従って、魚介類を多食し、比較的水銀濃度が高い集団での研究では、メチル水銀曝露が子どもの認知機能の発達に影響を及ぼすということが一貫した知見になってきています。
最近は、一般の住民が経験するようなより低い胎児期の水銀曝露でも健康に影響があるかどうかも検討されています。
例えば、アメリカ、マサチューセッツ州で産まれた341人の小児を対象にした研究では、ファロー諸島の研究よりもかなり濃度が低く、対象者の10%だけが毛髪水銀濃度1.2ppmを越えると考えられる集団で検証が行われています。
その際も同様に、魚介類摂取は3歳時点の子どもの発達に好影響を与えるものの、水銀曝露は認知機能へ悪影響を与えていました。
最近の総説論文によると、ファロー諸島やセイシェル諸島などの研究を除いた、比較的水銀濃度の低い集団を対象にした研究(毛髪水銀濃度4ppm未満、臍帯血中の水銀濃度20μg/L未満、または成人の血中の水銀濃度12μg/L未満)を集めて検討しても、一貫して胎児期のメチル水銀曝露が3~6歳時点の神経認知行動学的指標に悪影響を与えると報告されていると述べられています。
よって、水俣の住民はもとより、ファロー諸島やセイシェル諸島よりも更に低い、一般の住民が経験するような水銀濃度でも小児の認知機能の発達に影響を及ぼすことが最近の研究では指摘されてきています。
ちなみに、日本の状況を紹介しますと、日本人男性の毛髪水銀濃度の平均は2.5ppm、女性は1.6ppmと報告されています。
日本は、魚介類を多食する国ですので、上述のファロー諸島やセイシェル諸島の研究を受け、厚生労働省より妊婦さんへの魚介類の摂食に関する注意事項も出されていますが、親子手帳(母子手帳)には記載がなく、どこまで周知されているのかは不明です。上述の耐用摂取量に関しては、日本では胎児影響が疑われる母親の最小値が11ppmとし、不確実係数4を利用し、一週間の耐用摂取量を2.0μg/kg/weekとしています。
上述のEPAの耐用摂取量と比べると現状約3倍高く、また最近の知見を鑑みると、耐用摂取量の基準値の再考が必要になってくるかと思われます。また、最後に、水俣病という重篤な健康被害が生じた国ですが、胎児性患者さんよりも低い濃度の曝露を胎児期に受けた水俣地域の住民の健康影響がどうなったのかは報告されておらず、今後の報告が期待されます。
低濃度水銀曝露の健康影響として、胎児期のメチル水銀曝露による健康影響を紹介してきましたが、その他、低濃度水銀曝露による成人の循環器系疾患への影響も最近の研究では指摘されてきています。
とは言いましても、魚介類は健康にいい不飽和脂肪酸などを含む貴重な栄養源ですので、バランスの取れた食事、特にメチル水銀濃度は低いが不飽和脂肪酸は高い魚介類の摂取というのが、必要になってくるのかと思われます。
参考文献[1-7]:
1. Budtz-Jorgensen, E., P. Grandjean, and P. Weihe,Separation of risks and benefi
runより:水銀と化学物質過敏症に因果関係があるかは分からないのですが体内に残りやすい物は何かしら影響を及ぼすと考えられます。
環境ホルモンもそうですね、次世代の方が影響が大きいです。