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ネオニコ農薬2000倍緩和、裏で住友化学が動く
厚労省に申し入れを行った国際環境NGOのグリーンピース・ジャパンや反農薬東京グループなどネオニコチノイド系農薬の残留基準値大幅引き上げの問題で、農薬製造大手の住友化学が中心となって農林水産省に適用拡大の申請をしていたことが明らかになった。
ネオニコ系農薬は、ミツバチ大量死の原因とされているだけでなく、人体への影響も懸念されており、農薬メーカー、農水省、厚労省の倫理観が厳しく問われている。(オルタナ副編集長=吉田広子)
今回対象となったネオニコチノイド系農薬のクロチアニジンは、ミツバチを保護するためにEU(欧州連合)で2013年12月に一時的に使用禁止になったばかり。
同月17日には、欧州食品安全機関(EFSA)が「一部のネオニコチノイド系農薬に子どもの脳や神経などへの発達神経毒性がある」との科学的見解を発表した。
一方、今回の改定案では、クロチアニジンの場合、シュンギクは50倍(10ppm)、ミツバは1000倍(20ppm)、カブの葉にいたっては2000倍(40ppm)など大幅に緩和される見込みだ。
なかでも、カブの葉とホウレンソウは40ppm(現行3ppm)とほかの農産物に比べて高い基準値案が設定されている。
この値は、欧州では、子ども(体重16キログラム)がホウレンソウ1束(40グラム)を食べると、急性中毒を起こす可能性があるとされている。さらに、ネオニコ系農薬は水溶性で食物に浸透するため、洗っても落ちない。
日本で唯一、クロチアニジンを製造しているのは、住友化学だ。「ダントツ」「フルスウィング」「モリエート」などの商品名で販売している。
農水省消費・安全局農産安全管理課農薬対策室の担当者は、オルタナの取材に対して「農薬メーカーである住友化学や農薬販売会社などの使用者から、殺虫効果を高めるために基準値引き上げの申請を受け手続きを行った」と答えた。
所管の厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課は、農水省からの要請を受け、審査を行い、基準値案を設定した。
ところが、厚労省が基準を評価する際の主要な根拠としている農薬評価書に載っている発達神経毒性を巡る安全性の根拠は、住友化学から提出された、2000年に作成された未公表の論文1本だけだった。
こうした状況を受け、国際環境NGOのグリーンピース・ジャパンや反農薬東京グループなど5団体は3日、厚労省に申し入れを行った。
「クロチアニジンの残留基準の緩和の検討を直ちに凍結すること」「ホウレンソウ、カブの葉などの40ppmの高い基準緩和案を即時撤回すること」を求めたところ、食品安全部基準審査課からは「基準値案を検討し直す」との返答があったという。
昨年10月に行われたパブリックコメントには、1000件を超える意見が集まったといい、「現在、パブコメを精査している状況」という。
5団体は厚労省に「メーカーが基準を超えるような適用拡大を申請するたびに、残留基準を緩和するという厚労省の対応は許されない。厚労省は食品安全のリスク管理機関として、国民の残留農薬の摂取を最小化できるよう、その責を果たすこと」を強く訴えている。