第3 争点に対する判断
1 事実関係等について
(1) 前記争いのない事実等,証拠(甲2,3,13(枝番を含む。以下同じ。),
20,29,31,32,34ないし38,乙1ないし9,証人D医師,証
人C総看護師長,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア原告の業務内容等
(ア) 原告は,平成6年4月1日に被告にアルバイトの看護師として採用され,被告病院において外来処置室での採血,点滴,注射等を担当していたが,平成7年3月から正職員となり,整形外科に配属となって,診察補助などを担当していた。
(イ) 原告は,平成10年5月から午前は整形外科,午後は検査科の配属
となった。
検査科は,被告病院の1階レントゲン透視室(透視室)にある。透視室及び隣接する部屋の間取りはおおむね別紙図面のとおりであり,透視室は,同図面の左端で,廊下と接する扉と隣りの技師室と接する扉があったが,透視室は放射線管理区域であったことから,原則として戸を開放することはできなかった。
透視室の洗面所の上に吸気排気口はあったが換気扇はなかった。
なお,透視室の隣りの技師室の流し台の上には換気扇が一つあったが,後記のような局所強制換気システムではなかった(なお,被告病院では現在洗浄機器を購入し,透視室で検査器具の洗浄は行っていない。)。
検査科における検査は,午後1時ころから午後5時ころまでであり,その内容は,大腸ファイバー検査,PTCD(経皮的胆管ドレナージ),アンギオ(選択的肝動脈造影),ブロンコ(気管支ファイバー検査)等である。各検査の月別実施件数は別紙「原告勤務状況及び病状一覧」の「曝露状況」のとおりである。
検査科における看護師の具体的な業務内容は,透視室で検査を受ける
患者の一般状態の観察補助や各種スコープ等の検査器具の洗浄消毒であ
った。
最も念入りの洗浄消毒が要求されるのは大腸ファイバースコープであり,大腸ファイバー検査は毎週火曜日又は水曜日に実施されていたが,原告が被告病院に勤務していた当時,大腸ファイバースコープは被告病院に1個しかなかったため,1件の検査が終了する度に洗浄消毒を行っていた。
その具体的消毒方法は,使用後に挿入部をガーゼで拭き,送気,送水を約10秒間繰り返し,スコープ全体を3回水洗洗浄するなどした後,ステリハイドをスコープ内に通していた。
また,感染者の患者に使用した場合は,ステリハイドが入っているポリバケツにスコープを15ないし20分間浸していた。
ポリバケツには蓋はあったが,消毒中は密封された状態ではなかった。すべての検査が終了すると,ポリバケツに入っているステリハイドを透視室内の洗面所の下に置いてあった容器に戻し,透視室内の透視台や床をステリハイドを付着させた雑巾で清掃していた。
原告は,このような作業を白衣と同様の生地で作られた長袖の予防着
を着用し,プラスチック製の手袋を2枚重ねて作業をしていたが,後記の症状が出てからは通常の紙マスクをしていた。
被告病院においては,看護師に対し,検査器具の使用方法,消毒方法等について説明を実施し,ゴム手袋を支給していたが,防護マスクや防護ゴーグルなどの防護用具着用の指示をしたことはなかった。