・出展;国立環境研究所
http://www.nies.go.jp/index-j.html
・環境が子どもたちの健康に与える影響を探る
【シリーズ先導研究プログラムの紹介:「小児・次世代環境保健研究プログラム」から】
中山祥嗣
なぜ子どもなのか
近年、化学物質などが人の健康に及ぼす影響についての研究分野(環境保健研究)では、子どもに対する影響が特に注目されています。
欧米などでは子どもに特有の影響を評価するプログラムやそれを専門に研究するセンターが各地に新設されていますし、日本でも2011年に環境省事業として「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」が開始されました。
エコチル調査は全国15カ所の調査拠点(ユニットセンター)で妊婦さんにご協力をいただき、出産後はその子どもを13歳になるまで追跡調査し、環境が子どもたちの健康にどのような影響を与えるかを調査するものです。
国立環境研究所は中心的役割であるコアセンターとして、調査の企画や進行を行っています。
では、なぜ子どもに注目するのでしょうか。
世界保健機関(WHO)が2008年に世界の保健・医療関係者用の研修パッケージを出版し、その中で「子どもは小さな大人ではない」というスローガンを掲げ、子どもの環境保健の推進を促しています。
子どもたちが成長するには健全な環境が必要です。
ここでの健康というのは、ただ病気がないというだけではありません。
WHOは「子どもは小さな大人ではない」とし(表1)、現在のそして将来の子どもたちが成長し、発達し、遊び、学ぶための健全な環境を作り、子どもたちを有害な環境から守ることが、大人たちの使命であると訴えています。
子どもたちが健やかに成長することのできる環境を作ることが、人類という種が、他の生物と共存し長く繁栄するために重要なことなのです。
環境をどうはかるか
私たちが考える有害な環境とは、有害化学物質や物理的傷害、感染に加えて、貧困、栄養失調、児童就労など、子どもたちがその中で成長するすべての環境です。
国立環境研究所では、その中でも特に有害化学物質が子どもたちに及ぼす影響について研究を行っています(小児・次世代環境保健研究プログラム)。
そのときに重要なのが、子どもたちがいつどのくらい有害な化学物質に曝露されているかを、一人一人の子どもたちについてできるだけ正確に把握することです(曝露とは、有害物質などにさらされることをいいます)。
一人一人の曝露と、それぞれの健康状態との組み合わせを解析することで、どのような化学物質にいつどれだけ曝露されると、健康に悪い影響があるかがわかってくるのです。
曝露の評価には様々な手法が用いられます。
私たちの研究室ではプログラムの一環として、血液や尿などの生体試料を分析することで化学物質への曝露量を評価する方法(バイオモニタリング)や食事からの化学物質摂取を推計する調査票の開発、様々な経路(経口、経気道、経皮など)からの汚染物質曝露を推計する数値モデル解析手法の開発などを行っています。