・出典:化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
・EHP 科学セレクション 2014年11月
脂肪がもっと付き、骨はもっと弱くなるか?
難燃剤はダブルパンチを加えるかもしれないる
ウェンディ・ニコル
情報源:Environmental Health Perspectives, Science Selection, November 2014
More Fat, Less Bone? Flame Retardant May Deliver a One?Two Punch
Wendee Nicole
Wendee Nicole was awarded the inaugural Mongabay Prize for Environmental Reporting in 2013. She writes for Discover, Scientific American, National Wildlife, and other magazines.
http://ehp.niehs.nih.gov/122-A312/
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年11月5日
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ハウスダストは難燃剤への主要な暴露源となり得る。
Finger: c Gunnar Pippel/Shutterstock; TPP molecule: Pillai et al.
ファイヤーマスター550 (FM550)は、ポリウレタン・フォームを含むマットレス、クッション、及びその他のアイテムでの使用のために、有毒で残留性がある難燃剤ペンタブロモジフェニルエーテルの代替物質として2003年に導入された(参照1)。
FM550 は、臭素化フタル酸エステル類と有機リンエステル類の混合物を含んでいる。
2013年に画期的な研究が、FM550への出生前及び出生後の暴露は、ラットに不安、肥満、及び早熟の増大をもたらすことを発見し、これらの化学物質の継続的な使用に懸念を提起した(参照2)。
EHP の本号に、調査チームが、FM550 の構成成分が環境的肥満要因物質として作用し、骨の健康を犠牲にして脂肪生成を刺激するかもしれないという更なる証拠を報告している(参照3)。
コンピュータモデルと受容体結合活性分析を用いて、本研究の著者らは、FM550 のリン酸エステル成分がペルオキシソーム増殖物質-脂肪生成の主制御要素である受容体 γ-に結合し、活性化することを発見した。
FM550 の臭素化成分はそのような作用をしなかった。ラットからの間葉系間質細胞を用いて、彼らはまた、FM550 とその成分であるりん酸トリフェニル(TPP)が脂肪細胞の形成を刺激したことを示した(参照3)。
幹細胞が脂肪細胞に分化する時に、骨と軟骨の形成を犠牲にする(参照4)。
この研究では、FM550 と TPP の両方が骨髄培養系中の骨形成を抑制したが、FM550 は TPP だけより活動を抑制した(参照3)。
著者らは、環境的肥満要素が世界中で 骨粗鬆(そしょう)の蔓延に寄与している可能性があるという仮説を設けている(参照5)。
ハウスダストは、有機リン系難燃剤を高いレベルで含んでおり、それらの代謝物質は人の尿中に広く存在する(参照6)。
著者らは、小さな子どもはハウスダストへの暴露だけで TPP を1日当たり 120 μg を摂取している可能性があると推定している(参照3)。
”この論文中で示されている影響は、著しく高い暴露で起きる。従って、現在の暴露レベルでは、安全のための余裕があるように見える”と、この研究の一部を支援した国立環境健康科学研究所の健康科学者で行政官のジェリー・ハインデルは言っている。
”しかし、もし FM550 の使用が増大して暴露が増えれば、安全の余裕は減るであろう”。
ボストン大学医学部の肥満研究センターのディレクター、バーバラ・コーケイによれば、”FM550 は肥満の流行が始まって以来、我々の環境中に現れた数千の化学物質のひとつなので”、この新たな研究はこの分野にとって重要である。
この研究が提起した重要な疑問は、まだテストされていない他の数千の化合物のうち、どのくらい多くが肥満への小さな影響を持っているのであろうかと言うことである。
コーケイはこの研究に関わっていない。
”これは、有機リン系難燃剤が 骨喪失に寄与しているかもしれないという証拠を提供した最初の研究である”と、ボストン大学公衆衛生学部の准教授で共著者であるジェニファー・シェルジンガーは述べている。
環境的化学物質が肥満の流行に寄与することができるという考えは根拠を得ているが、”環境的な核受容体(訳注1)リガンド(訳注2)の結果が骨の中でどの様に存在しているのかについて考える人はほとんどいない”とシェルジンガーは述べている。
他の研究は、糖尿病薬ロシグリタゾン(rosiglitazone)は、骨折と肥満作用を増大し(参照7)、またトリブチルスズは脂肪生成を誘引し、骨形成を抑制する(参照8)ことを発見した。ヒ素と鉛も骨形成を抑制するかもしれない(参照9、参照10))。
”ある化学物質が骨の形成を抑制することができるということを発見するたびに、私は、一般的な環境汚染物質が骨粗鬆(そしょう)症の発症や悪化に寄与するのではないかと興味をそそられ、懸念するようになった”と、シェルジンガーは付け加えた。
”この研究は、包括的であり、異なる分析評価に多数回、同じ質問を行っているので、よい研究である”と、ハインデルは述べている。
”これらのデータは、TPP が同じ影響をもっと低い用量で引き起こすトリブチルスズに構造的に似ているので、病理学にかなっている”。
次のステップは、拡張され改善されたリスク評価を人の集団に行うことであるとハインデルは述べている。
”これらすべての暴露経路は人にも存在するので、同様な影響が人にも見られる可能性が高い”と彼は述べている。
”実際、トリブチルスズは、今回げっ歯類の幹細胞が用いられたのと同じ方法で人の間葉幹細胞に影響を及ぼすことが示されている(参照11)”。
参照
1. Stapleton HM, et al. Alternate and new brominated flame retardants detected in U.S. house dust. Environ Sci Technol 42(18):6910?6916 (2008); doi: 10.1021/es801070p.
2. Patisaul HB, et al. Accumulation and endocrine disrupting effects of the flame retardant mixture Firemaster 550R in rats: an exploratory assessment. J Biochem Mol Toxicol 27(2):124?136 (2013); doi: 10.1002/jbt.21439.
3. Pillai HK, et al. Ligand binding and activation of PPARγ by FiremasterR 550: effects on adipogenesis and osteogenesis in vitro. Environ Health Perspect 122(11):1225?1232 (2014); doi: 10.1289/ehp.1408111.
4. Janesick A, Blumberg B. Endocrine disrupting chemicals and the developmental programming of adipogenesis and obesity. Birth Defects Res C Embryo Today 93(1):34?50 (2011); doi: 10.1002/bdrc.20197.
5. Sanchez-Riera L, et al. The global burden attributable to low bone mineral density. Ann Rheum Dis 73(9):1635?1645 (2014); doi: 10.1136/annrheumdis-2013-204320.
6. Meeker JD, et al. Urinary metabolites of organophosphate flame retardants: temporal variability and correlations with house dust concentrations. Environ Health Perspect 121(5):580?585 (2013); doi: 10.1289/ehp.1205907.
7. Kahn SE, et al. Rosiglitazone-associated fractures in type 2 diabetes: an analysis from A Diabetes Outcome Progression Trial (ADOPT). Diabetes Care 31(5):845?851 (2008); doi: 10.2337/dc07-2270.
8. Kirchner S, et al. Prenatal exposure to the environmental obesogen tributyltin predisposes multipotent stem cells to become adipocytes. Mol Endocrinol 24(3):526?539 (2010); doi: 10.1210/me.2009-0261.
9. Beier EE, et al. Heavy metal lead exposure, osteoporotic-like phenotype in an animal model, and depression of Wnt signaling. Environ Health Perspect 121(1):97?104 (2013); doi: 10.1289/ehp.1205374.
10. Wu CT, et al. Effects of arsenic on osteoblast differentiation in vitro and on bone mineral density and microstructure in rats. Environ Health Perspect 122(6):559?565 (2014); doi: 10.1289/ehp.1307832.
11. Chamorro-Garcia R, et al. Transgenerational inheritance of increased fat depot size, stem cell reprogramming, and hepatic steatosis elicited by prenatal exposure to the obesogen tributyltin in mice. Environ Health Perspect 121(3):359?366 (2013); doi: 10.1289/ehp.1205701.
訳注1:核受容体
核内受容体/ウィキペディア
細胞内タンパク質の一種であり、ホルモンなどが結合することで細胞核内でのDNA転写を調節する受容体である。発生、恒常性、代謝など、生命維持の根幹に係わる遺伝子転写に関与している。ヒトでは48種類存在すると考えられている。
訳注2:リガンド
リガンド・ウィキペディア
定の受容体(receptor; レセプター)に特異的に結合する物質のことである。リガンドが対象物質と結合する部位は決まっており、選択的または特異的に高い親和性を発揮する。例えば、酵素タンパク質とその基質、ホルモンや神経伝達物質などのシグナル物質とその受容体などが顕著な例である。リガンドの代わりにはたらく薬物がアゴニスト、リガンドのはたらきを弱める薬物はアンタゴニストである。
runより:何か難しい話ですが難燃剤はロクな事にしかならないという結論になりますね。