・二段階のプロセス
もしキリングスワースに何が起きているのかを理解することができる人がいるとすれば、それはサンアントニオにあるテキサス大学医学の環境健康の専門家である医師クラウディア・ミラー(Claudia Miller)である。
彼女は、彼女が毒物誘発性耐性喪失症(toxicant-induced loss of tolerance (TILT))と呼ぶ現象を研究している。
毒物(toxicant)はダースバン(クロルピリホス)のように人工の毒(poison)を指すが、一方、毒素(toxin)は、クモの毒液のように生きた細胞や生物によって生成される天然の毒を指す。
毒物誘発性耐性喪失症(TILT)には二段階あるとミラーは言う。
最初は、感受性の高い人が単一又は複数の毒性曝露を受けた後に病気になる。
しかしその後は、回復せずに神経系や免疫系のダメージが残り、その人はよくならない。
受難者は日常生活で一般的に使用される広範な化学物質に対する耐性がなくなり始める。
アメリカおよび海外における最新の研究は、感受性に対する神経学的設定点が下がるよう脳の処理機能が変更されていることを示唆している。
現在この病気になっている人は化学物質暴露に対して非常に感受性が高くなっている。
そのような人は、元の火事がおさまった後の火事場のようなものである。残り火はまだオレンジ色に輝き、ちょっとしたことによっても燃え上がる状態にある。
毒物誘発性耐性喪失症(TILT)の人々は時とともにますます反応するようになり、そのうちに日常的な化学物質のちょっとした気配や、確立された毒性レベルよりはるかに低いレベルで自分自身が反応することに気が付く。反応する化学物質はしばしば、構造的に関連性がなく、その範囲は、浮遊分子から通常の薬剤やサプリメント、ローション、洗剤、石けん、印刷物、チョコレート、ピザ、ビールのようなかつては好物であった食物にまで及ぶ。
曝露の結果は、心臓系や神経系の異常、頭痛、膀胱障害、ぜんそく、落ち込み、不安、消化器系障害、認識能力の低下、睡眠障害など、驚くほどの様々な症状をもたらす。
非常に多くの物質が、これらの重複する反応を引き起こすように見え、また誰でもが全く同じ物質に反応するわけではないので、原因と結果をあぶりだすことは難しい。
そして最近までこれらの人々はそれぞれ、極度に神経過敏に見える状況を説明しながら、多くの異なる専門家の診察を受けていた。
化学的に不耐性な患者が1980年代に初めて医学専門家の注目を浴びるようになった時、彼らの症状は、”多種化学物質過敏症(MCS)”と呼ばれ、研究の導火線となるのに十分な物珍しさがあった。
しかし、これらの研究は決定的なことは何も発見することがなく、脳の中で起きている実際のプロセスを見ようと考える人はいなかった。
彼らは、患者に隠された状況、すなわち患者は何に暴露させられているのか分からない、又は実際には臭いは全く存在しないのに有害な臭いが存在していると告げられるという状況で、患者を臭いに暴露させる検査を行った。
患者らはしばしば、一貫した反応を示すことができなかった。
体から毒素を取り除く免疫メカニズムである解毒化経路に関する研究はごく少なく、ある曝露に苦しんでいる患者らより報告されている難解な機能不全に、どのようにして雪だるま式に拡大して行くのか、研究は決して説明することができなかった。
免疫学的異常は調査されたが、どの様な研究も全体的に一貫してこの症状に関連付けることはできなかった。
数十年間、これらの患者たちは精神的な病気であるとして捨て置かれていた。
もしあなたがスーパーマーケットの洗剤コーナーでハニカムマスクをつけた人を見かけたら、もし彼らがあなたの好きな柔軟剤のにおいが彼らを病気にすると言ったなら、もし彼らがあなたの香水が頭痛ととぜんそくを引き起こすと言ったなら、そして、カーペット店が意識混濁、興奮、憂鬱を引き起こすと言ったなら、あなたの反射的な反応は、”あなたは病気だけれど、多分それは精神的なものネ”というものかもしれない。
毒性時代の科学
しかしこの病気を研究している科学者らにとって、その見解は変化しているが、それはミラーの飽くことのない研究と彼女の画期的な発見によるところが大きい。
400人の初期治療患者に関する2012年7月の研究(よく知られた家庭向け医療誌 Annals of Family Medicine にミラーと同僚らによって発表された)によれば、慢性的な健康問題がある人々の22%は、何らかの程度、化学物質不耐性に苦しんでいる。
それは5人に1人以上であり、もし有毒な曝露を浴びすぎると毒物誘発性耐性喪失症(TILT)になりやすいとミラーは言う。
”化学物質不耐性は広く発症しているのにまだ認められていないという事実は、初期治療にあたる医師たちにとって重要なことである”と、ミラーの同僚でこの研究の主著者である医師デービッド・カターンダールは述べている。”一方で化学物質を避ける単純な治療アプローチが極めて効果的かもしれないし、他方で在来治療(アレルギー注射や免疫抑制)ではうまくいかないかもしれない。
このことは、我々はこれらの患者に対する臨床的パラダイムを変えなくてはならないということを意味する”。
この新たな研究は、QEESI (Quick Environmental Exposure and Sensitivity Inventory:無料で http://familymed.uthscsa.edu/qeesi.pdf から利用できる)と呼ばれる50の質問の目録に基づいている。
QEESI は、ディーゼル、塗料シンナー、食品、柔軟剤など、一般的原因物質に対する過敏性を分類する。
それは深刻な毒物誘発性耐性喪失症(TILT)になりやすい5人に1人を選び出すのに非常に効果的であり、それはスウェーデン、デンマーク、日本及びアメリカで実証されている。
しかし、個人の生活が重大な影響を受けるのは深刻な毒物誘発性耐性喪失症(TILT)であるとミラーは懸念する。
”私は、研究の中で何らかの慢性的な健康異常のために初期治療クリニックを訪れる人々の6%以上が、 彼らの症状と、QEESIからの化学物質及びその他に対する不耐性スコアーに基づけば、TILTの影響をひどく受けていることを見つけて非常に驚いた。大きく影響を受けるということの意味は、彼らが深刻な慢性健康症状を持っていることであり、彼らは一般的な化学物質、食物、医薬品に対する過敏性に高いスコアを示した”とミラーは言う。”他の15.8%は、平均値よりは高いが、中程度に影響を受けていた”。
ミラーの使命は、彼らの生活を破綻させる毒性曝露に突っ込む前に、網の中の魚のようにこれら感受性の高い人々を把握することである。
彼女は QEESI が、患者が記入する典型的なフォームとともに標準的な方法となることを を望んでいる。
”TILT は、我々の現代的な毒性時代にユニークな純粋に新たな疾病を言い表している”とミラーは言う。”人々は全生活において耐えられるはずであった化学物質とその暴露に突然耐えられなくなる。
それがTILTであることの証明書である。私が助言してきたある人々は、それを動詞として使用して、tilted(過敏症になった)と言った”。