・出展;国立環境研究所
http://www.nies.go.jp/index-j.html
・大気汚染物質を含む環境汚染物質が免疫・アレルギーに及ぼす影響とその作用機構の解明
特集 大気汚染の現状と健康影響評価
【シリーズ先導研究プログラムの紹介:『小児・次世代環境保健研究プログラム』から】
柳澤 利枝
大気汚染物質とは、大気中に存在する有害な物質および物質群の総称です。
高度経済成長期の日本では、工場や自動車などから排出される硫黄酸化物や窒素酸化物、あるいは窒素酸化物や揮発性有機化合物が、紫外線を受けて光化学反応を起こすことで生じる光化学オキシダントなどによって大気汚染が進行し、これらの物質による健康被害は大きな社会問題になりました。
その後、工場などの煙から出る煤塵や、ディーゼル車の排気ガスに含まれる黒煙に由来する粒子状物質(Particulate Matter; PM)による呼吸器疾患への影響も報告されました。
さらに、都市部における自動車交通量の急増は、浮遊粒子状物質による大気汚染を深刻化させました。
中でも、2.5μm以下の粒径の小さい大気中粒子状物質はPM2.5と呼ばれ、肺の奥まで入りやすいことから、喘息や気管支炎などを起こすリスクが高いことが報告されています。
最近では、より粒径の小さいナノサイズの微粒子である「ナノ粒子」や、大気中でオゾンや光化学反応による酸化によって生じる「二次生成粒子」などによる健康への影響が懸念されています。
加えて、大気汚染が国境を越えて周辺の国や地域にまで拡大する「越境大気汚染」の影響も注目されています。
一方、近年、小児を中心に、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、花粉症、アレルギー性喘息などのアレルギー疾患が急増しており、その原因としては、大きく遺伝要因と環境要因の2つが挙げられます。
しかし、遺伝的な変化が短期間に、なおかつ多くの人に普遍的に起こるとは考えにくく、私達を取り巻く環境要因、つまり、居住環境、食環境、あるいは衛生環境などの急速な変化が、アレルギー疾患の増加につながっているのではないかと考えられています。
実際、アレルギー疾患の罹患率は、開発途上国に比べて先進国で高いことが疫学研究で示されています。
ここで、アレルギーが起こるメカニズムについて少し説明したいと思います(図1)。
アレルギーは、人に備わっている防御機構である免疫反応が、本来無害な物質(花粉、食物、ダニなど)に対して過剰に起こる状態を言います。
アレルゲン(アレルギー反応をひき起こす原因物質)が体内に入ると、まず樹状細胞などの抗原提示細胞に取り込まれ、ヘルパーT(Th)細胞という細胞にその情報を提示します。
これにより、活性化されたヘルパーT細胞は、Th1細胞、あるいはTh2細胞に分化します。
Th1細胞は、IFN-γやIL-12などのサイトカインと呼ばれる液性タンパクを産生し、主に細菌やウィルスなどを攻撃、破壊します。
一方、Th2細胞から産生されるIL-4やIL-13といったサイトカインは、B細胞からのIgEやIgG1という抗体の産生を促し、同じくTh2細胞から産生されるIL-5というサイトカインは好酸球という炎症細胞を活性化します。
このTh1とTh2の両者は、互いにバランスを取りながら免疫機能を制御していますが、遺伝要因や環境要因などによりそのバランスが崩れて一方が過剰に活性化すると、様々な免疫疾患を引き起こします。
一般的に、アレルギー疾患はTh2反応が過剰に起こる状態を言います(図2)。
図2 Th1/Th2バランスとアレルギーとの関係