、新たな毒性概念としてホルモンかく乱作用が指摘された。
既に、野生生物ではインポセックスなどの生殖異変が観察されている。
愛媛大学の田辺信介教授らは、世界の海洋哺乳類の体脂肪に大量のダイオキシン類やPCBなどの難分解性化学物質が蓄積されていることを明らかにし、海洋哺乳類に増加している大量死や奇形などとの関連性を指摘している。

ヒトでも、精子減少、子宮内膜症などの疾患の増加と環境ホルモン物質との関連が疑われ、また、最近では、免疫系や神経系への影響のほか、児童に増大していると言われる多動性学習障害(ADHD)との関係が懸念されている。

環境ホルモンについては、まだ科学的証明にまで至らず不明なことが多い。しかし、きわめて微量の汚染で不可逆的な影響を及ぼしうること、しかも環境ホルモン汚染の最大の被害者が物言えぬ野生生物と次世代の子供たちであるということから、科学的情報の早急な集積と適切な予防的措置が求められている。