学会で情報開示がやっと話題に
しかし、悲観的な話ばかりではない。
今年3月、富山市で開かれた「第34回日本社会精神医学会」で、精神科としては画期的なシンポジウムがあった。
タイトルは「市民に治療成績を開示する意義」。
滋賀医大病院の精神科医、稲垣貴彦さんが取りまとめ役を務め、稲垣さんを含む4人が講演した。
稲垣さんがまず、精神科の情報開示のお寒い現状を説明。
「主要ながんであれば、インターネットを検索するだけで、国内の患者の5年生存率や、各医療機関の治療成績が簡単に手に入る。
ところが『精神科 治療成績』と入れて検索しても、せいぜい在院日数と受け入れ患者総数くらいしか入手できない。
これでは、患者はどこを受診したらいいのか分からない」と問題提起した。
更に「精神疾患の啓発活動は盛んになったが、治療すればどうなるのか、ということについては皆なぜか口をふさぎ、治療結果に関する情報はほとんど流布されていない」と指摘した。
生命倫理学的な視点から「治療成績を知る患者の権利」について話した北村メンタルヘルス研究所の精神科医、北村俊則さんは「治療の効果や副作用(合併症)は医療機関や医療者個人に依拠する部分が大きい。
したがって、各医療機関や、できれば個々の医療者の治療成績が公開され、これを閲覧することは患者の権利であり、医療者の責務である」と訴えた。
更に、特に重要な事項として以下の4点を挙げた。
1 開示すべき情報は患者に理解できるものでなければならない。特に、治療しなかった場合の経過(自然治癒)
2 自己決定権は「愚考権」でもあるので、患者がエビデンスには沿わない決定をした場合も医療者がそれに従う
3 患者の自己決定を促す手法を活用する(目に見えない強制の排除)
4 医療保護入院・措置入院などの強制医療においても患者の治療選択を尊重する
2を実践した場合、患者が明らかに不利益な選択をしても、医師はそれに従うべきなのか。
そのような質問に、北村さんは「時間をかけて説明すれば、合理性に欠ける判断をする人はほとんどいない。私の経験では1例だけ。
心理療法で対応するのがよいケースだったが、『何も話したくないので薬が欲しい』と訴え続けた。
ほかの医療機関を紹介することになった」と話した。
滋賀医大がネット公開始める
では、どのような治療成績を開示すればいいのか。
見えない心を相手にする精神科は、身体を診る診療科のような客観的な検査法がなく、医師が判断する回復度評価には恣意(しい)的な操作が入る恐れがある。
そこで稲垣さんが考えたのが、目に見える成果の開示だった。