水田農薬の環境中濃度を予測する | 化学物質過敏症 runのブログ

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・出展;国立環境研究所
http://www.nies.go.jp/index-j.html
水田農薬の環境中濃度を予測する


特集 リスク管理の戦略的アプローチ:リスク問題への分野横断による取り組みの重要性
【シリーズ重点研究プログラムの紹介:「化学物質評価・管理イノベーション研究プログラム」から】
今泉圭隆
1.はじめに

 農業を営む上で農薬は必要不可欠のものになっています。

農薬によって、生産量が増えたり必要な作業が軽減したり病気や害虫の被害を防いだりすることができます。

そういった利点がある一方、人や生態系への悪影響が懸念されているのも事実です。

だからこそ、適切な農薬管理が必要であり、決められた使用量や使用方法等の順守や、上市前(市場に出る前)の安全性の評価や、環境中の実態把握が大切になります。

上市前の安全性評価では、人健康影響や生態系への影響を試験等によって評価し、さらに安全を担保するための係数(不確実係数や安全係数)も加味した上で、使用の可否や使用方法などに関する判断を下しています。

例えば、環境省は生態系保全の観点からより適切なリスク管理を行うために「水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準」(以下、水産基準という。)を設定して、それが守られるようにしています。

それでも未知の悪影響が顕在化することや想定外の状況が起きることがあり得るため、環境中の農薬の実態把握を続けることも同時に大切であると考えています。

環境省では毎年農薬の実態調査を実施しています。

ただし、対象農薬や場所を限定して実施せざるを得ないのが実情であり、どういった場所でいつどんな農薬を調査するかの判断が重要になります。その判断に対して、有効な“何か”を提供するためにコンピュータを用いた環境動態モデルを活用したらどうかと考えて研究をスタートさせました。

なお、環境動態モデルや農薬の残留濃度予測モデルの構築と検証の概要については国立環境研究所ニュース30巻5号でも記事を書きましたのでご覧いただければ幸いです。


水田除草剤の環境中残留濃度予測モデルの構築と検証


2.農薬の実態把握
 残留農薬の実態調査は環境省で実施されていますが、モデルの検証や実態の把握のためにはより多くの農薬について複数の場所で同じような条件で調査することが必要でした。

そこで、地方環境研究所や大学との共同で実態調査を実施しました。

ここでは、 2012年の7、8月に全国6地点で実施した河川水中農薬の調査結果をご紹介します。

測定対象とした64物質(農薬とその分解産物)のうち54物質を検出しました。

その中で、水産基準が設定されている28農薬に関して調査結果と関連する情報を表1に整理しました。

 表1では28農薬を出荷量順に並べ、さらに列ごとに高い値から低い値まで赤、黄、緑、青の4色で同数分割しました。

表からも明らかなように、出荷量が多いからといって検出率が高かったり検出濃度が高かったりする訳ではありません。

こういった状況は、農薬の使用量や使用時期が地域によってばらついていることや、環境中での挙動が農薬によって異なることを反映した妥当な結果だと考えられます。

また、水産基準値の高低がその農薬の出荷量を調整するような仕組みにはなっていませんので、水産基準値と出荷量の関連性が低いことも不思議ではありません。

この結果から、実態調査の対象農薬を決める場面で、農薬の出荷量などの単純な指標だけで判断してはいけないということがよく分かりました。




表1 河川から検出された水田農薬リスト(2012年度の結果)

注)出荷量は2010農薬年度(2009年10月~2010年9月まで)の値です。

それぞれの項目で値が高い順から赤、黄、緑、青を7農薬ずつで色分けしています。

ただし、検出率の項目のみ赤が11農薬、黄が3農薬になっています。

(今泉ら 2013環境化学討論会要旨から改変)

 なお、本解析は7、8月のみ実施した調査に基づいておりますが、他年度には春先からの実態調査を行っており、それらの結果でも出荷量と他の指標との関連性は見られませんでした。