・(オ) 平成10年11月21日に開催された第41回日本消化器内視鏡技
師研究会の講演予報集(甲25)において,「京都第二赤十字病院の内
視鏡室において内視鏡室の空気中のグルタラール製剤濃度を測定したと
ころ,洗浄室で0.02~0.65ppm,上部検査室では0.02~
1.06ppmと高値を示したが,換気のため窓を開放した状態や検査
のない休日の測定では低値を示したこと,福井医科大学付属病院の放射
線部においてグルタルアルデヒドの残留ガス濃度を測定したところ,グ
ルタルアルデヒド交換時は残留ガス濃度は0.1ppm前後であり明ら
かな変化は認められなかったが,自動洗浄器作動後は作動前と比べて明
らかに上昇し,米国における空気中の最大許容暴露限界の0.2ppm
を上回っており,最高値は1.07ppmであり,測定結果は暴露限度
の上限値より高く,患者,スタッフに安全な環境とはいえず,今後何ら
かの対策を講じなければならないが,現状では空気清浄器による換気,
将来的には消毒専用室の設置が望まれ,内視鏡洗浄時はゴーグル,グル
タルアルデヒド保護用のマスク,手袋,ガウンを着用して防護し,処置
具の消毒に関してはグルタルアルデヒドを使用せず蒸気による熱処理を
行う自動洗浄装置の導入等を考慮していきたいこと」等の報告がされた。
(カ) 平成11年,米国工業保健衛生士協会(ACGIH)は,グルタル
アルデヒドのTLV(毎日繰り返しある物質に暴露したときほとんどの
労働者に悪影響がみられないと思われる大気中の濃度)の天井値(作業
中のどの時点においても超えてはならない値)を0.05ppmと定め
た(甲15)。
(キ) 被告病院において平成11年1月から使用されていたサイデックス
について,製造業者であるジョンソン・エンド・ジョンソンは,使用上
の注意として次の内容を含む文書(平成9年2月改訂。乙14)を添付
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していた。
「A 副作用
皮膚に付着すると,発疹,発赤等の過敏症状を起こすことがある。
B 適用上の注意(使用上の注意)
a 人体に使用しないこと。
b 誤飲を避けるため,保管及び取り扱いに十分注意すること。
c 眼に入らぬよう眼鏡等の保護具をつけるなど,十分注意して取
り扱うこと。誤って眼に入った場合には,直ちに多量の水で洗っ
た後,専門医の処置を受けること。
d グルタラールの蒸気は眼,呼吸器等の粘膜を刺激するので,眼
鏡,マスク等の保護具をつけ,吸入または接触しないように注意
すること。外国において,換気が不十分な部屋では適正な換気状
態の部屋に比べて,空気中のグルタラール濃度が高いとの報告が
あり,換気状態の良い部屋でグルタラールを取り扱うことが望ま
しい。
e グルタラール水溶液との接触により皮膚が着色することがある
ので,液を取り扱う場合にはゴム手袋等を装着すること。また,
皮膚に付着したときは直ちに水で洗い流すこと。
C その他
グルタラールを取り扱う医療従事者を対象としたアンケート調査
では,眼,鼻の刺激,頭痛,皮膚炎等の症状が報告されている。ま
た,外国において,グルタラール取扱い者は非取扱い者に比べて,
眼,鼻,喉の刺激症状,頭痛,皮膚症状等の発現頻度が高いとの報
告がある。」
(ク) 平成11年2月に丸石製薬が作成した「グルタラール製剤使用上の
留意点」(乙11)には,要旨次のとおりの記載がされている。
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「<安全に使用して頂くための注意点>
A 薬液の皮膚・眼への接触に対する注意点
グルタラール製剤が皮膚に付着すると着色したり,発疹,発赤等
の過敏症状が起きるため,使用時は皮膚の露出をできる限り少なく
するために手袋,エプロンなどを着用して取り扱うが,薄手の手袋
は穴があきやすく,薬液と皮膚が長時間接触する可能性があるため
使用を避けるべきである。また,消毒作業中に薬液が垂れて腕や肘
の皮膚に付着するような場合には長めの手袋を用いるか,腕カバー
を着用する。
B グルタラール蒸気の吸入・曝露に対する注意点
a 換気
換気が不十分な部屋では適正な換気状態の部屋に比べて,空気
中のグルタラール濃度が高いとの報告があり換気状態の良い部屋
で取り扱う。グルタラール蒸気の暴露を防ぐためには,直接蒸気
を排気できる局所強制換気システムの使用がもっとも効果的であ
るが,その導入が困難な場合には,窓をあけておく,換気扇を作
動させておくことなどにより,室内空気の十分な換気を行う。換
気装置は,グルタラール蒸気発生場所からできる限り近い位置に
設置し,グルタラール蒸気発生場所から換気装置までの通り道で
は,空気中グルタラール濃度が高くなる可能性があるため,その
通り道の中に消毒作業者の呼吸帯が位置しないように注意する。
b マスク・ゴーグル
換気を行ってもグルタラールの臭いや刺激を感じる場合には,
活性炭等を使用したグルタラールを吸収できるマスクを着用し,
呼気と吸気が別回路になっているものが作業しやすいが,病院内
でこのようなマスクが使用できない場合には,簡易式のものを用
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いる。また,グルタラール蒸気は眼に対しても刺激作用を示すか
ら,薬液が直接眼に付着することを防ぎ,さらに蒸気の曝露を防
ぐために,密着性がよく,使いやすいゴーグルなどを装着する。
c 浸漬槽
使用中にグルタラール蒸気の室内への拡散を防ぐためには,密
閉性の高い蓋付きの浸漬槽を用い,使用中は蓋をする。
d 手技
器具を浸漬及び取り出す際は薬液及び蒸気が飛散しやすい。特
に内視鏡消毒時の手技においては著明であり,防護具を着用し,
作業は丁寧にすばやく行う。」
(ケ) 平成12年7月28日,日本消化器内視鏡学会消毒委員会が開催さ
れ,内視鏡機器の洗浄・消毒に関する新たな問題について検討し,その
一つとしてグルタルアルデヒドの使用上の注意として,「グルタルアル
デヒドは消化器内視鏡学会の消化器内視鏡機器洗浄・消毒法ガイドライ
ンに記載されている唯一の高度作用消毒剤であり,高温減菌のできない
内視鏡機器の消毒に使用されているが,毒性が強く諸外国ではすでに使
用上の注意が強く喚起されている。医療従事者のグルタルアルデヒド飛
沫による角膜障害や皮膚炎などが報告されており,強制排気装置のない
室内では毒性による呼吸器障害も予測される。グルタルアルデヒドを多
量にしかも頻繁に使用する施設では換気(強制排気装置による)十分に
注意するとともに,グルタルアルデヒドを扱う医療従事者の防御を行う
ように心がけて頂きたい」との報告がされた(甲13の14)。
(コ) 平成12年12月,ジョンソン・エンド・ジョンソンは,サイデッ
クスの添付文書を次のとおり改訂した(甲13の4)。