環境と経済と社会と個人 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・出展;国立環境研究所
http://www.nies.go.jp/index-j.html

・環境と経済と社会と個人


特集 持続可能な社会への転換方策


松橋 啓介


 2013年4月から先導研究「持続可能社会転換方策研究プログラム」の総括を務めています。

2011~2012年度は、プログラムを構成する二つのプロジェクトのうちの1つ「将来シナリオと持続可能社会の構築に関する研究」に参画し、持続可能な社会に向けた叙述的なシナリオを作る研究に取り組んできました。

シナリオとは、現在の意思決定に資するために作られる、将来起こりうるストーリーのことです。

 当初は、社会・経済活動のトレンドを踏まえ、今後起きそうな環境問題を想定し、それらの問題に対応した場合に起きる社会・経済面の影響を考慮したシナリオを検討する、という手順を考えていました。

しかし、こうした手順では、環境問題への対症療法的な対応が社会・経済面に及ぼす悪影響に注目する結果になりやすく、目指すに値する魅力的かつ持続可能な社会・経済シナリオを考えにくいことが分かってきました。

 そこで、望ましい持続可能な社会とはどのようなものかを検討することにしました。環境と経済の両立、これに社会を加えたいわゆる「トリプル・ボトムライン」での持続可能性が良く指摘されています。

また、その実現に向けた制度をあわせた4要素を持続可能な発展指標とする例が見られます。

しかし近年、幸福度や生活の質の向上が政策目標に挙げられていることを参考にして、個人の生活の質の向上をあわせた「環境と経済と社会と個人」の健全な状態が持続可能な発展の目標となると考えました。

こうすることで、わが国の社会・経済活動そのものが持続可能な発展にあわせて転換した姿を検討することを目指しています。

 なお、「環境と経済と社会と個人」は、環境NGOのジャパン・フォー・サステナビリティが日本の持続可能性指標づくりに適用しています。

もともとは、Nature, Economy, Society, Well-beingの頭文字を、4つの方位North, East, South, Westの頭文字に対応させた「コンパス」と呼ばれる持続可能性指標の体系で提案されたものです。

 さて、もう少し詳細にみると、どんな目標が含まれるでしょうか。

正解があるわけではないのですが、多方面の報告書や書籍をレビューして、各3点ずつに絞って整理してみました。

環境では、低炭素、資源循環、自然共生。

経済では、生産性、財政、雇用。社会は、信頼・規範、参加、文化・伝統。個人では、健康、生活満足、自己実現が挙げられます。

 具体的には、高度経済成長期には経済の生産性の向上が第一目標でしたが、現在は財政健全化や雇用確保が課題になっています。

また、個人の生活満足度の向上だけでなく、その基盤となる健康や自己実現あるいは信頼・規範や参加や伝統等も健全性を保つべき目標と言えます。

さらに、こうした目標を持続的に達成するためには、低炭素、資源循環や自然共生の環境面を含めた多面的な目標をバランス良く満たすことが重要になります。

効率性は高いものの不測の事態に脆弱な状態よりも、多様性を有する強靱な状態が求められていると言い換えることもできます。

 ただし、どのようなバランスが望ましいのかを、研究者が決めることはできません。

社会を構成する多様な人々の価値観の違いを踏まえた上で、複数の社会・経済シナリオを考えることが次の課題です。

また、多面的な目標を同時に達成する方策を検討することも重要な課題です。

 持続可能社会研究を確立し、発展させることができるのか、まだ先行きは不透明です。

しかし、長期的な視点で公共政策を考えることは、われわれの強みであり責務でもあろうと考えて、この課題に取り組んでいます。

本特集では、ライフスタイルに着目した研究の一端を「先導研究プログラムの紹介」と「研究ノート」で紹介するとともに、持続可能性の概念を「環境問題基礎知識」で解説します。


(まつはし けいすけ、社会環境システム研究センター環境経済・政策研究室長)