化学物質過敏症勝訴裁判主文7 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・イ被告病院退職後の原告の症状等
(ア) 原告は,平成13年7月中旬ころ,常松診療所で診療を受けたとこ
ろ,アレルゲンに近づかないという対症療法で対応するとしてビタミン
剤等が処方された。
原告は,平成14年1月ころ,個人医院に就職したが,グルタルアル
デヒドが含まれるレントゲン現像液の臭気により口内炎が出現し,また,
同年3月には,咽頭部から胸部にかけて喘息のような症状が見られたた
め,同年6月ころに退職した。そして,大阪中央病院呼吸器専門外来を
受診し,呼吸器機能検査,胸部写真撮影,アレルギー検査を受け,アレ
ルゲンに近づかないことを指示された。原告は,そのころ,アレルギー
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専門施設である石村クリニックに通院していたが,症状が改善しなかっ
たため,同年5月に通院を中止した。
原告は,平成14年9月中旬ころ,介護施設に就職したが,トイレの
クレゾールの臭気によって喉に違和感を覚え,同年10月10日に退職
した。
(イ) 原告が平成13年7月18日に大阪西労働基準監督署に対し労災保
険給付の請求をしたことを受けて,同監督署の依頼に基づき,被告病院
において,平成14年3月5日に透視室内のグルタルアルデヒド濃度の
測定検査が実施された(翌6日に胃カメラ室の測定検査もされた。)。
その測定では,午後3時から実施された消毒においては,消毒開始時0.
07ppm,10分後0.09ppm,終了時0.06ppmであった
が,サイデックス消毒液容器前においては消毒開始時0.15ppm,
10分後0.09ppm,終了時には容器の周辺に消毒液が散っており
0.20ppmであり,午後4時から実施された消毒においては,消毒
開始時0.04ppm,10分後0.09ppm,20分後0.06p
pmであった(午後4時からの検査ではサイデックス消毒液容器前の測
定はしなかった。)。D医師は,これらの検査結果をふまえて,「環境状
況は,胃カメラ室での換気は換気扇と窓の開放により良好であるが,透
視室は放射線管理区域であるため原則として開放できず,吸気排気口が
1か所あるものの,天井近くのためサイデックスのように空気よりやや
比重の重い気体の換気は排気されにくい可能性がある」旨の報告(甲1
3の10,11)を大阪西労働基準監督署長宛に提出した。
(ウ) 原告は,平成14年10月ころ,大阪産業保健推進センターのF医
師の診察を受けたところ,F医師から化学物質過敏症ではないかとの診
断を受けた。そして,F医師より化学物質過敏症専門の医院である笹川
皮膚科の紹介を受け,受診したところ,化学物質過敏症の疑いとの診断
がされた。

原告は,同年12月26日ころ,関西医大附属病院耳鼻咽喉
科アレルギー外来を受診し,B医師により眼球運動検査,生理機能検査,
呼吸機能検査,血液生化学検査,アレルギー検査,指標追跡検査等の各
種検査を受けたところ,指標追跡検査で数回垂直方向で異常が認められ
たほか,粘膜刺激症状(舌・歯肉に口内炎ができる),上気道症状(声
がかすれて出にくい,咽頭から気管にかけてむくみ,痰が出る),呼吸
器症状(呼吸困難,喉が詰まる,息が荒くなり時々ヒューヒューという)
等の自覚症状からすると,化学物質過敏症に罹患しているとの診断がさ
れた。
原告は,平成16年2月23日,北里研究所病院臨床環境医学センタ
ーのG医師による検査において,眼球運動検査で中枢性眼球運動障害(滑
動性眼球追従運動異常)が観察され,視覚コントラスト感度検査では低
下傾向が示され,自律神経機能検査では自律神経機能の不安定さが観察
されたことから,同医師により,中枢神経・自律神経機能障害が認めら
れる旨の診断がされた。
原告は,同年6月2日,B医師により,被告病院における化学物質暴
露により不定愁訴が出現し,化学物質過敏症に罹患したものであり,同
日症状が固定したと診断された。
(エ) 原告は,現在,グルタルアルデヒド以外にも,排気ガスやたばこの
煙などによっても,全身の掻痒感,強度の疲労感が生じ,嘔気,呼吸困
難等の症状が発生することもあるため,外出が困難であり,就職してお
らず,主婦業をしているが,家に籠もりがちとなっている。
(2) 証拠(甲1,4,13ないし26,29,乙7,10ないし16,証人B医師)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
アグルタルアルデヒド暴露による副作用について
(ア) 平成3年7月に日本医事新報3507号に発表された「消毒剤の副作用」と題する論文(甲22)において,次のような内容を含む報告がなされている。
「消毒剤の副作用は,適用を受ける側のみならず取扱い者側にも生じ,
また,その頻度も決して低くないと考えられる。しかし,消毒剤の添付
文書・副作用の項をみても,「過敏症がある」とだけ記載されているこ
とが多い。血液汚染を受けた鋼製器具や内視鏡などに対する第一選択消
毒剤であるグルタラールは,強力な抗菌作用を示す。

したがって,毒性も強く,その取扱いには注意を要する。
Axonらは,内視鏡の消毒にグルタラールを使用している52施設について調査した結果,25%以上の施設でその取扱い者にトラブルが発生していたと報告している。トラブルが生じた計36名の内訳は,皮
膚炎が32名(88%),結膜炎が8名(22%),鼻刺激症状が6名
(16%)であった。これらの症状は,本剤が飛散し付着したことなど
により生じたと推定されている。
また,Corradoらは,グルタラールの蒸気により鼻炎,喘息お
よび胸部圧迫感などが生じた4症例を報告し,その発生機序として,ア
レルギーをあげている。本剤の副作用は,そのものの毒性のみならず,
アレルギーによっても生じ得ることを示した報告である。
このように,グルタラールの副作用は本液の付着およびその蒸気の吸
入で生じる。本液が付着すると,正常皮膚であっても皮膚炎や皮膚の白
色化,硬化などが生じ,またその蒸気は眼や呼吸器系の粘膜を刺激する。
さらに,本剤へのアレルギーで喘息が生じることもある。したがって,
本剤の取扱いは換気のよい場所でプラスチックエプロンとゴム手袋を着
用して行うべきである。また,浸漬には蓋付きの容器を用いる必要があ
る。」
(イ) 平成7年に手術医学に発表された「2%グルタラールの暴露による
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医療従事者の副作用」と題する論文(甲14)において,次のような記
載がされている。
「山口県下の8病院でグルタラールを使用している112名の医療従事
者に対してアンケート調査を行ったところ,そのうちの97名(86.
6%)が眼刺激を,92名(82.1%)が鼻刺激を経験し,皮膚炎,
頭痛,流涙,咽頭痛,悪心,鼻炎などの副作用の訴えもあった。また,
これらの医療従事者のうち,グルタラールを床・壁の清拭消毒に用いて
いた場合では22名中全員が眼・鼻刺激を経験し,そのうち4名(18.
1%)が流涙を経験するなど,眼・鼻刺激以外の副作用も高度に発展し
ていた。」
(ウ) 被告病院で平成11年1月まで使用されていたステリハイドについ
て,製造業者である丸石製薬は,使用上の注意として次のとおりの記載
をした文書(平成8年3月改訂。乙10)を添付していた。
「A 副作用
皮膚に付着すると,発疹,発赤等の過敏症状を起こすことがある。
B 適用上の注意(使用上の注意)
a 人体に使用しないこと。
b 誤飲を避けるため,保管および取り扱いに十分注意すること。
c 眼に入らぬよう眼鏡等の保護具をつけるなど,十分注意して取
り扱うこと。誤って眼に入った場合には,直ちに多量の水で洗っ
たのち,専門医の処置を受けること。
d グルタラールの蒸気は眼,呼吸器等の粘膜を刺激するので,眼
鏡,マスク等の保護具をつけ,吸入または接触しないように注意
すること。外国において,換気が不十分な部屋では適正な換気状
態の部屋に比べて,空気中のグルタラール濃度が高いとの報告が
あり,換気状態の良い部屋でグルタラールを取り扱うことが望ま
しい。
e グルタラール水溶液との接触により皮膚が着色することがある
ので,液を取り扱う場合にはゴム手袋等を装着すること。また,
皮膚に付着したときは直ちに水で洗い流すこと。
f 微生物で汚染した部屋等を散布消毒する場合(0.5w/v%
液),眼鏡,手袋等の保護具をつけ,マスクをかけ,直接蒸気を
吸入しないよう注意し,短時間(30分以内)に作業を終了する
こと。
C その他
グルタラールを取り扱う医療従事者を対象としたアンケート調査
では,眼,鼻の刺激,頭痛,皮膚炎等の症状が報告されている。ま
た,外国において,グルタラール取扱い者は非取扱い者に比べて,
眼,鼻,喉の刺激症状,頭痛,皮膚症状等の発現頻度が高いとの報
告がある。」
(エ) 平成9年11月29日に開催された第39回日本消化器内視鏡技師
研究会の講演予報集(甲24)において,「グルタラール製剤多用によ
る室内空気汚染とそれに伴う頭痛,咽頭痛,皮膚接触による手荒れ等の
問題点が今後の課題となること,グルタラール製剤には毒性,刺激性,
アレルゲン性があり,飛散により目や皮膚から,また蒸気吸入により気
道から侵入し,医療従事者に対し種々の副作用が生じ問題となっている
ところ,既に英国や米国では医療従事者の暴露防止に対して法令化され
ており,共に最大許容暴露限界が0.2ppmと厳しい規制の中で使用
されているが,日本では基準がなく安易に使用されているのが現状であ
ること,洗浄消毒を充実させたところグルタラールによる気分不快,頭
痛が見られたことから,消毒を確実に行いながらも,スタッフの健康を
損なわない環境を確保していくことが必要であること」等の各報告がさ
れた。