・ 2.2.4 MCSの同義語
MCSは、特に世界の英語圏では多くの名前が与えられている(表2.3参照)。ほとんどの研究者は、原因、機序、又は状態(結果)に関する彼等の認識を表現するひとつの名前を使用する。
この表は、この症候群を扱う全てのグループの中でMCSの認識に関する相違と不確実性を適切に表している。
表2.3 多種化学物質過敏症に類似の状態の表現
名前は病気の機序に関連する原因、機序、及び結果に従って分類されている。
(出展 Ashford & Miller, 1998)
原因関連 (Causal relations)
環境関連病 (Environmentally related illness )
化学的誘因強化感受性 (Chemically induced enhanced susceptibility)
化学的獲得性免疫不全症候群 (化学的AIDS)(Chemically acquired immune deficiency syndrome (Chemical AIDS) )
石油化学製品問題 (The petrochemical problem)
機序 (Mechanisms)
免疫疾病 (Immune disease)
免疫毒性 (Immunotoxicity)
免疫不全 (Immune dysfunction)
免疫疾患 (Immune dysregulation)
獲得性匂い反応 (Acquired odour reaction)
大量心因性病 (Mass psychogenic illness)
多重症状複合 (Multiple symptom complex)
毒性広場恐怖症 (Toxic agoraphobia)
特発性環境耐性 (Idiopathic environment tolerance)
多器官感覚障害 (Multi-organ dysesthesia)
結果 (Result)
多種化学物質過敏症 (Multiple chemical sensitivity (MCS))
MCS症候群 (MCS syndrome)
化学物質過敏症候群 (Chemical hypersensitivity syndrome)
一般アレルギー (Universal allergy)
20世紀病 (Disease of the 20eth century)
全アレルギー症候群 (Total allergy syndrome)
環境アレルギー又は疾病 (Environmental allergy or disease)
脳アレルギー (Brain allergy)
環境適応困難症候群 (Environmental adaptation/difficulty syndrome)
食品及び化学物質過敏症 (Food and chemical sensitivity)
毒性誘因耐性消失 (Toxic-induced loss of tolerance ("TILT") )
匂い嫌悪症 (Scent antipathy )
状態の公式デンマーク名はない。産業医療で匂い過敏症(odour hypersensitivity)という用語が使われている。
コペンハーゲン大学病院((Rigshospitalet))デンマーク国立病院研究チームは、獲得性有機溶剤不耐症(acquired intolerance to organic solvents )という用語を使っている(Gyntelberg, 1986)。
スウェーデンでは下記のような名前が使われている。
多種化学物質過敏症(multiple chemical hypersensitivity)、多種過敏症(multiple hypersensitivity) 、環境身体化症候群(environmental somatization syndrome)(Orbak, 1998; Gothe, 1995; Lindelof, 2000)。
ドイツではMCSは化学物質不耐症(chemical intolerance)と呼ばれる(Masc hewsky, 1998)。
アメリカ産業環境医学大学はMCSの専門家をそろえたフォーラムである。1999年、MCSの代わりに”突発性環境関連不耐症(idiopathic environment-related intolerance (IEI))”という名称の使用を勧告した。
この新しい名前は、この状態に関する現在の知識又は知識の欠如によく対応している(ACOEM, 1999)。
突発性はこの病気の原因が不明であることを示唆している。これはより好ましい適切な名前である。
最近の2年間に、何人かの科学者は突発性環境関連不耐症(idiopathic environment-related intolerance (IEI))又は類似の名前、突発性環境病(idiopathic environmental illness (IEI))を採用した。
これは現在までの所、最も中立的な名前であるが、他の環境病との混乱を招くことがあり得る(Sparks, 2000)。
この報告書では、現在はまだ、文献中で最もよく使用されているので、MCSを使っている。
2.3 他の症候群及び病気との区別
MSCはいわゆる環境病のグループに分類される。
これらは環境中のストレス要因によっておそらく引き起こされる症候群を含むが、それらは公式には疾病として認知されていない。
MCSという用語はしばしば異なる環境病に用いられる。
表2.4 に示される環境病を参照のこと。
・表2.4 MCSに類似の環境病
線維筋痛症 (Fibromyalgia)
慢性疲労症候群 (Chronic fatigue syndrome (Myalgic encephalomyelitis) )
アマルガム病 (Amalgam illness)
電磁波過敏症 (Hypersentivity to electricity)
食品不耐症 (Food intolerance (FI) )
シック・ビルディング症候群 (Sick Building Syndrome (SBS))
湾岸戦争症候群 (Gulf War Syndrome (GWS))
多くの人々はMCSに見られるのと同じ症状を訴えるが、一方、医師は客観的な病気の兆候を検出することができない。
他の環境病はMCSとは異なり、化学物質への曝露によって引き起こされるのではなく、おそらく他の機序による。
MCSは、MCS定義基準(2.2.2項)によって他の病気と区別される。MCS定義基準を満たす人は、たとえ他の症候群の定義基準を満たしていても、MCSであると見なされなくてはならない。
多くの調査がある人々はいくつかの症候群の定義基準を満たしているということを示している。
SBS又はGWS(表 2.4 参照)を持つ多くの人々はまた、MCS定義基準を満たす(4章を参照)
MCSと区別することができる最も重要な環境病を以下に簡単に示す。
慢性疲労症候群 (Chronic fatigue syndrome (CFS))
線維筋痛症 (Fibromyalgia (FM))
検出できる客観的な変化がないために定義が不十分なこれらの症候群は公式には認知されていない。
これらの症候群はMCSと類似している。40~50代の高学歴女性は、MCSを含むこれら3つの症候群の患者の中で数が多い(Buchwald, 1994)。
MCS患者の87~97%が健康不良を訴える匂いに関し、慢性疲労症候群の患者の53~67%、線維筋痛症の患者の47~67%が同様に匂いによる健康不良を訴える。
一方、MCS患者の75%が筋肉と関節の痛みを訴えるが、これは線維筋痛症の患者の典型である。
多くのことが、これら3つの病気が密接に関連しているということを示している。
ある専門家たちは、これら3つの症候群は1つの同じものであると見なしている。
シック・ビルディング症候群 (Sick Building Syndrome (SBS))
この症候群は、異なる病気の定義に示される多くの症状を有する。
世界保健機関(WHO)によれば、SBSの主要な症状は粘膜と中枢神経に関連するものであり、匂いには関連したり、しなかったりする。
MCS患者とは対照的に、SBS患者は建物から離れて、家や他所にいる時には症状はなくなる。
あるSBS患者はMCSになることがある。
このことについては4章で述べる。
アマルガム病 (Amalgam illness)
産業医療では少量の水銀中毒が毒物学的ベースの”微量水銀中毒 (micro-mercurialism)”と呼ばれる病気として認知されている。
症状のあるものはMCSの症状と似ている。
アメリカ環境医学会(AAEM)の理論によれば、アマルガム病の背景の機序は、歯の詰め物からの少量の水銀の日々の放出がMCSに似た状態を生成することである。
しかし多くの臨床調査と実験では、特にスウェーデンでは、この理論を追認していない(Stenman, 1997)。
自分の症状が歯の詰め物に起因するという印象を持っている多くの人々の中で、30%の患者にこの原因を生ずる他の病気が発見された。
これらの人々は、その病気が治癒すると症状はもはやなくなった(Langworth, 1997)。
フィンランドの調査では、アマルガムの歯の詰め物を持つ人の中で、少数の人の尿中から高濃度の水銀が検出された。
アマルガム詰め物をした26人中4人については尿中に高濃度の水銀が検出され、水銀中毒症状があったが、詰め物を取り除くと全ての症状は消えた(Stenman, 1997)。
著者は、通常の毒物学的機序に関連するという意見である。
電磁波過敏症 (Hypersensitivity to electricity)
この環境ベースの症候群は、スウェーデンで広く発症している。
患者は電気製品や電気設備に近づくと症状を訴える。症状はMCSに類似している。
機序は体の機能に影響を与える電磁界として説明される(Viby, 2001)。
スウェーデンでは多くの人々が産業医療のための病院で電磁波に対する過敏性のテストを受けているが、申告された症状と電磁波エネルギーとの間に関連性は見つかっていない。
電気に対する過敏性は化学物質への曝露と関係ないので、この症候群はこの報告書で採用したMCSの定義に合致しない。
食品不耐症 (Food intolerance (FI) )
多くの医師と科学者は、食品不耐症はMCSのひとつの病気要素であると考えている(Eaton, 2000; Rea, 1992)。食品不耐症の人々は、ある種の食物を摂取すると化学物質中毒となり、後にMCS様の症状になる。機序は胃腸系から引き起こされ、従ってMCSの定義に合致しない(Eaton, 2000)。
しかし食品不耐症患者のうちの少数の人々はMCS症状である匂い過敏性になる。
食品不耐症患者の機序は不明であり、この症候群は疾病として認知されていない。
ポルフィリン症 (Porphyria)
いくらかのMCS患者はポルフィリン症患者に見られるものと同様な症状を有する。
これは皮膚、神経系、ヘモグロビン合成などいくつかの器官に影響を与える代謝異常である。
典型的な症状は暗色の尿、胃痙攣、皮膚発疹である。
専門家は二つの病理学的病像の間に関連性を見出すことができない。
同一人が同時にこの二つの病気に悩まされるということがある(Ziem, 1995)。
多くのポルフィリン症患者がまたMCSであるということも事実である。しかし、現在までの所、ポルフィリン症患者には、MCSの機序を説明できる機序が見つかっていない。
2.4 コメント
MCSは、主観的な不特定症状、不明確な機序、そして多くの異なる名前を持つ症候群である。MCSはいわゆる環境病に属し、その中には原因が分からず、MCSに似た症状を持つ十分に定義されていないその他の症候群がある。
それらと混同したり取り違えたりしやすい。
この報告書では一貫してMCSに焦点をあてる。
runより:続きは明日掲載します、かなり長いので一気に掲載してしばらく大気状況だけ更新にするか迷っています(^_^;)