・序説
ナノテクノロジーは一般に、分子又は原子のスケール、あるいはナノスケールでの物質製造に向けられる科学又はエンジニアリングの一分野を指す。
ナノテクノロジーは、物理学、化学、生物学、材料科学及び電子工学を含む広範な科学的及び技術的分野から発展した。
ナノテクノロジーの分野は、このように広範であり、多くの物質、技術、科学的及び商業的応用と製品をカバーする(参照1)。ナノテクノロジーから得られる物質はナノメートル(nms)で測定され、一般的に”ナノ物質((NMs)”と呼ばれる。1 ナノメートルは、100万分の1ミリメートルという測定単位である。例えば、DNA 鎖は約 2 nm であり、赤血球は約 7,000 nm 、そして人の髪の毛は概略 80,000 nm である。
図1:サイズの減少に伴い表面積が増大する
ナノ物質(NMs)は一般的に、より大きなサイズの同一化学成分の物質(バルク物質、又はバルク形状の物質とも呼ばれる)とは異なる特性を持っている。ナノ物質の異なる特性は増大した表面積及び”量子効果(quantum effect)”の組合わせに起因する。
物質の表面積はその活性にとって本質的であり、それは化学的反応と生物学的システムとの相互作用が起きる場所である。バルク物質に比べて、はるかに大きな比表面積(specific surfac)又は接触界面積(interface area)、すなわちより大きな質量に対する面積比を持つ。
どの様な物質についても、物質のサイズが減少すると相対的外部表面積は増大し(図1参照)、反応することができる物質の外側により多くの原子を残す。
従って、ナノ物質は一般的に同一質量のバルク物質よりはるかに反応性が高い。
さらに、より小さなサイズという結果として、ナノ物質はヒトの体のような生物学的システムにより容易に移動しやすいかもしれない。
特に、ナノ物質のあるものは、肺、腸、又は脳のバリアを通過することができ、したがって予期しないそして通常ではない暴露を引き起こす(参照2)。
さらに、個別の原子や分子の挙動は、量子力学ベースの枠組みの中で最もよく理解することができる。
量子効果は、ナノ物質に異なる光学的、電子的、熱的、機械的(抵抗/柔軟性)及び磁気的特性をもたらす。
金は一般的に引用される例である。
バルク形状では、このよく知られた金属は黄色である。
しかし、金は、30 nm のスケールで操作されると赤色になり、1~3 nm で操作されると緑色になる。
電子的、熱的、又は磁気的特性のような金の他の特性もまた、物質のサイズに関連して変化するかもしれない。
ナノ物質のあるものは自然界に見ることができるが(例えば、火山の爆発、山火事、又はその他の天然プロセスの結果として)、ナノテクノロジーは、天然の状態では存在しない新たな特性のために特定の物質を操作することを目指す。
ナノテクノロジーを通じて操作された製品は、一般的に工業的ナノ物質又は製造ナノ物質と呼ばれる。
ナノ物質の広い範囲を製造するために使用される技術は、極めて多様であるが、大まかにトップダウン技術及びボトムアップ技術という二つのグループに分けることができる。
ボトムアップ技術は、より小さなサブユニットを組織することにより、機能的構造を製造することを目指す。
これらの技術は、化学蒸着(CVD: chemical vapor deposition)、プラズマ溶射又はフレーム溶射、紡糸、及び自己組織化を含むが、これらに限らない(参照3)。
一方、トップダウン技術は、より大きな物質のユニットから始まり、エッチング又はミリングでそれを望ましい形状の小さなユニットにする。
トップダウンプロセスは、高エネルギーボールミル、エッチング、音波処理、及びレーザー切除を含む。
トップダウンであろうとボトムアップであろうと、それぞれのアプローチは特定のむずかしさを伴う。トップダウン製造の重大なむずかしさは、十分な精度をもってより小さな構造を作り出すことである。
一方、ボトムアップ技術は十分な品質の大きな構造を作ることのむずかしさである(参照3)。
社会に対するナノテクンロジーの潜在的な全体影響は産業革命に匹敵すると言われており、ナノテクノロジーほど多くのコメント、希望、恐れ、そして急進的な陳述をもたらしたテクノロジーは他にほとんどない。
ナノサイエンスとナノテクノロジーは物質についての我々の理解を根本的に変え、社会の全ての分野に深遠な関わりをもたらすように見える。
ナノ物質を織り込んだ製品(一般的にナノ製品と呼ばれる)は、農業と食品、エネルギー製造と効率、自動車産業、化粧品、医療機器と薬、家庭用品、スポーツ用品、衣料品、コンピュータ、そして兵器など多様な分野で、すでに市場に出ている。
この報告書は、ナノ物質の一般的概要(第1章)、健康と環境へのそれらの潜在的な影響(第2章)、ナノ物質及びナノ製品の現在の市場状況(第3章)、そしてナノ物質の管理に関連する規制的取り組みの一般的研究(第4章)からなる。
結論として、ナノ物質を安全に管理するための適切な規制のメカニズムの設計と実施のための勧告が示されている(第5章)。
『南』(Global South)における特別の状況は報告書全体を通じて強調されている。
(続く)