・女性に多い疼痛疾患は?
女性に多い疼痛疾患として、井関氏は次の4つを挙げる。
(1) 片頭痛:片側あるいは両側のこめかみから目のあたりにかけて、脈を打つように「ズキンズキン」と痛むのが特徴。「努力ではどうしようもない痛み」(井関氏)。
(2) 神経障害性疼痛-手根管症候群:親指から薬指の半分に痛みやしびれが生じる特徴的な症状がある。
(3) 神経障害性疼痛-乳房切除後疼痛症候群(PMPS):乳がんを摘出した後に長く残る痛みのこと。
乳房や脇の下、上腕の内側にヒリヒリとした感覚や時折カミソリで切られた
ような鋭い痛みがある。
(4) 線維筋痛症:身体5カ所に3カ月以上続く痛みと、18カ所の圧痛点(押して強く痛みを感じる点)のうち11カ所以上に痛みがある。
これらの症状は世界中の女性で見られるが、「中でも日本人は我慢をしてしまってなかなか医療機関で受診することが少ない」という。
しかし、その我慢は、「生活の質の低下」を招くのはもちろん、「健康」にとってよくないこともある。どういうことだろうか?
市販の鎮痛薬だけに頼るのは危険?
医療機関を受診しない人たちがまず頼るのは市販の鎮痛薬だ。
特に片頭痛に悩まされる人を対象にしたアンケートでは69.4%の人が一度も医療機関を受診せず、56.8%の人が市販薬のみで対処したと回答している(Sakai.F, Igarashi H Cephalalgia. 1997 17(1):15-22.)。
「女性にとって鎮痛薬は身近な存在ですが、飲みすぎると薬物乱用性頭痛を引き起こす場合があります。患者さんは鎮痛剤が頭痛の原因とは思いませんから、さらに鎮痛剤を飲んで悪化するケースがあるのです」(井関氏)。
ペインクリニックを片頭痛で受診した場合、中等度以上の頭痛であればトリプタン製剤を処方されるのがスタンダード。
「市販薬とは違う成分で効果が望めます。適切な処方を受ければ不必要な乱用も避けられます」(井関氏)。
それ以外の3つの疼痛疾患も少しの痛みなら我慢してしまいがちだが、医療機関で受診すれば自己判断よりも確実な医療を施してもらえる。
痛みのメカニズムは2パターンあり
一言で「痛み」と言っても、医学的には代表的なメカニズムが2パターンある。
侵害受容性疼痛:ケガや炎症、潰瘍、骨折、打撲などによって、痛みを伝える神経を刺激する「発痛物質」がたくさん出るために生じる痛み
神経障害性疼痛:神経が切れたり、変成、圧迫されるなど、神経が正常に働いていないために生じる痛み
下の図を参考にしてほしい。
前ページで紹介した女性に多い疼痛疾患のうち、(2)手根管症候群と(3)乳房切除後疼痛症候群(PMPS)はケガなどと違い、神経の働きが不正常なため起こる痛みだ。
これらは目に見える原因がないため、不安になる人も多いという。
「手根管症候群はしびれが起こるので、頸椎が原因だと考える患者さんがたくさんいます。しかし実際は手首にある正中神経が圧迫されて起こるもの。原因が分かれば適切な処置が選べ、しっかり痛みを緩和できます」と井関氏。
井関氏は、受診するメリットとして「原因がわかって安心する」という心理的作用も挙げた。確かに、ずっと痛みを抱えて不安になるより、本当の原因を知って前向きに過ごしたほうが生活の質は上がるだろう。
痛みは「完治」ではなく「改善」をめざす
心と体のために痛みの少ない生活を送りたいもの。下記のような症状があるときは迷わず医療機関を受診したい。
ただし、ペインクリニックを受診すればすぐに完治するとは限らない。受診する患者の中には「ここにくれば痛みがゼロになる」と期待する人も多いそうだが、完全主義はさらに自分を追い込んでしまう。
「ペインクリニックは、痛みをやわらげて痛みとうまく付き合うようにするところ。原因を突き止めるより日常生活に戻るのが最初の目標です。早めの診断と治療であればあるほど解決までの時間は短くなり、治療のハードルも低くなります」(井関氏)。
女性のライフスタイルや生物学的な条件を考えると、すべての痛みをゼロにするのは難しい。
だが、現代の医療にはさまざまな立場の女性に合わせた治療法や薬が整っている。
気になる痛みがあったら我慢せず、医療機関に相談したい。