・出典:食品・薬品安全性研究ニュース
http://www.jpha.or.jp/jpha/jphanews/anzensei.html
・環境化学物質と自己免疫疾患: 原因と影響
―1995~2001年の皮膚科情報ネットワークからの調査結果―
Environmental chemicals and autoimmune disease: cause and effect
自己免疫異常との関係が考えられている薬剤は多数あり, エリテマトーデスと関連するものは70種以上ある.
WHO は, ほかの環境要因と自己免疫異常との問題をまとめている (WHO Guideline Document, 2000).
芳香族アミンおよびヒドラジン:薬物関連エリテマトーデス (DRL) の原因とされている薬物の多くは, 芳香族アミンやヒドラジンである.
ヒドラジンとその誘導体は, 農工業用製品やタバコなどに含まれ, 喫煙者における全身性エリテマトーデス (SLE) の高リスクや, 硫酸ヒドラジンを扱っていた研究技術者がエリテマトーデス様の疾患を患った事例がある.
タートラジン (FD&C 黄色5号) は, 多くの食物や薬剤に含まれるアゾ色素で, 喘息, 蕁麻疹, 血管性浮腫や免疫疾患の一因であると指摘されており, タートラジンを投与された患者にエリテマトーデス様の疾患が認められた. 毛髪染料基材である芳香族アミン類のパラフェニレンジアミンは, 動物実験で結合組織の異常を引き起こし, 高用量または長期間曝露では, 強皮症様障害を引き起こす. この物質とヒトの SLE の関連には論争があり, 未決着である.
シリカ:シリカ塵曝露は, SLE や強皮症などの危険因子である.
シリカ曝露による結合組織疾患での自己抗体発生が多数報告されており, シリカ塵の非特異的なアジュバント効果によると思われる.
また, シリカによる微小血管内皮細胞や末梢血単核細胞, 皮膚線維芽細胞の活性化が, 強皮症発生に関係すると思われる.
塩化ビニル:塩化ビニル [モノマー] に曝露された人に強皮症, さらに肢端骨溶解が発生している. ヌクレオチドと結合した塩化ビニル酸化代謝物は, より高い反応性を示すことが知られている.
有機溶剤:有機溶剤である芳香族と塩素系溶剤は, 強皮症のような結合組織の疾患と, トリクロロエチレンは, 強皮症や好酸球性筋膜炎との関連が報告されている.
ヘキサクロロベンゼンは, 好酸球と単核細胞の一部に炎症性の脂肪化を起こし, 1950年代には約4,000人が肝性ポリフィリン症になったことが知られている.
可塑剤:エポキシ樹脂の重合に使用する新しいタイプの可塑剤であるシクロヘキシルアミンが原因であると考えられるモルフェアと呼ばれる限局性強皮症が誘発されたとの報告がある.
その他の薬剤:プロカインアミド, d-ペニシラミン, クロロプロマジンおよびイソニアジドが強皮症を起こすことが知られている.
また, ベリリウム曝露により免疫関連性肺疾患になることが知られており, コカインの乱用では, 強皮症や皮膚アレルギー性血管炎のような結合組織の疾患と似たような症状を呈し, コルヒチンは筋症の原因となり, エオジンは光感受性発疹や接触皮膚炎の原因となる.
金属:一部の金属への慢性的な曝露は, ヒトおよび動物に対して免疫複合体腎疾患を引き起こす.
金は, 腎臓疾患の他, 好中球, 単球およびリンパ球の機能に影響を及ぼし, カドミウムをラットに長期投与すると膜性糸球体腎炎を引き起こし, これも免疫系複合体によるものである.
また, マウスでは, 抗核抗体が産生されるとの報告もある.
水銀は, マクロファージ, 多形核白血球およびT-リンパ球に影響を及ぼすことが動物実験において報告されており, 高感受性ラットでは, さまざまな免疫複合体が糸球体腎炎を引き起こすこと, マウスおよびラットにおいて認められるこれらの自己抗原は, ラミニン1, フィブラリンまたは核ヒストンであることが示唆されている.
水銀は, 体内タンパクのメルカプト基に作用してタンパクの分子そして抗原特性を修飾する.
プリスタンは, しばしば天然油中の夾雑物として認められ, 近交系マウスに対して自己抗体を産生しエリテマトーデス様疾患や腎疾患を引き起こす. これはまた, 免疫系を非特異的に活性化する.
これら多くの化学物質は, ヒトおよび動物の免疫系にさまざまな方法で影響することが多くの研究によって明らかにされてきたが, その主な作用機序は大きく分けて以下の6種を挙げることが出来る.
1. 薬物がポリクローナルなB細胞を活性化することによって自己抗体を産生し, 抗原特異的な免疫反応が誘発される.
2. 薬物が, 免疫または他の細胞に直接毒性を示すことにより免疫機能を障害するか細胞内物質が放出され, それに対する自己抗体が産生される. 3. 薬物と細胞成分間に相似構造があるとき, おそらく薬物と生体分子の抗原決定の共有化によって交差反応が起る.
4. 薬物が遺伝子活性を変更する調節因子に直接作用する. 環境物質によってT細胞の DNA メチル化を妨害することが報告されており, これによって自己攻撃T細胞や自己免疫疾患が誘発される.
5. 薬物が自己タンパクと結合することによって抗原構造と機能を変化させ, 自己免疫反応を誘導する潜在性抗原決定基が顕在化する.
6. 薬物がフリーラジカルを発生させることによって炎症性反応を起こす.
なお, 今後の自己免疫疾患調査に関する課題は, 自己免疫疾患をより記述的でより正確に同定および定義すること, また各症例が環境物質の曝露に関連した疾患である可能性が示唆された場合は, その関連性について疫学的, 医学的さらに学術学的に調査研究する必要があり, さらに, その基準や分類には常に新しい情報を追加, 見直しおよび再評価をしていく必要がある.