9.2 結論
デンマークでは匂い過敏症と呼ばれている多種化学物質過敏症(MCS)は、異なる器官で多くの体調不良を伴う状態であり、ある人々が低濃度の化学物質に暴露した時に発症する。
この分野のほとんどの国際的専門家は、疫学的データに基づき、MCSは現実のもであるということに同意している。
MCS又は匂い過敏症は認知された疾病ではなく、従って、WHOの国際疾病分類第10版(International Classification of Diseases, version 10 (ICD-10))に登録されていない。
比較的少数の人々が罹るMCSは、2段階からなると推定される。
第1段階は通常、ひとつの化学物質に、ほとんどの場合は高濃度で曝露することから始まる。
第2段階に低濃度の複数の化学物質に曝露することで、発症する。
それらの症状は様々な器官(中枢神経系、呼吸器系と肺の一部、皮膚、消化器系、関節、筋肉、など)に発生する。
デンマークでは、産業医学病院の患者たちの一部が本報告書で述べたMCS基準に合致する。
これらの患者の大部分は、多分以前に溶剤に曝露している。
職場又は家庭でかなりの濃度の他の有毒化学物質(殺虫剤、ヘアーケア製品、木材防腐剤、塩素ヒューム、など)に曝露した人々はMCSになる可能性がある。
これは、これらの多くの製品中の溶剤に起因するのかどうかは不明である。
多くの病気の機序が身体的及び心因的の両方で提案された。
しかし、低濃度の化学物質への曝露と、述べられている症状/影響との間の直接的な因果関係はまだ十分には証明されていない。
MCSは、通常、外部環境ストレスに感受性が高い人々の中に多く見られるようである。
アメリカでは全人口の0.2~6%にMCSが発症している。
暫定的な推定、及び、アメリカとデンマークでの殺虫剤を含む化学物質の使用の相違に関する知見に基づくと、デンマークにおけるMCSの有病率は約1%と推定される。
産業医学調査からの暫定的数値は、職場で有機溶剤や殺虫剤に曝露した人々の間では、有病率は1~12%であることを示している。
多種化学物質過敏症という用語は、最終的にはまだ明確になっていない原因と機序を指し示す言葉なので、適切ではない。
最近数年間で、何人かの人々は、突発性環境病(idiopathic environmental illness (IEI))という言葉を推奨しているが、この言葉の方が中立的である。
ヨーロッパでは、環境と保健当局はMCSの存在を知っているが、症例の登録とMCSの原因の研究への関心は限られている。
過去2年間でスウェーデンとドイツが大規模な国民調査とMCS研究を実施している。
9.3 勧告
MCSの存在に関する知見について大きな不確実性があり、もっと知らなくてはならないという必要性はあるが、現在の我々の知識によっても、MCSは現実のものであり、ある人々は低濃度の化学物質への曝露に対しても特に過敏であるということが示されている。
すでにMCSに罹ってしまった人々の多くを治すことは多分不可能である。
しかし、もっと多くの人々がMCSになることを回避するために予防的措置をとることができる。
そして、すでにMCSになってしまった人々の日々の生活を改善することができる。
最も重要な全体的な目標は、低濃度及び高濃度での化学物質への曝露のリスクを制限しなくてはならないということである。
とにかくMCSを防ぐためには初期曝露を防ぐことが重要である。
この文脈に関し、高濃度の化学物質への曝露、例えば、ペンキ塗りたての大きな表面積からの溶剤の蒸発、及び密閉空間での例えばヘアースプレーの噴霧などに特別の注意を払うべきである。
化学物質負荷の一般的な削減もまた、新たなMCS発症の防止、及び、すでにMCSに罹ってしまった人々の症状を抑えるために適切な取組みである。
最後に、我々は消費者として、いつ化学物質に曝露した(する)か、そしてそれらはどの化学物質かを知ることが重要である。
消費者として我々は、例えばペンキ塗りたての大きな表面積などからの高濃度の揮発性化学物質への屋内曝露を避けることによって、また、香水や強い香料入り製品を使用しないことによって、我々自身及び他の人々がMCSになることを防ぐことに寄与することができる。
現在、病気の機序、因果関係、そして診断に関する確実な知見が欠如している限り、MCSに対する取組みに注力することは困難である。
MCSへの取り組みのためには次のようなもっと多くの知識が必要である。
1.罹患率、因果関係、影響機序
2.揮発性有機化合物を含む化学製品の使用
3.屋内曝露
4.化学製品と商品中の揮発性物質の使用
現在の展望、及び衛生の考慮並びに化学物質への不必要な曝露と不必要な化学物質は避けるべきとする一般的観点に基づけば、下記の領域での取り組みを強化することが適切であると考えられる。
?化学物質の日々の使用の一般的削減
?特に揮発性物質(フェロモン(香水)を含む)及び噴霧剤(エアゾール)の使用の削減
?殺虫剤と殺生物剤の使用の削減
化粧品中の添加剤(特に香水)、洗浄剤、表面処理剤の使用、及び、建材及び家具調度品からの揮発を含む屋内環境問題、及び、タバコの煙及び車の排気ガスへの曝露を含む環境状態に目を向けることが特に適切であると考えられる。
日々の化学物質の使用を削減することに一般的に注力することによって、MCSの問題は、子どもや妊婦のような曝露しやすく感受性の高いグループの一般的な保護、そしてそのことによるMCSの新たな発症の防止に寄与することができる。
MCSの一般的な認知は、またMCS患者と彼等の問題に対するより良い理解をもたらし、そのことで彼等の日々の生活を少しでも楽にすることに貢献できることが望ましい。
10 参照
10 参照
Annex
Annex トップページ
Annex A MCSの定義のための提案概観(Interagency report, 1998)
Annex B 1991年NRCワークショップの3ワーキング・グループの勧告(Interagency report, 1998)
Annex C 1996年MCSの実験的研究に関するNIEHS会議の主要提案(Interagency report, 1998)
Annex D MCS研究のための勧告リスト(Interagency report, 1998)
Annex E MCS関連公共活動1979年~1996年(アメリカとカナダ)(from Hileman, 1991)
Annex F デンマークMCS組織
Annex G デンマークMCS組織のメンバーによる記述の概要
Annex H ドイツ環境省と保健省のMCSに関する活動の概要(from: Umweltsbundesamt fur Mensch und Umwelt, Dr. J. Durkop, Berlin, 2001)
runより:長い記事お疲れ様ですた((。´・ω・)。´_ _))ペコ