-3:シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会中間報告書-第8回~第9回のまとめについて | 化学物質過敏症 runのブログ

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・(別添1)


2002年1月22日
厚生労働省医薬局審査管理課
化学物質安全対策室
シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会事務局


室内空気汚染に係るガイドラインについて
―室内濃度に関する指針値―

1 アセトアルデヒドについては、ラットに対する経気道暴露に関する知見から、鼻腔嗅覚上皮に影響を及ぼさないと考えられる無毒性量を基に算出し、室内濃度指針値を48μg/m3 (0.03ppm)と設定した。

2 フェノブカルブについては、ラットに対する経口混餌反復投与毒性に関する知見から、コリンエステラーゼ(ChE)活性阻害をはじめとする各種異常を認めないと判断される無毒性量を基に算出し、室内濃度指針値を33μg/m3(3.8ppb)と設定した。

1.アセトアルデヒドの室内濃度に関する指針値

 ごく最近までのアセトアルデヒドに関する毒性研究報告について調査したところ、以下のような結論を得た。


(1)  遺伝毒性については、細菌(Salmonella typhimurium (TA1535、TA1538、TA98、TA100)を用いた復帰突然変異試験においては、代謝活性化の有無にかかわらず、結果は陰性であったが、CHO細胞を用いたin vitro試験において、染色体異常や姉妹染色分体交換(SCE)の頻度上昇を起こすなどの結果が報告されている1)-4)。

また、ヒトリンパ球を用いたin vitro試験においてはDNA鎖への影響が認められるとの報告があるが、ヒト気管上皮細胞やヒト白血球においてはそのような影響は認められていない5)。
 in vivo試験は利用可能な報告が少ないものの、マウスとハムスターにおけるSCEの頻度上昇や、吸入暴露によるラットの鼻腔粘膜におけるDNAとたん白のクロスリンクが生じるとの報告や、マウスの小核試験結果は陰性であるとの報告がある。

生殖細胞に対する遺伝子障害性については報告されていない1), 2), 5)。

(2)  発がん性に関して、ラットに対して1350、2700及び5400 mg/m3(750、1500及び3000 ppm、後半1年は毒性発現のため1800mg/m3(1000 ppm)に変更)のアセトアルデヒドを1日6時間、週5日、28ヶ月間にわたって暴露させた結果、雌雄とも用量依存的に鼻腔に扁平上皮がん、腺がんの発生が認められた。

また、ハムスターに対してアセトアルデヒドを4500mg/m3(2500 ppm)から2970 mg/m3(1650ppm)まで漸減させつつ、1日7時間、週5日、52週間にわたって暴露させた結果、雌雄とも喉頭がんが有意に増加したとの報告があるが、2700mg/m3(1500ppm)のアセトアルデヒドを同一の試験条件で暴露させた結果、呼吸器系のがんの発生は見られなかったとの別の報告もある。

なお、いずれの報告においてもがん病変の認められる領域には上皮の過形成及び化生が同時に認められている1)-5)。
 ヒトに対する影響については、アセトアルデヒドの他にアクロレイン、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒドなど種々の化学物質とともに暴露される作業環境に従事していた作業者に係る疫学調査があり、9例の腫瘍(肺がん5例(気管支由来)、口腔がん2例、胃がん及び大腸がん各1例)の発生が報告されているが、対象者数が150名と少ないこと、腫瘍を発生した群は全て喫煙者であるなど、評価に当たって十分な内容ではない。

当該調査以外にはヒトに係る疫学調査結果については報告がないことから、ヒトでのアセトアルデヒドの暴露と癌発生との関連性に関する十分な証拠はないと判断されている1)-5)。

(3)  これらのことから、現在の知見においては、アセトアルデヒドの発がん性を示唆する証拠は、極めて高濃度の暴露群を設定した一部の動物実験に限られている。

また、ヒトでの調査においても発がん性を明確に示唆する証拠は得られておらず、IARC(国際がん研究機関)における発がん性の分類においてもアセトアルデヒドは「2B」に分類されており5)、アセトアルデヒドがヒトに対する発がん性を明確に有するものではないとされていることなどを勘案し、アセトアルデヒドの指針値の策定には、閾値のある発がん性以外の毒性を指標とし、耐容一日摂取量を求める方法で算出することが適当と判断した。

(4)  急性毒性に関して、ラットのLD50値は経口で660~1930mg/kg、皮下で640mg/kg、ラットの吸入LC50値は4時間暴露で24000 mg/m3(13300 ppm)であった1)-4)。
 麻酔したラットに1~40mg/kgを静注した場合、心臓における交感神経興奮作用とともに、20mg/kg以下では高血圧が、高濃度では徐脈及び低血圧が認められている1)。
 また、ウサギの眼刺激性試験において40mgの注入により著明な刺激性を示すことが報告されている1)。

(5)  亜急性及び慢性毒性について、ラットに対して720、1800、3950及び9000mg/m3(400、1000、2200及び5000 ppm)のアセトアルデヒドを1日6時間、週5日、4週間にわたって経気道暴露させた結果として、1800 mg/m3(1000ppm)以上の暴露群で成長遅延、雄の尿量増加、鼻腔上皮の過形成などが認められている。

また、720mg/ m3(400ppm)暴露群においても嗅覚器上皮の変性がわずかに認められており、NOELは決定されなかった1)-6)。
 ラットに対して、アセトアルデヒドを1日6時間、週5日、4週間にわたって次に掲げる3通りの方法で経気道暴露した報告がある。
1) 1日1回6時間: 0、270、900mg/ m3(0、150及び500ppm)
2) 1日2回3時間: 0、270、900mg/ m3、休憩1.5時間
3) 1日2回3時間: 0、200、900mg/ m3、休憩1.5時間
2回3時間の暴露中に5分間×8回にわたり通常の6倍の濃度(400及び1800 mg/ m3)を投与することにより、6時間加重平均暴露値として、0、255、1050mg/kgの投与と同等であるとした方法
 それぞれの投与形態における最高用量においては、鼻腔嗅覚上皮の変化が認められた。本報告におけるNOELは270mg/m3(150ppm)とされている1)-3),7)。
 ラットに対して、25、125及び675mg/kgのアセトアルデヒドを4週間経口投与した結果、675mg/kg投与群において前胃における角化亢進がみられた。また、雄の腎臓相対重量の増加や様々な血液生化学検査値の変化などが認められたが、これらは飲水量の減少が主原因であるとされている。125mg/kg以下の投与群では何ら影響が認められなかったことから、ラットの経口投与に係るNOELは125mg/kgと報告されている1)2)。
 ラットに対して、0.05%のアセトアルデヒドを飲用水とともに6ヶ月間与えた結果(約40mg/kgの投与量に相当)、肝臓におけるコラーゲン合成が亢進したとの報告があるが、他の毒性発現に関する詳細は不明である2)。
 ハムスターに対して700、2400及び8200 mg/m3(390、1340及び4560 ppm)のアセトアルデヒドを1日6時間、週5日、90日間にわたって暴露させた結果として、8200 mg/m3(4560 ppm)投与群において、成長遅延、眼及び鼻の炎症、気道の著明な組織学的変化などが認められた。

なお、無作用量(NOAEL)は700 mg/m3(390 ppm)と報告されている1)-4)。
 ハムスターに対して2700 mg/m3(1500 ppm)のアセトアルデヒドを52週間にわたって暴露させた結果として、成長遅延や鼻腔粘膜の異常等の報告がある1)-3)。

(6)  生殖発生毒性に関して、ラットの妊娠10~12日にアセトアルデヒド50、75及び100mg/kgを腹腔内投与した結果、成長遅延、奇形発生が認められたとの報告があるが、用量依存性は認められていない。

ラットの妊娠8~15日にアセトアルデヒドを50、75、100及び150mg/kgを腹腔内投与した結果、用量依存的に胎仔死亡の増加が認められたとの報告がある。

また、妊娠13日に1~10%のアセトアルデヒドを0.02ml羊水内投与した場合、胎仔死亡率が増加し、アセトアルデヒド投与群の生存例においては奇形発生率が増加したと報告されている1)-3)。
 一方、マウスについて5つの報告があるが、催奇形性及び胎仔毒性に関しての結果の統一性がなく、アセトアルデヒドの生殖発生毒性に対する影響は明らかではない1)-3)。
(7)  ヒトへの暴露について、アセトアルデヒドを241mg/m3(134ppm)、30分間暴露したところ、上気道に中程度の刺激を生じるとの報告がある1)-4)。

また、90mg/m3(50 ppm)、15分暴露により眼刺激性を生じ、感受性の高い被験者では45mg/m3(25 ppm)、15分暴露でも生じることが報告されている。本報告においては360 mg/m3(200 ppm)を暴露した際には、全ての被験者において目の充血、一過性の結膜炎が起こり、多数に鼻やのどの刺激が生じるとされている1)-4)。若い男子学生に5%溶液を静注した場合、心拍数及び呼吸数の増加や肺胞内二酸化炭素濃度の減少などが報告されている1), 2), 4)。

(8)  作業環境中の許容限度としては、ACGIHのTLV-CEILINGとして45mg/m3(25ppm)8)、日本産業衛生学会の最大許容濃度として90mg/m3(50ppm)3)が勧告されている。

(9)  以上より、アセトアルデヒドの室内濃度指針値の算出については、入手した毒性に係る知見から科学的にみて最も安全サイドにたった数値が得られるデータを採用することとした。

アセトアルデヒドについては経気道暴露した際、眼や気道に対する刺激性が生じることがよく知られており、指針値の算出については(5)のラットに4週間の経気道暴露を行った実験で求められたNOEL = 270mg/m3を用いて耐容濃度を求めることとした。
 NOEL = 270mg/m3として耐容濃度を計算するに当たり、不確実係数としては、種差10、個体間差10の他、遺伝子障害性の懸念があること、当該試験が4週間という比較的短い試験系であること、動物を用いた発がん性試験で上皮の過形成及び化生など刺激による発がんが生じていることなどを考慮してさらに10をかけることとし2)、合計で1000を用いることとした。
 また、当該試験は1日6時間(加重平均)、週5日投与であることから1日24時間、週7日に換算すると、アセトアルデヒドの室内濃度指針値は、 270mg/m3×1/1000×6/24×5/7 = 48μg/m3 (0.03ppm) となる。


(参考文献)

1) Documentation of the Threshold limit Values and Biological Exposure Indices, ACGIH (1991)
2) IPCS Environmental Health Criteria 167, ACETALDEHYDE, World Health Organisation, Geneva(1996)
3) 許容濃度提案理由書集 日本産業衛生学会編 中央労働災害防止協会(平成6年6月)
4) 既存化学物質安全性(ハザード)評価シート 独立行政法人製品評価技術基盤機構
5) IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, Vol.71, Part Two, IARC Lyon (1999)
6) Inhalation Toxicity of Acetaldehyde in Rats. I. Acute and Subacute Studies, L. M. Appelman et al, Toxicology, Vol.23, 293-307 (1982)
7) Effect of Variable Versus Fixed Exposure Levels on the Toxicity of Acetaldehyde in Rats, L. M. Appelman et al, J. Appl. Toxicology, Vol6(5); 331-336 (1986)
8) 1996 TLVsR and BEIsR, Threshold Limit Values for Chemical Substances and Physical Agents Biological Exposure Indices, ACGIH(1996)