法律の施行
遵守義務
効果的な法律では、影響を受ける事業施設と個人喫煙者の双方に遵守の法的責任を課し、違反した場合は罰則を課すべきである。
罰則は事業に課されるものだが、場合によっては喫煙者に課されることもある。
法の施行は通常、事業施設を対象として行わなければならない。
法律ではその事業施設の所有者、経営者、またはその他の担当者に遵守責任を課し、これらの者の取るべき行動義務を明確に特定しなければならない。
この義務には以下のようなものが含まれる。
(a)入口やその他適切な場所に、喫煙は許可されないことを示す明確な標識を掲げる義務。
これらの標識の書式や内容は保健当局または他の政府機関が決めるものとし、一般公衆が違反を報告できるように電話番号やその他の手段を特定したり、施設内の苦情受付係の氏名を特定したりすることもある。
(b)施設から灰皿を撤去する義務。
(c)規則の遵守を監督する義務。
(d)個人が施設内での喫煙をやめさせるため合理的かつ具体的な手順を取って行う義務。
これらの手順としては、その者に喫煙しないように依頼する、サービスをやめる、その者に施設から立ち去るよう依頼する、取締機関または他の当局に連絡するなどがある。
罰則
法律には、違反に対する罰金またはその他の課徴金を明記すべきである。このような罰則の程度は必然的に各国独自の慣行や慣習を反映するが、いくつかの原則を判断の指針とすべきである。
最も重要なのは、罰則は違反を抑止するほど重いものでなければならないことである。
さもなければ罰則は違反者に無視されるか、事業を行うための単なる代償として扱われるおそれがある。
事業者の違反を抑止するためには、通常手持ち資金の尐ない個人喫煙者の違反を抑止するより重い罰則が必要となる。違反を繰り返す場合は罰則を重くし、他の同じように重大な罪に対する国内の処置と整合性を持たせるべきである。
課徴金の他にも、法律で事業免許を停止するなど、その国の慣行や法制度に則った行政処分が認められる場合がある。
これらの「最後の手段としての制裁」はめったに使われることはないが、常習違反を選択する事業に対して法律を施行するためには非常に重要である。
国内の法律および文化的な判断によって適切であれば、違反に対する罰則に刑事罰も含めることを考慮する場合がある。
法の施行のための基盤
法律では法の施行に責任を持つ当局を特定し、法遵守の監視と違反者訴追のためのシステムも含まれるべきである。
監視には、事業が法を遵守しているかどうかを検査する過程も含まれるべきである。
禁煙法を施行するために、新たな検査制度を制定することが必要となる場合はめったにない。
それよりむしろ、普通は事業施設や職場の検査のためにすでに整備されたひとつまたはそれ以上の手段を利用して、法の遵守を監視することができる。
このためには、通常様々な選択肢がある。多くの国では、法遵守の検査は、営業許可検査、保健衛生検査、職場の健康と安全のための検査、防災安全検査、または類似したプログラムに統合されている場合がある。
このように情報収集源をいくつか同時に用いることが有益な場合がある。
可能であれば、地方自治体レベルの検査官または法執行官を用いることを推奨する。
これによって、法の施行のために利用できる人的資源が増え、遵守のレベルも高まる可能性が高いからである。
このような取り組みを行う場合は、国内調整機構を設置し、全国で一貫性のある取り組みを確実に実施することが必要となる。
どのような仕組みを利用するにせよ、監視は全体的な施行計画をもとに行わねばならず、検査官の効果的な訓練過程もそれに含まれるべきである。効果的な監視を行うため、定期的な検査と予定外の抜き打ち検査とを組み合わせたり、苦情に応じて訪問したりすることもある。法律の施行直後は、不注意による違反がほとんどであるため、かかる訪問には教育的効果もある。
検査官が法に基づいて施設内に立ち入り、サンプルを集め、証拠収集する権限が既存の法律によって定められていない場合は、法律によってこれらの権限を検査官に与えるべきである。
同様に、企業が検査官の任務を妨害することを法律で禁止すべきである。
効果的な監視費用は法外なものではない。検査は既存のプログラムや人員を使って遂行することができ、禁煙法はすぐ自己規制力を持つようになる(すなわち大部分が一般公衆によって取り締まられるようになる)ことが経験上分かっているため、大勢の検査官を雇う必要はない。
法律が慎重に実施され、企業や公衆を指導するために積極的なプログラムがなされていれば、検査官は数人ですむ場合がある。
これらのプログラムに多くの費用はかからないが、企業を指導し、検査官を訓練し、検査過程を調整し、規定労働時間外の事業検査の人件費をまかなうためには資金が必要である。
このために、資金調達の仕組みを明らかにしておかねばならない。
効果的な監視プログラムには、特別税、事業免許料、違反者の支払う罰金の特別税化など、様々な資金源が利用される。