ロシアの農薬工場におけるダイオキシン被曝と子供の性比 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

・出典:食品・薬品安全性研究ニュース
http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzensei.html
・ロシアの農薬工場におけるダイオキシン被曝と子供の性比
Sex ratios of children of Russian pesticide producers exposed to dioxin

 塩素含有化合物の製造に携わっている労働者は, 残留性の高い塩素化ジベンゾ-p-ジオキシン (PCDD) や塩素化ジベンゾフラン (PCDF) を常に浴びる危険に曝されている.

ダイオキシンの副作用はかつて急性毒性や発癌に焦点が当てられていたが, イタリア Seveso の化学工場で起こった1976年の事故による TCDD 被曝者の子供の65%が女児であったこと, およびこの事象は父親の被曝に関連することが判明したことから, 近年は発生毒性や生殖毒性に関与していると考えられるようになってきた.

しかし, オーストリアの化学工場労働者,台湾の PCB 汚染油症患者, ベトナム戦争で枯葉剤散布に関わった米国退役軍人および米国の殺虫剤製造者を対象とした疫学調査では子供の性比への影響はみられていない.

また一方, 1992年ロシア Ufa の化学工場労働者についての小規模な調査では出生児の性比については調べられていない.
 Ufa は, ヨーロッパ東端, ウラル山脈西側のロシア Bashkortostan 共和国にあり, Khimprom と呼ばれる農薬製造プラントが1940年代前半から操業していた.

1961~1988年に600人以上の労働者が木材防腐剤 2,4,5-trichlorophenol (TrCP) および殺菌剤 hexa-chlorophene や除草剤 2,4,5-trichlorophenoxy acetic acid (2,4,5-T) の中間体を製造していた.

また, 250人以上が1964~1967年の約2年間にわたり 2,4,5-T の生産に従事していた.

労働者の多くは20代前半の青年であったが, 若い女性も 2,4,5-T および TrCP の製造に携わっていた.

2,4,5-T 製造が中止されてから25年後の1992年に血液を採取し, 工場労働者および Ufa 市住民およそ60人の男女・子供を調べた結果, 2,4,5-T の製造に従事していた人の TCDD および PnCDD 被曝は著しく, TCDD の血中濃度は同年代対照群の30倍以上であった.

本研究では血中ダイオキシン濃度のデータを追加し, 調査対象者の勤務歴や出生児数・性などについて, 工場の資料と本人または近親者の供述との照合を行い 2,4,5-T および TrCP 製造労働者の子供の性比について調査した.
 これら労働者の血中ダイオキシンレベルは, この地方および世界中の通常レベルより1~2桁高く, ダイオキシン被曝を証拠づけた.

調査対象者の出生男児比は0.40で全世界の0.512とは統計的に差があった.

血中濃度でみたダイオキシン被曝の程度は父母で差がなかったが, 母親の被曝では男児比が0.51と正常であり, 父親の被曝ではこの比が0.38と両者に差が認められた.

大がかりな血中濃度測定と出生児数をまとめた本調査では, Ufa の農薬製造に携わった男性労働者の男児出生率は低下を示した.

出生男児比は全世界で安定して約0.51であり, Ufa および近隣地域の1959~1996年の値も同様である.

父親の若い時期でのダイオキシン被曝やダイオキシンのアンチアンドロゲン作用による精子運動能の低下などが出生男児比低下の原因と考えられるが, 蓄積性のない塩素化フェノールやフェノール系殺虫剤もこの原因候補であり, 化学物質のヒト生殖に及ぼす影響を理解するにはさらに研究が必要である.

Environmental Health Perspectives 110: A699-A701 (2002)
Ryan JJ1, Amirova Z2, Carrier G3
(1カナダ保健省 健康食品部, Ottawa, Canada; 2Bashkortostan 環境保護センター, Russia; 3Montreal 大学 環境労働保健, Quebec, Canada)